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2021年3月の記事一覧

「命を救うため、決して破ってはならない規則を破った」10年以上前の告白を確かめに行った記者、彼が聞いた真相とは

「命を救うため、私はルールを破った」 その話を彼から聞いたのは、記者になって4年半が過ぎたころ、仙台でのことだった。誰よりも空の安全を守ってきたはずの男の告白。ただ「本当は墓場まで持って行くつもりだった」という話を、私はどう扱っていいか分からず、書くことができなかった。 それから11年余り。外務省担当の記者になった私は、「極秘」の指定が解けて公開された「天安門事件」に関する外交文書を見て、驚いた。 これはあの時、彼から聞いた話ではないのか…。 私は意を決して、すでに引

死に慣れて、いいはずがないのに

初めて目の前に現れた津波は、波ではなく、巨大な水の塊だった。 その塊は、コンクリートの壁を乗り越え、暴力的な強さと勢いを持つ激流となって、町に流れ込んでいった。 直前までそこにあった生活の証し、家や店など町並みだったものが粉々に破壊され、木材のかけらや、捻じ曲がった金属片になりかわった。 そして、多くの人の命が奪われていった。 ついさっきまでいた場所。 現実感がわかないまま、カメラを回し続けた。 これは、記者になって3年目、突然、ひとり災害取材の最前線に放り出された私の

「ごめんなさい 救助のヘリじゃなくてごめんなさい」

「来ていますよ、津波。来ている、来ている! 川を上って来ていますよ! 正面」 それまで冷静だったパイロットの緊張した声で、カメラを前方へと向けると、名取川を津波が遡上してくる様子が確認できた。 午後3時54分。ヘリの映像が、テレビで生中継され始める。 白波がザーッと川を上ってくる様子の撮影を続けていると、再び前方の席に座るパイロットと整備士の叫び声がした。 「海、海、海。もっと左、左、左」 カメラマンの座席は後部右側。真ん前や左側はよく見えない。指示された側にカメラ