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【士業向け】債権法改正対応はまず「保証」から※改訂版

平成29年に成立した民法(債権法)改正が、いよいよ本日から施行されました。

成立当時は「施行までだいぶ時間があるな」と思っていましたが、時間がたつのは早いものですね。

すでにしっかりと改正法を勉強していらっしゃる方もいるかと思いますが、他方で、「しまった、まだきちんと勉強できてないぞ」という方もいるかもしれません。

今般の債権法改正は、主として従来の判例法理を条文化するものですので、そのような改正前後で運用に違いがない部分については、あとでじっくり取り組めばよいと思います。

問題は、従来の運用を変更する改正です。これらについては、しっかりと勉強して備えておかないと、間違った対応や法的アドバイスをしてしまうかもしれません。

従来の運用を変更する改正のなかでも、消滅時効や詐害行為取消権などは、経過規定もあるため、直近で問題になることは少ないと思います。なので、これらも大事ではあるものの、勉強の優先順位は2番手3番手といったところかと思います。

これに対して、「従来の運用を変更する改正」であり、かつ「直近で問題になる」うえ、間違うと取り返しがつかないおそれがある超重要項目があります。

それが「保証」です。

保証がなぜ超重要なのか。それは、本日以降に締結する保証契約には改正法が適用される(附則21条1項参照)うえ、従来の運用どおりに対応していると保証契約が無効になる点があるからです。

そこで、今回は、保証に関する改正事項のうち、特に気を付ける必要のある「個人根保証契約の保証人の責任等」(465条の2)について説明します。

個人等根保証契約とは

まずは条文を確認しましょう。

(個人根保証契約の保証人の責任等)
第465条の2
1.一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
2.個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
3.第四百四十六条第二項及び第三項の規定は、個人根保証契約における第一項に規定する極度額の定めについて準用する。

根保証契約とは、「一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約」をいいます。

そして、個人根保証契約とは、「(根保証契約)であって保証人が法人でないもの」をいいます。

たとえば、債務者Aが銀行からお金を借りるにあたって、Bが1000万円の枠(極度額)の範囲で保証する場合が個人根保証契約です。

改正前は、上記の例のような「貸金に関する」個人の根保証契約(貸金等根保証契約、と呼ばれていたもの)を対象とする条文でした。

これが、改正によって、貸金に限らない個人の根保証契約についても適用されるようになりました。

そうすると、個人根保証契約には、上記の例のほか、たとえば、賃借人Aが賃貸人から不動産を借りるにあたって、Bがその賃料等を保証する場合も含まれることになります。また、Aが使用者との間で雇用契約を締結するにあたって、Bがその身元保証人になる場合も含まれる可能性があります(第98回部会議事録33頁以下参照)。

極度額を定めておかないと無効になる

そして、この個人根保証契約を締結する際は、極度額を定めなければその効力を生じないこと(=無効)になってしまいます(465条の2第2項)。

保証を求めた側としては、人的担保のために保証契約を締結し、ひと安心だと思っていたのに、実はそれが無効だった、なんてことになると目も当てられません。弁護士として契約書チェックを求められ、万が一にもこの点を見落としてしまうと、弁護過誤になってしまいます。

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極度額をどのように定めればよいのか

極度額は、たとえば「100万円」など、確定的な金額で表示する必要があります。

では、不動産賃貸借の保証の場合に「賃料の6か月分」というような定め方はできるでしょうか。

この記載だけでは、1か月分の家賃の金額が判読できないため、確定的な金額で表示されたとはいえません。すなわち、無効になってしまうのです。

しかし、1か月分の家賃の金額が明記されており、その記載とあわせれば確定的な金額を容易に算出できる場合には、確定的な金額で表示されたものとなります。

極度額を極めて高額に設定するのは有りか?

極度額を確定的な金額で表示しなければならないというものの、万が一、設定した極度額を上回る負債が発生してしまった場合、極度額を超える部分は無担保になってしまいます。そのため、保証を求める側としては、なるべく多額の極度額を設定したいと考えるでしょう。

では、たとえば、「年間家賃120万円の100年分(1億2000万円)」というような定め方はありでしょうか?

このように不相当に高額な極度額の設定は、そもそも極度額を定めることで保証人の責任を限定した趣旨に反することから、公序良俗に反するものとして無効になりえます(90条)。

そうなると、いったいどの程度ならOKなのか、気になりますよね。

現時点で分かっている限りでは、不動産賃貸借の保証の場合に、月額家賃の24か月分と定めている例が多く、月額家賃が低い案件だと原状回復費用が回収できないため月額家賃の48か月分とする例がみられると言われています(「新春座談会 債権法改正元年を迎えて(上)‐不動産取引の論点を中心に」NBL1161号20頁〔望月発言〕)。

この点については、今後の実務の運用や判例の集積によって定まってくると思われます。

更新があった場合の取扱い

改正法施行前に締結した保証契約には旧法が適用されます(附則21条1項)。そのため、改正法施行前の不動産賃貸借の保証契約は、極度額の定めがなくても有効です。

では、改正法施行後に更新があった場合にはどうなるでしょうか。

この場合は、更新の態様によって取扱いが異なります。

①合意によって保証契約を更新した場合

この場合は、施行日後の新たな合意があるため、改正法が適用されます。そのため、合意の際に必ず極度額の定めを設けておきましょう。

②賃貸借契約が法定更新され、保証契約についても新たな合意等がない場合

賃貸借契約については、法定更新の事由によって扱いが異なります。

まず、民法619条1項のように、法定更新の根拠が当事者の黙示の合意に求められる場合には、改正法が適用されると考えられます。

他方で、借地借家法26条のように、法定更新の根拠が当事者の意思を根拠としない場合には、旧法が適用されると考えられます。

③自動更新条項によって賃貸借契約及び保証契約の両方が更新された場合

この場合、改正法施行後の新たな合意があるわけではないから旧法が適用される、とも思えます。

しかし、立案担当者の見解では、自動更新条項による更新の場合であっても、契約期間満了までに契約を終了させないという不作為があることをもって、更新の合意があったと評価することができると考えているようです(一問一答383頁)。

したがって、自動更新条項によって更新された賃貸借契約には、改正法が適用されると考えられます。

他方で、保証契約については、当然には改正法の適用対象にならない(旧法が適用される)と考えられます。

しかし、たとえば1つの契約書に賃貸借と保証の両方の内容が含まれ、その契約全体が施行日後に更新された場合(自動更新条項によって更新された場合を含みます)には、賃貸借契約だけでなく保証契約についても、施行日後に当事者の合意により更新されたと評価されて、改正法の適用を受ける可能性があります。

以上のとおり、改正法施行日後の更新は、思わぬところで改正法の適用を受ける結果になりえます

極度額の定めを書いた場合の「無効」という効果の大きさを考えれば、仮に旧法の適用を受けられる可能性がある場面であっても、保守的に対応して、極度額を設定した保証契約を締結し直した方がよいかもしれません。

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まとめ

以上、個人根保証契約の保証人の責任等(465条の2)について、致命的なミスになりうるポイントを整理してみました。

今後も定期的に改正民法の解説記事を投稿してまいりますので、みんなで一緒に勉強していきましょう!

弁護士 永野達也


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