見出し画像

小説「転職王」第五話 高級料理店 葵屋

佐藤健二の物流改善プロジェクトにおける成果が、物流業界誌等のインタビューや講演をする機会を増加させた。

世間に露出すると、人材獲得しようとする企業の目にも触れることから、健二には転職の誘いが頻繁に舞い込むようになった。

転職先斡旋先の待遇は、現在の佐藤健二の1.5倍〜2倍の年収を提案するものであることから、毎週末エージェントと会って話をする健二であった。

親友との再会

それらの企業の中に、古巣である磯野商事の経営企画室 室長補佐の案件があったため、健二は磯野商事を辞めた後も年数回会っている親友の栗原 保(クリハラ)を焼肉店での飲みに誘った。

佐藤:「クリハラ、最近さかんに転職の話がきているんだ。磯野商事からも話があってさ。最近どうよ。」

栗原:「まぁ、そんなこともあるんやな。健ちゃん、どうするつもりや?」

佐藤:「まだ決めてないけど、どこも待遇が魅力的なんだよね。でも、今の会社での仕事も楽しいし、迷ってる。中でも、磯野商事の話は気になっているんだ。」(玲奈と再会するチャンスもあるかもしれないし)

栗原:「せやなぁ、健ちゃんがどこで働いても、ええ仕事できるのはわかってるけど、磯野商事に戻るのも考えるやろな。」

佐藤:「うん、戻るかどうかは別として、クリハラとまた一緒に働けるのはアリだなぁと思ってる。」(そして、玲奈とも…)

栗原:「ほんまやな。でも、健ちゃん、磯野商事では最近いろんな問題起こってるんやで。」

佐藤:「えっ、本当に?どんなことが?」(興味津々)

栗原:「社内不正なんかの不祥事が続出してて、社内がごっちゃになってるねん。でも、あのパワハラ上司の鈴木課長はパワハラ訴えられて退職したから、ちょっとは働きやすくなったかもしれへん。」

佐藤:「そうなんだ。それは良かったね。でも、混乱しているところに戻るのはちょっと悩むな。」(もっと早く辞めてくれれば、ずっと磯野商事に居たんだろうな。でも全ては終わったことか…)

栗原:「そやな。健ちゃんには正直、今の状況で戻ってくるのはお勧めできへんかもしれん。大事なのは、自分がどんな環境で働きたいのか、どんな仕事に価値を感じるのか、じっくり考えることやで。」

佐藤:「うん、そうだね。色々考えたいことがあるし、もうちょっと時間かけて考えよう。参考になったよ、クリハラありがとう。」

栗原との会話を通して、健二は磯野商事の現状を知り、どんな環境で働きたいのか、どんな仕事に価値を感じるのか、改めて考える機会を持つことができた。


転職先の検討

引くて数多になった佐藤健二は、候補のうち魅力的な案件を、
①これまで培ったデータ分析や物流改善のスキルを活かすことができるポジション と
②これまで経験してこなかった分野や技術を学ぶチャンスがあり、新しいスキルを獲得できる魅力的なポジション
の2種類に分類してみた。

