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「行かないとダメって言われて行く投票にどんな意味があるんだろう?」高校生たちと話しながら考える、#私たちの選挙

NHK取材ノート

初めて選挙の投票に行ったのは2年前、大学4年生のとき。

「選挙には行かないとダメですよ」

いつも優しい先生にものすごい剣幕で言われたので行ってきた。

でも義務感だけで意味もわからず投票に行ったので、結局その後も政治は私から遠いまま。

そんな私が、今NHKのディレクターとして、次の衆議院選挙で若者の投票率を上げるキャンペーンの取材をしている。

先生にもう一度聞きたい。

「投票の意味ってなんですか?」

選挙報道が苦手です

私はコロナ禍の去年、2020年4月にNHKに入った2年目のディレクターです。今は衆院選に向けて若い世代の投票率を上げる取り組みを取材しているんですが、選挙報道は正直、あまり好きじゃありません。

編集作業3n

入局してから1年半、NHKや他のメディアの報道を見ていてもなんか感覚が合わないな、、と思うことがありました。

特に投票率については「どうすれば上がるか」という議論ばかりで、上がらないのは若者のせいみたい。でも政治や選挙の話の中心に若者やマイノリティとされる人々はほとんどいない、どこか置いてけぼりにされている気分を感じていました。

私はそこに入れなかった

置いてけぼり気分は学生のころからありました。

大学では学園祭の運営をするサークルに入りました。

「私も2トントラック乗り回したい!工事現場みたいにたくましくステージ設営やってみたい!」

実際、女子校のときはみんなで重たいひな壇を運んでテントを設営し、みんな分け隔てなく一緒に作業していました。

大学サークル時代切り出し

でも大学のサークルでは、

「女子がいると作業効率が落ちるからね」
「女の子の顔にケガしたら大変なことになる」

女子だからというだけで、したい仕事をさせてもらえない。

任されたのは街頭でのパンフレットの配布作業。女性の方が受け取ってもらいやすいから…というわけです。

そんなことからジェンダーの問題に関心を持つようになりました。卒論で戦前から戦後にかけての女性の労働環境の変遷を調べると、工場で男性の隅に置かれた彼女たちの心境は「私と同じだ!」と思ったり。

憧れの先生がいた

実は私はもともと社会科の教師を目指していたんですが、それは中学生のときの社会科の先生との出会いがありました。冒頭で「選挙に行かなきゃダメですよ!」と私に言った先生です。

小柄で大きな黒板の前を“縦横無尽”に動く姿が印象的で、歴史への思い入れが熱すぎてハアハア息を切らしながら、

「さてみなさん、人類はいつから下着を履いていたのでしょう?下着の起源を知っていますか?」

とか型にはまらない問いかけには歴史への愛を感じました。

中でも先生の忘れられないことばがあって、

「“神様”の言うことでも、そのまま信じなくていいんですよ」

つまり偉そうな人たちから押し付けられているものをそのまま受け入れる必要はないんだ、と。そのころ女子校で下着の色からカバンのかけ方まで、すごく厳しい校則に縛られていた15歳の私は、解放された気持ちになりました。

その先生に教育実習のときに久しぶりに再会して、飲みに行きました。当時の授業のこととか受験指導とか、思い出話に花を咲かせていました。

社会科プリント・リサイズn

初めて投票に行きました。行きましたけど!

その飲みの席で選挙の話にもなりました。

2週間後に参議院選挙が控えていたからだったと思います。

私が「住民票が実家にあるので選挙のためだけに帰るのは面倒だし、結果も大体わかりきっているから投票には行く気になれない」っていうことを軽い気持ちで話したら、それまで楽しく話していた先生の形相が変わりました。

「投票には行かないとダメですよ」

理屈とか頭に入ってこなかったんですが、そのときのとにかく怖くて真剣な表情だけははっきり覚えています。

2019年7月21日の参議院選挙、21歳の私は初めて投票に行きました。

先生にことばに従って投票しましたが、ものの数分で終わってしまい、

一票の価値ってこんなもんだっけ…

あまり実感はわきませんでした。

選挙の結果も興味ありませんでした。私が投票した候補が落選したことも、正直、この原稿を書くまで忘れていたぐらいですから。

投票に行かないとダメ、って言われたので行きました。

でも今振り返って、あの投票にどれだけの意味があったのでしょうか?

