科博

自然史博物館とはどんなところ?(2)

馬渡駿介(北海道大学名誉教授)

博物館は多機能多目的施設です

博物館を訪れた人の目に入るのはたくさんの展示です。様々なコンセプトにしたがってモノが並べられ、説明文が添えられています。入館者は展示物をながめ(時には手で触り)、説明文を読むことで何かを知ることが出来ます。したがって一般に博物館は展示施設だと思われています。あるいは、何かを知る、つまり知識を得るわけですから、教育施設とも呼べます。教育ではなく、「普及」という言葉を使うこともあります。普及とは、「一般家庭にエアコンが普及する」「新理論を普及する」などと使われるように、「行き渡らせること」です。つまり、展示・教育・普及が入館者の目線からみた博物館の姿です。しかし、博物館には他にも役割があります。博物館は本来、多機能、多目的の施設なのです。

博物館には三つの役割があるとされています。展示、教育、普及はその三番目に位置づけられています。第一は、資料の収集・整理・保管、つまり先回でふれた「実物資料=過去のモノ」を集める役割です。第二はそれらの資料に基づく研究です。三つ葉のクローバーで簡単にあらわせば、標本、研究、展示の三つです。

四つという人もいます。その場合、第一役割の資料の収集・整理・保管を二つにわけ、第一は資料の収集、第二が資料の整理、保管となります。この場合、研究は第三番目、展示、教育、普及は四番目の役割となります。

自然史博物館の役割

この博物館の構造を理解するために、他の類似施設と比較してみましょう。比較するのは、東京のど真ん中乃木坂にある国立新美術館と、北九州にかつてあったテーマパーク、スペースワールドです。これらは実物資料=過去のモノを持ちません。国立新美術館は世界中の様々な美術館から美術品を借用し、それを展示して入館者に見せる施設です。ちなみに国立新美術館の英語名は The national Art Center, Tokyoで、Museumという語が使われていません。テーマパークであるスペースワールド SPACE WORLDには、宇宙ロケットなどが展示されていますが、それらのほとんどはレプリカ、つまり非実物資料です。

博物館とセンターとテーマパーク

北九州市立いのちの旅博物館の上田恭一郎館長は、日本の博物館の歴史について次のように記しています。
「博物館は日本では明治以降に欧米から導入された輸入概念,社会組織であり,その変遷については多く の論議がなされているが,大きく見ると教育博物館としての役割が主体であり,上記の 4 つの項目のうち(注:彼は博物館の役割を四つに分けています) 4 番目の展示・普及教育に力点が置かれてきた.他方欧米の博物館では前述したように収集,保存,研究といった項目が歴史的に機能しており,この違いが今日まで日本の博物館に大きな影響を与えている. 日本の博物館は 1871 年湯島の聖堂内の展示館として,欧米に遅れること約 100 年後にスタートしたが,資料を収集し,それらをもとに欧米型の博物館活動をすぐに展開するということは不可能だった(上田恭一郎2018、博物館が昆虫学にはたしてきた役割。昆蟲(ニューシリーズ),21(1): 59–69, 2018)」。 

次回は自然史について考えます。