「台所に敗戦はなかった」を読んで

食文化研究家の魚柄仁之助氏による戦前、戦中、戦後に作られてきた家庭料理を通して、当時のリアルな台所事情を描き出そうとする一冊。本書では、明治から、昭和までの期間で、実際に婦人雑誌で取り上げられた料理を通して、日本の台所、庶民の生活の場を考えていきます。実際に、魚柄氏が当時のレシピを見ながら、料理を再現し、料理の味に対する感想や、レシピから当時の社会情勢を読み取ったり、料理から様々な世の中の姿が見えてきます。戦前から、戦中、戦後と、社会が推移していく中で、情勢の変化がレシピにどういった変化をもたらしたのか。当時を生きる人々の工夫や逞しさ、そして、ユーモアといった、様々なことが読み取れていきます。本書は、そういった社会情勢であったり、文化史を克明に描いています。また、本書は、洋食がどのように日本食として受け入れられていったのか、ということもレシピから見えてくることを明らかにしています。そこには、生活者の工夫の柔軟さ、度量の広さといったものを感じさせるものがあります。本書は、主だって語られてこなかった社会史が見えてくる面白さがあります。

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