見出し画像

千年寝た勇者と千年後の旅物語ⅩⅦ


一泊した後、俺達は次の街へと向かった。

「「「「「で?」」」」」
「へ?」

プロクスを出発したはいいが……何故かついて来るリザ。

皆で振り返って問い掛ければ、リザ本人は硬直する。

「お前、何時までついて来んだよ」
「べ、別について行ってる訳じゃない!アンタ達がアタシの行く先に居るだけさ」
「……あっそ」

まぁ、気にしないでおくか。

「それで、次は何処に向かうの?」
「かつて、街そのものが巨大庭園とも言われた街……『ボーデン』」
「『ボーデン』……」
「巨大庭園……」
「其れは凄く楽しみなのだ」
「今はどうなってんか知らねぇけどな」

……もし管理してる奴が居なけりゃ、枯れてるか自生してとんでもねぇ事になってんだろうなぁ。

「途中近道すんぞ」
「近道?」
「おう。ラビリントの森を通る」
「ラビリント……?其れは若しや、迷いの大森林か?」
「「「「迷いの大森林?」」」」
「おう、よく知ってんな」

ツバキの言葉に首を傾げるシロ達+リザ。

「其処は変わってねぇんだな……ラビリントの森は昔からその複雑さから迷いの大森林って呼ばれてんだよ。で、探索魔法がなきゃ二度と出れねぇってなってる」
「「「なってる?」」」
「そういう風にしたんだよ……ボーデンで待ってるだろう奴がな」
「「「「!」」」」
「まぁ、そんな訳だからアリス。念の為、お前にも探索魔法教えるぞ」
「うん、分かった」
「で、迷わねぇ様に印すんぞ」
「「「「印?」」」」

俺の言葉に一喜一憂するシロ達に思わず笑った。

「もし逸れても俺かアリスが迎えに行ける様に目印付けんの」
「成程~」
「例えば?」
「此れ」
「「「「あ」」」

俺が前にお揃いにしたストラップを見せれば、シロ達も其々出す。

「で、此れ同士を繋いで……印はどんなのにするかな……」
「……!あ、ねぇ”桜の花”なんてどうかな?」
「!賛成!俺も桜の花がいい!」
「……ぇ」

ニールとシロの言葉に思わず目を瞠った。

……この時代じゃ桜の花なんざ滅多に見ねぇのに……しかも何でよりによって桜?

「あー……桜な」

取り敢えず桜の花を刻む。

そして、リザに振り返った。

「てか、お前もついて来んのか?」
「……アタシは平気。コレあるし」
「!」

リザが取り出した物にまた目を瞠る。

「其れ何?」
「名前は知らない。ただ、ババ様は迷った時に使えば出口まで導いてくれると……」
「特性羅針盤」
「特製?」
「製品じゃなくて、性質の方な。普通の羅針盤は方向を示す物。其れは持ち主の目的地を示す物」
「だから特性なんだ」
「というか、詳しいね」
「……俺が作って、ナギに渡したんだからな」

……懐かしいな。

「取り敢えず……森に入る前に一仕事、だな」
「!」
「うわぁ」
「大量……」
「クロモテモテ」
「俺かよ……俺だなぁ」

迫って来る魔獣の群れ。

俺達は其々構えた。

「……シロ!」
「え?何?」
「今から俺が言う事を繰り返せ」
「う、うん」
「“焔よ 我が声に応えよ”」
「えっと“焔よ 我が声に応えよ”」
「“我が前に立ちはだかり愚かなる敵を”」
「“我が前にたちはだかる愚かなる敵を”」