「ムダかどうかは自分で決める」

コロナが蔓延し始めた去年、運よくNHKのディレクター職に就くことができました。オンライン研修、同期の顔も十分知らないまま、東京の制作現場に配属されて、去年、ディレクターとして初めて自分で企画・制作したのが「脱コル」の特集です。

広告・ムダかどうかはn

「脱コルセット」のことで、女性たちに押し付けられた「らしさ」のイメージや固定観念といった束縛を、「コルセット」に見立てて脱却しようという取り組みです。

女性は化粧をしておしゃれをする、体毛は処理するものといった「女性らしさ」の押し付けが女性の生きづらさを生んでいるという。

私自身、中高時代から太っていることにコンプレックスを抱き、化粧や体毛の処理は身だしなみとしてしなくてはならないという呪縛に囚われていました。

でもSNSには「化粧やめた」「脱毛やめた」「髪を剃った」などと、固定観念に抵抗して「脱コル」を実践する女性たちがいました。彼女たちとじかに話して取材する中で、私も呪縛から解放された気分でした。

この取材を進める中で、ハッとさせられたメッセージがありました。

ムダかどうかは自分で決める

ある剃刀メーカーが、あえて脇毛を見せている女性の写真を使って渋谷の街に展開した広告のキャッチコピーで、「脱毛しないと汚らしい」という従来イメージの広告への反発を込めたメッセージでした。

「脱コル」を実践する女性たちは押し付けられた固定観念に対して、自分たちで考えて行動しているのに、あのとき先生に「投票には行かないとダメですよ」と言われるままに投票に行った自分には、自分の考えはあったのだろうか?

義務感だけで意味もわからないまま投票に行っても、結局政治は遠いままなのではなかったのではないか。

「選挙に興味ない」子たちがすごかった

今回、衆議院選挙にあわせて高校生たちの「投票率向上キャンペーン」を取材しています。

取材対象は練馬区の高校3年生の選択授業です。最初「高校生の提案で投票率を上げる企画をするんです」と聞いたときは「ザ・生徒会」みたいな子たちの取り組みかと思っていましたが、イメージと違いました。

授業での生徒たちnote用

授業のメンバーは女子6人、男子2人で服装はラフ、髪型もそれぞれ個性的。「NHKだからTシャツにロゴ書かれてたらモザイクかけられるー」とか騒いでいる。そんなことないけど。

8人中、6人は今度の衆院選で選挙権があるということなので、授業前に投票への意気込みについて聞いてみると、

「行かないです。興味ないです」
「余裕があれば。ほかの用事押してまでいかない」
「家族が行くので、ついでに行こうかなと」
「ひまだし、政治少し好きだから」

大人たちがいう「投票は義務として行かないと」という発想は彼女・彼らにはなく、なんかけだるそうだし選挙への意欲も関心も薄いし、本当にこの企画成立するんだろうかと不安になりましたが・・・

全く問題ありませんでした。

選挙ラテ2n

生徒たちは練馬区の選挙管理委員会に、こんな提案を出しました。

そもそも選挙になんか行く気がないから、どんなに理屈でうだうだ言われてもダメ。もっと直感的でないといけない。

私たちが好きなことといえば、「カフェ巡り」や「インスタ映え」。なら投票して特別なラテが飲めたらいい。

だから投票所近くのカフェでラテアートを提供する。そしたらインスタで拡散してもらえる。投票記念の証明書は写真を撮りたくなるおしゃれなシールにして、「映える」フォトスポットも作る。

