「言葉はいかに人を欺くか」を読んで

ウォータールー大学教授、シェフィールド大学名誉教授のジェニファー・M・ソールによる「嘘をつくこと」「ミスリードすること」についての道徳的な意義を問いかける一冊。本書は、これまで暗黙的に考えられ、言語哲学において整理されてきた「言われていること」「言うこと」を振り返りながら、「嘘をつくこと」「ミスリードすること」を問うためには、どのような「言われていること」「言うこと」の定義が出発点となるのか、と言うことから考えていきます。ここでは、様々な事例から、どのような定義であれば、嘘とミスリードを区別できるのかということを検討してきます。一見単純なように見える「嘘をつくこと」「ミスリードすること」の区別が、実は複雑、かつ、厄介な問題である、ということが、同じ発言を異なる状況で言ったとき、どう考えられるのか、ということを見ていくことで、明らかになっていきます。言語哲学の領域で議論された内容を踏まえた著者の「言われていること」の定義、嘘とミスリードの違いなど、言葉によって、いかに人の印象が操作されるのか、感情が操作されるのかが克明に描き出されます。本書は、「犬笛」戦術について、著者が分析した論文も収録されており、本書の内容をさらに深く、嘘とミスリードから広がる言語の問題を詳しく記述しています。著者によって描き出された言葉をめぐる様々な概念は、現代の問題を分析するための道具になると思いました。

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