気付けば何も言わなくても目を閉じて集中するシロ。

「“浄化の炎を持って焼き払え”」
「“浄化の炎を持って焼き払え”……!!」

シロの双剣……片方から炎、片方から光が飛び出し、其れが絡まって魔獣を一掃する。

「「「……凄っ」」」
「凄い!必殺技みたい!」
「だと思っていいぞ」

やっぱ、シロは炎と光が混ざってんな。

シロは……多分、シロトとホムラの……

《子孫、だろうな。血は大分薄まっているだろうが》

だとしても、シロにも資格があるだろうな。

他に分かってんのはリンドウの子孫のツバキ。

そして、ナギの子孫とかいうリザ。

彼奴にそっくり故に子孫だろうアリス。

ニールから出たノエルの名前……

《関係者の子孫が多いな》
「……そうだな」
「?」
「!」
《もし、出るとしたら後は……》
「アヴニール……」
「呼んだか?」
「っ!!」
「え?」
「誰?」

懐かしい声に視線を上げた。

木の上に一人の青年が座っている。

「森の側で大規模の炎の魔法が起きたと思って見に来れば……何故私の名前を?」

青年は俺達の前に降り立った。

「あ、俺はブラン。皆からシロって呼ばれてるよ」
「私はアヴニール。先程の魔法は君か?」
「うん、そうだよ。クロに教わったんだ」
「クロ……私の名前を当てた、君か。興味深いな」

……親友の声に名前が同じ男、か。

「……俺の事はクロって呼んでくれ。悪ィがお前の名前を当てたんじゃなくて、俺の親友の名前なんだ」
「親友?そうなのか……改めて私はアヴニール・リーヴル・クリオシア」

うわぁ、全部一緒だ。

「ラビリントの森に住んでいる」
「「「「「え」」」」」」

まさか、ラビリントの森に住んでる奴が居るっつーのは意外だったわ。

「俺達はラビリントの森を通ってボーデンに向かう予定だ」
「ボーデン?もしかして不思議の庭の事だろうか」
「不思議の庭?」
「ラビリントの森の更に奥にある、近付けない庭園の事だ。何故かあそこには誰も近付けない。だから、私達は不思議の庭と呼んでいる」
「…………」

……アヴニールなら出来るだろうな。

俺なんかよりもよっぽど才能あったんだし。

「……私達はラビリントの森の道案内人。一先ず、私達の村まで案内しよう」
「へぇ、あの迷いの大森林に案内人なんていんのか」
「移住した先祖の言葉だ。何時かこの森に大事な友が来る。その時の為に案内人が居た方が良いと」
「…………」

……侮れねぇな。

「その者は“クロ”と名乗るらしい」
「…………」
「く、クロ!?」
「ど、どうしたの!?」

どんだけ読んだんだよ……

思わずその場に頭を抱えてしゃがむ。

本当に彼奴は……!

「という訳で案内する」

歩き出すアヴニール。

シロ達は顔を見合せ……

「取り敢えず行こうか」
「!」

俺はシロとツバキに腕を掴まれ、其れに続く事になった。





「成る程。彼が件のクロ殿か。ゆるりと過ごされると良い」
「……どーも」

アヴニールの案内でラビリントの森を進み、あっさりと村に着く。

其処で村長に会わされた。

「不思議の庭の前までは、引き続きアヴニールに案内させよう……だが、流石だな」
「流石?」
「アヴニールは我が六兄弟の末っ子」
「「「「ろく……」」」」
「代々兄弟の中で、先視が最も優れた者が“アヴニール”の名を継ぐ。血は大分薄れ、先視能力も衰えていったが……アヴニールは無意識に感じ取り、其れに体が動く。だから、クロ殿達を迎えに行けたのだろう」
「…………」
「一先ず今晩は我が村にお泊まり下さい」

という事で、俺達は村に一泊する事に。

「……ノエル、ホムラ……アヴニール、ナギ」

彼奴等は俺の為に魔物化を選んだ。

俺のやりたい事は知っていたから。

「……アリア、シロト。お前達は……」
《……クロ……》
「……考えたって仕方ねぇか」
「何が考えても仕方無いんだ?」
「!」

振り返ると、アヴニールが立っている。

「……先祖の伝承では、友人は戦いに人を巻き込むのを嫌がった」
「…………」
「戦いも一人で赴き、其れを騎士団が追い掛けていた。ほぼ一人で戦いを制した……だから、唯一無二の勇者とあった」
「何が言いてぇ」
「何故、彼等と共に行く。輝石集めも、魔獣との戦いも君だけでこなしそうなものだが」
「…………さぁな」
「君は何故、シロと名付けて供に」
「余計な詮索は寿命を縮めるぞ」

殺気を向け、アヴニールの言葉を止めた。

「お前には関係ねぇ」
「…………」

黙り込むアヴニールを置いて、俺は部屋へと向かう。

……申し訳ねぇとは思うさ。

俺の事に巻き込んでな。

だが……必要な事だ。




To be continued.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?