選挙の投票はカフェ巡りの“ついで”でもOK。

どれもこれも突飛すぎるように感じましたが(私には)、でもインスタで「#選挙」は少ないけど「#カフェ巡り」の検索は1000万件を超えています。

身近な「好き」を入り口にして友達にもシェアしてもらおうという発想は、高校生自身の肌感覚に合った実用的なものでした。

投票できないのに行動する彼女、なのに私は

デザインを見る高校生note用

生徒たちは企画の立案だけでなく実現に向けても、自分たちで考えて進めていきました。

「ラテアートはデザインができてたら75日はかからないと思うけど、生産間に合うかな…」
「選管の人に提案する前にデザインあった方がいい」
「うん、その方が説得力ある」
「日本語で“投票”って書いてもそそられない。英語だとかっこよくできるが、日本感ださないといけないし、そのあんばいが難しいね」

交渉する高校生note用

ラテアートを発案した女子生徒たちは、実際のカフェの担当者との交渉でも、具体的な提案を次々に出しました。

「ココアパウダーとステンシルプレートを使ってデザインできたらと思って、練馬なので馬をモチーフにしてデザインしたシルエットと、選挙に関する文字の型を作って効率よく作れたら」
「練馬区のツイッターで広報するので集客にもつながると思います。私たちの方でもインスタを運営しているチームがあるのでそちらでも投稿します」

2人の女子生徒の真剣なプレゼンに、カフェの担当者もしっかり耳を傾けていました。

「私たちの目標は若者投票率の向上なので、できれば作った型を協力カフェに配って同じ企画にすることが、全体にとっていい結果になると思うのですが、大丈夫でしょうか?あとラテの値段、ダメ元なんですけど、もうちょっと安くなりませんか?高校生となると出せてワンコインなので、通常610円のところを500円でなんとか!」

こんな大胆な”値引き交渉”まで成立させてしまった高校生のパワーには驚きました。

ラテ1リサイズn

実は交渉した女子生徒のひとりは選挙権を持つことができません。両親は海外出身で、日本国籍がないからです。その子が言いました。

「投票することだけが、すべてではないですよね。上からの圧力で“投票に行きなさい”とか、“あなたも意志を持たないとダメだよ”という半分脅しみたいなことばではなくて、若者が選挙を身近に考えて、政治に気軽に関われる環境を作っていくのが大事だと思います」

投票ができなくても自分で考えて社会と政治に参加している彼女と、投票権があるのに「投票してもムダだ」と決めつけて、何も考えていなかった私。

「“神様”の言うことでも、そのまま信じなくていい」と先生に教わったはずが、私はいつの間にか先生を「神様」にしてしまっていたようです。

投票に行くこと以上に、政治について考える時間やプロセス、人との出会いが私にとっては大事なこと。

投票の結果がどうだったとしても、そのアクションが「ムダかどうかは自分が決める」。

投票することは、そこに至るまでの出会いや思いの“厚み”をぶつけることなのかもしれません。

そう思うと今週末の10月31日、今度の衆議院選挙は前より少し確信を持って投票に行けると思います。私自身の変化を受け入れながら、私が生きたい社会にしていくために。


篠塚茉莉花 ディレクター

篠塚さん写真切り出しnoteサイズ

コロナ禍の2020年入局。フルリモート研修を経て東京初任。2021年11月から大阪局。東京では「女性らしさ」などの固定観念に抵抗する女性たちや、被害だけでない側面も含めた戦争の継承について取材し、リポートを放送。仕事後に食べる刺身と辛口の日本酒が至福のとき。

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【篠塚ディレクターの取材記事はこちら】

【特集の見逃し配信はこちら】

篠塚ディレクターが担当した特集「SNSで若者が行きたくなる選挙を」は、下の画像をクリックするとNHKプラスで閲覧できます。配信は11月1日までです。

おはよう日本



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