データ分析や物流改善のスキルを活かすことができる

  1. グローバル物流大手の経営戦略部門マネージャー: 年収1100万円

  2. 有名自動車メーカーの物流最適化プロジェクトリーダー: 年収1000万円

  3. スタートアップ企業のCOO(最高執行責任者): 年収1500万円

  4. リーディングデータセンター運営企業のインフラ最適化チームリーダー: 年収950万円

  5. ロボティクス企業のサプライチェーン管理部門ディレクター: 年収1300万円

  6. 環境技術企業の省エネルギー物流プロジェクトマネージャー: 年収900万円

  7. 人気ECサイト運営会社の物流・配送部門副部長: 年収1000万円

  8. スマートシティ開発企業の都市物流ソリューション部門責任者: 年収1100万円

  9. 国際空港の貨物取扱企業の物流最適化プロジェクトマネージャー: 年収800万円

  10. 人工知能開発企業のデータ分析チームリーダー: 年収1200万円


経験してこなかった分野や技術を学ぶチャンスがあり、新しいスキルを獲得できる

  1. ドローン物流会社の運用・戦略部門マネージャー: 新技術のドローンを活用した物流システムの経験 - 年収850万円

  2. 仮想通貨取引所のリスク管理部門ディレクター: 仮想通貨市場に関する知識とリスク管理スキルの獲得 - 年収1100万円

  3. スペースデブリ除去企業のプロジェクトマネージャー: 宇宙開発に関わる技術や管理スキルの獲得 - 年収950万円

  4. ゲノムデータ解析企業のデータ解析部門リーダー: 生物学・ゲノムデータ解析のスキル獲得 - 年収700万円

  5. テレメディシンサービス企業の物流部門責任者: 医療業界の知識とテレメディシン技術の習得 - 年収800万円

  6. 高級料理店のサプライチェーンマネージャー: 高級食材の調達やサプライチェーン管理に関する知識の獲得 - 年収600万円

  7. バイオプリント企業の物流最適化プロジェクトマネージャー: 3Dバイオプリント技術や業界の知識習得 - 年収1000万円

  8. ブロックチェーン技術を利用したサプライチェーンソリューション企業のプロジェクトリーダー: ブロックチェーン技術の習得 - 年収900万円

  9. ゲーム開発会社のプロデューサー: ゲーム開発プロセスや業界の知識獲得、プロデューサースキルの習得 - 年収750万円

  10. スマートグリッド導入コンサルティング企業のエネルギー物流コンサルタント: エネルギー業界やスマートグリッド技術の知識習得 - 年収1200万円


全体的な傾向として、既存のスキルを活かせる近い業種・業態ほど待遇は良く、最先端のスキルを新しく獲得できる案件は前者より待遇は少し落ちることが見てとれました。

佐藤健二は2ヶ月間悩み、自分のスキルを活かしながら、新たなスキルを獲得できる会社を選びました。
今までの磯野商事、月王、モンド物流よりも小さい会社ですが、高い役職なので年収も今までより1割増えました。

高級料理店 葵屋

佐藤健二は高級料理店である葵屋のサプライチェーンマネージャーを選びました。
これまでの物流業界での経験を活かし、サプライチェーン管理に携わることには自信がありました。また、人の生活で大きな要素である食に関心があり、高級食材の調達を知る良い機会と考えました。

佐藤健二は本社で経営陣や部下となる松野淳一への挨拶と、一通りの手続きを終えた後、早速現場を見に行きました。葵屋は全国に10店舗あり、売上No.1は恵比寿店であるので、恵比寿店店長の話を聞きに行こうと考えたのです。
佐藤(ニコリと微笑んで):「初めまして、佐藤健二です。これからサプライチェーンマネージャーとしてお世話になります。よろしくお願いします。」

南野(冷ややかな態度で):「ああ、初めまして。南野 貴子です。店長をしています。」

佐藤(心の中で):(美人だな、しかもスリムでスタイルも良い…。でも、なんだか態度が冷たいかも。)

佐藤:「これから一緒に働くことになる松野さんとは、もうお会いしましたか?」

南野:「うん、さっき挨拶に来てくれたわ。」

佐藤:「良かった。彼と一緒にサプライチェーンの改善に取り組みたいと思っているんです。」

南野:「まあ、やってみないと何とも言えないけどね。期待してるわよ。」

佐藤(心の中で):(うーん、彼女はどうやら僕に興味がないようだ。でも、僕も仕事に集中しないと。)

その後、佐藤は南野に案内されて店内を見学し、仕入れ先の共存青果の岩本 和樹と初対面した。

岩本:「初めまして、共存青果の岩本 和樹です。これからよろしくお願いします。」

佐藤:「こちらこそ、よろしくお願いします。食材の調達や品質管理について、どのような取り組みをしているか教えていただけますか?」

岩本:「もちろんです。私たちは、厳選された生産者から直接仕入れを行っていますし、品質や鮮度を確保するために、最適な保管方法や輸送手段を検討しています。」

佐藤は岩本から学ぶことが多く、新しい職場での仕事に意欲を感じ始める。一方で、南野の態度に悩みながらも、仕事を完遂するために彼女との関係を改善する努力をし続けることを決意した。

現場での試練

佐藤健二は部下の松野 淳一と共にサプライチェーンの改善に取り組み始める。彼らはまず、仕入れから運搬、保管までの工程を洗い出し、問題点を特定しようとする。

松野:「佐藤さん、僕が調べたところ、運搬コストがかなり高いようですね。」

佐藤:「そうだね。それに、運搬中に品質が落ちることも問題だ。もっと効率的な方法を見つけないといけないね。」

佐藤と松野は、運搬ルートや保管方法を見直すことで、コスト削減と品質の向上を目指す。
一方、南野の態度は相変わらず冷たいままだが、佐藤は彼女との関係を気にかけつつも、仕事に集中することに専念する。

ある日、南野が佐藤に声をかける。
南野:「あのさ、佐藤。あんたと松野、最近何か企んでるんでしょ?ちょっと教えてよ。」

佐藤:「えっ、いや、企んでるわけじゃないんですけど…。ただ、サプライチェーンの改善を進めているだけで…。」(呼び捨てかよ)

南野:「ふーん。まあ、いいけど。ただ、あんたらが何か失敗したら、私が困るんだからね。」

佐藤は南野の言葉を受け止め、彼女が心配していることも理解し始める。そんな中、佐藤と松野の改善プロジェクトが着実に成果を上げ始め、運搬コストの削減や品質の向上が実現される。

