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デジタル病理組織画像には例えばこんな特徴があります

東京大学医学部医学系研究科 次世代病理情報連携学講座の安藤です。

遠隔病理診断の需要が高まり、デジタル病理画像による病理診断の普及の好機が訪れています。機械学習モデルを用いた病理診断補助は、デジタル病理画像による診断を行う環境と同時に広がっていくことも考えられ、現在は病理AIの黎明期と言えるでしょう。この病理画像は一般の画像とは異なる特徴を持っています。

縦横サイズが非常に大きい

最近のスマートフォンで撮影できる写真は、1億画素の撮影ができるものでだいたい縦横10000ピクセルです。すごく遠くから写して被写体を小さく収めることもできますが、多くは画角の中央付近に大きく移すことになるでしょう。
細胞は20μm程度の大きさで、普通のカメラでは接写しても大きく写すことは困難ですが、これは病理診断に重要な情報です。専用のスキャナを用いて標本を撮影することで、視認できる大きさに拡大してデジタル化します。1ピクセルで1μmの情報を保存するように設定した場合、1つの細胞は20ピクセル、プレパラートの短辺2.5cm程度は25000ピクセルにもなります。これは対物レンズ10倍での大きさに相当しますが、決して倍率の高いものではありません。

20倍撮像の病理画像とその一部を拡大した図

パターンが繰り返される

近年の機械学習モデルはImageNetにおける性能を向上させてきましたが、判断根拠の画像を中央に持つことが多いことを問題視されたこともありました。これと異なり、一定の範囲に広がる組織的な特徴を発見することが診断根拠とされることが多く見られ、一般画像とはその特徴として把握すべきものの広がり方に違いがあります。絵画の画風が病理画像の組織像のパターンの広がりに近いことを利用して、いわゆるstyle transferを病理組織像に応用した研究も存在しています。

1枚の病理画像から抽出した、細胞が散りばめられたパターン(左)と、組織の輪郭のパターン(右)

色の差の影響が大きい

同じ標本も、違うスキャナでデジタル化すると違った色調が見られます。より根本的には、同じ薄切であっても少し長く染色液に漬けるだけで違った色に染まります。背景を不要な情報として除去しやすい一般画像と異なり、繰り返されるパターンに意味がある病理画像では、背景色を含んたパターンが学習される場合もあり、機械学習モデルの出力に対して大きな影響があることが知られています。

同じ病理標本を違うスキャナで撮影したデジタル病理画像

お知らせ

次世代病理情報連携学講座では、最新の政府の動向を踏まえた共同研究を行うパートナーを募集しています。詳細はホームページからご確認ください。


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