「生きることの近世史」を読んで

歴史学者の塚本学による日本の近世から近代に至るまでの日本に住んで人々の生きる環境や知恵を見ていく一冊。本書で描出される人々は、歴史に名を残した偉人や何か名の残る事件に関わった人ではなく、普通の日常を送った人々です。そのような人たちの日常を詳細に検討することで、いわゆる国家の歴史として描かれた歴史ではなく、人々の生きた歴史を辿ることで、普遍性のある歴史を描こうとします。それぞれの時代で、生きるための努力をどのように凝らしてきたのか、そのことを考えることで、各時代ごとの時代差が見えてきます。本書では、16世紀から19世紀という近世の日本の人々の生きる努力、工夫などを見ていくことで、その狙いを達成しようとしています。人々の生きる環境が、どのような経緯で誕生し、その中でどのように人々は生きるために努力をしてきたのか、ということを、本書は数々の資料とともに迫っていきます。戦乱の世から続いた16世紀の人の命が軽く扱われていた時代に、人々はどのように生きていたのか。19世紀になり多く発生した災害、病の流行の中で、生きていた人々。その時々で、人がどのようにして、生き残ろうとしていたのか、ということを本書では明らかにしようとします。その過程から、その時代から現代への連続性というものが見えてきます。本書は、そのような時代の連続性であったり、普遍性といったものを強く感じさせる一冊です。

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