次第に、南野の態度も変わり始める。
南野:「佐藤、松野。あんたたちのおかげで、店の利益が上がっているみたいね。ありがとう。」

佐藤:「いえいえ、こちらこそ。これからも一緒に頑張っていきましょう。」(少しは協力的になってくれたので良かった)

佐藤と南野の関係は少しずつ改善の兆しを見せていた。
そんな中、大きなトラブルが起こる。

南野:「 ほんまに、岩本さん、新しい野菜の仕入れ先との取引でこんな失敗するなんて、困りますわ。仕入れ数量の桁を間違えた上に、キャンセル依頼したら、高額なキャンセル料が発生するなんて、どないしてくれはるんですか?」

岩本: 「申し訳ございません、南野さん。僕が不注意でした。なんとかしてこの状況を打開できないかと考えているところです。」

佐藤:(南野さんキレると京都弁になるんだな。怖いかも)「岩本さん、南野さん、ここは落ち着いて対処しましょう。キャンセル料が発生するのは確かに問題ですが、別の需要家への売却を検討することで、キャンセルの量を減らして損失を最小限に抑えられるかもしれません。」

南野:「そんなことできるんですか?どないやって?」

佐藤:「まず、他のレストランや小売業者に連絡を取り、この野菜の良さについて説明しましょう。それから、特別価格を設定して売却することで、相手も喜ぶはずです。」

岩本:「佐藤さん、すごいアイデアです。ありがとうございます。すぐに連絡を取り始めます。」

南野:「 まあ、おかげさまでどうにかなりそうですわね。佐藤さん、ありがたいです。」

佐藤(やっと、さん付けになったぞ!):「 南野さん。困ったときはお互い様ですから。」

その後、佐藤の提案通り、岩本は他のレストランや小売業者に連絡を取り始めました。特別価格を設定し、多くの企業が興味を示し始めたため、キャンセル料の問題は解決の道筋が見えてきました。

松野(感心して): 佐藤さん、本当にすごいですね。こんなピンチの時に冷静に対処できるなんて。

佐藤: ありがとう、松野君。ただ、冷静になることも大事だけど、困った時にはチームで助け合うことが一番大事だと思うんだ。

南野(素直になりつつも、まだ嫌味を込めて): まあ、今回はおかげさまで助かりましたわ。これからも、佐藤さんには色々とお世話になりそうですわね。

佐藤(うれしそうに): これからもお互い協力していきましょうね、南野さん。

南野の態度が少しずつ変わり始め、佐藤との関係も徐々に良好になっていきました。チームとして助け合い、物事を前向きに捉える佐藤の姿勢は、南野にも影響を与えたのです。

南野 貴子

佐藤健二と南野 貴子は新しい取引先との交渉を目的に、香川県へ小豆島のオリーブ油製造会社を訪れることになりました、

佐藤:「南野さん、出張の予定、詰め込みすぎじゃないですか?ちょっと息抜きも大事だと思いますけど。」

南野:「ええ、そうやねん。せやけど、せっかく瀬戸内海に来たんやから、ちょっと美味しいもんでも食べに行きたいと思ってん。」

佐藤:「それは良い考えですね。どんなお店に行きたいんですか?」(ご機嫌な時も京都弁が出るのかな)

南野:「瀬戸内海の食材を使った料理が美味しいと評判のレストランがあるんや。ちょうど、うちのお店でも瀬戸内の食材を使った新メニューを考えてるから、参考になるかなって。」

佐藤:(確かに仕事の役に立ちそうだ)「なるほど。じゃあ、行ってみましょう。」


瀬戸内海の食材を使ったレストランでのディナー

佐藤:「この鯛、本当に美味しいですね。さすが瀬戸内海の食材です。」

南野:「そやろ?これ、うちのお店でも使えるかもしれんな。」

佐藤:「確かに。これは試す価値ありますね。仕入れが決まったオリーブオイル使ったカルパッチョとか美味しそうです。」


翌日、骨付鳥の店にて

佐藤:「これが香川県の名物、骨付鳥ですね。美味しそうです。」

南野:「うん、スパイシーでアルコールが進む味やね。」

佐藤:「この骨付鳥のスパイスの使い方は、うちのお店でも使えそうですね。高級料理店にはちょっと味が強すぎるので、何かアレンジを加えて。」

南野:「そやね。ちょっと考えてみるわ。」


金刀比羅宮

佐藤:「南野さん、商談が順調に行って思ったよりも早く仕事が終わりましたね。せっかく香川県に来たんですから、帰る前に観光地にも寄ってみませんか?」

南野:「そやね。せっかくやし、どこか行ってみたいわ。」

佐藤:「じゃあ、有名な金刀比羅宮に行ってみましょうか。」

南野:「ええ、せっかくやし、行ってみようか。」

(金刀比羅宮に到着)
佐藤:「ここが金刀比羅宮ですね。あれだけの段数の階段上がるのは大変でしたけど、ここからの景色、なかなか良いですね。」

南野:「うん、なんか癒されるわ。」

佐藤:「せっかくなので、おみくじでも引いてみましょうか。」

南野:「そやね、縁起もんやし、引いてみよう。」

(おみくじを引く)
佐藤:「僕のおみくじは……小吉ですね。まあまあですね。」

南野:「私は……大吉や!めっちゃ良いことあるかもしれんな。」

佐藤:「おお、それは良かったですね。良いこと起きますよ、きっと。」

二人は金刀比羅宮で楽しいひとときを過ごし、さらに親密な関係になりました。南野も佐藤のことを少しずつ意識し始めていたのです。

帰りの飛行機

佐藤:「今回の出張、本当に有意義でしたね。香川県は素晴らしい場所でしたし、仕事にも役立つ情報をたくさん得られました。」

南野:「そやね。骨付鳥も美味しかったし、瀬戸内海の食材を使ったレストランの料理も素晴らしかったわ。」

佐藤:「そうですね。これからも一緒に色んな場所に行って、お互いに刺激を受けていきたいですね。」

南野:「そうやね。佐藤さんと一緒に出張に行くのは、楽しいし、勉強にもなるわ。」

佐藤:「南野さんもお付き合いいただいて、ありがとうございます。」

南野:「いえいえ、こちらこそ。」


二人は、これからの仕事やプライベートについて話し合い、更に心を通わせることができました。香川県での出張を終え、新たな気持ちで仕事に取り組むことを誓い合ったのです。


婚約と転職

新たな機会

2年後、37歳になった佐藤健二と31歳の南野貴子は結婚することを決めました。交際期間を経て、二人の呼び方も徐々に親密になっていました。

健二:「貴子、僕たち、いい夫婦になれそうだね。」

貴子:「そうやね、健二。これからもずっと一緒にいたいわ。」


ある日、健二は以前物流副部長のポストで転職オファーがあった人気ECサイト運営会社SOSOから、葵屋の年収の約2倍1,200万円でのシステム部長ポストを提案されました。

健二は戸惑いながらも、貴子と相談することにしました。
佐藤:「貴子、実はSOSOからシステム部長のポストを提案されたんだ。年収も1,200万円になるっていうんだけど、どうしようか迷っているんだ。」(しかも新しいスキルを獲得するチャンスだし)

南野:「そやねぇ、年収が上がれば、生活費に余力ができるし、将来のことも考えると、魅力的やわね。」

佐藤:「そうなんだけど、貴子はどう思う? 君の意見も聞きたいんだ。」

南野:「ええとね、私は子供が欲しいし、家庭に入るつもりやから、健二が安定して稼げる職場にいてくれる方が、私も安心するわ。結婚式の費用も心配なくなるし。」

佐藤:「そうだよね。じゃあ、SOSOへの転職を決めようか。」

南野:「うん、そうしよう。」

佐藤健二と南野 貴子は、お互いの将来を考え、SOSOへの転職を決めました。
貴子は子供が欲しいという気持ちもあり、家庭に入るつもりでいたため、佐藤の安定した収入が彼女にとっても心強いものとなりました。
二人はこれからの人生を共に歩む決意を固め、新たな門出に胸を膨らませました。

結婚式

結婚式の当日、佐藤健二と貴子は幸せそうな顔で神前に立ちました。
参列者の中には、親友の栗原や葵屋関係者も顔をそろえており、二人の門出を祝福していました。

栗原:「おお、健ちゃん、貴子さん、おめでとさん! ホンマに良かったね。」

佐藤:「ありがとう、クリハラ。お前も来てくれて嬉しいよ。」

貴子:「栗原さん、わざわざ来てくださって、ありがとうございます。」

式が無事に終わり、新婚生活が始まった二人にさらなる喜びの知らせが舞い込みました。
SOSOに転職すると同時に、貴子の妊娠が判明したのです。

佐藤:「貴子、妊娠おめでとう! これから一緒に子育て頑張ろうね。」

貴子:「ありがとう、健二。私たちの子供ができるなんて、本当に嬉しいわ。」

妊娠の報告を受けた健二は、これから家族が増えることを胸に、新しい職場での仕事に一層意欲を燃やしました。SOSOでの転職は、やはり良い決断だったと二人は確信し、これからの人生に希望を抱いていました。

やがて、佐藤健二と貴子の家庭には元気な赤ちゃんが誕生し、新しい家族が増えました。

幸せに満ち溢れた家庭で、二人はこれからの人生を共に歩んでいくはずでした。

↓↓↓  続き  ↓↓↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?