カード業界はもう法で壊れてもおかしくない【他業界の法規制から考える】

これはお気持ちnoteです。
ルギアV SA 10万円買取ツイート見ました。しんどいという感情が湧きました。

今回の件で、一部優良な店舗はあるものの、カードショップに自浄作用はない(非常に小さい)。TCGに法規制が入るのは時間の問題ではないか?と思い、近年行われた似たような法規制を参考にどうして法規制されるのか。されないのか。法規制されるならどのような法になるか、あるいはどんな法になってほしいか。考えてみました。

ざっくり結論

  • TCG業界は法のメスが入っても不思議ではないように見える

  • でも法規制されたら壊滅的な打撃を受けそうだから避けたい

  • うわあ、がんばろう…

おまえ(筆者)法律詳しいんか?何者やねん?

法律の専門家ではありません。ベンチャー企業で働くエンジニアです。
ライブチケット関連企業のエンジニアやったり、
ソシャゲ作ってた知り合いがいたり、
暗号資産交換業を行う会社に知り合いがいたり、スカウト受けたりしただけです。
ベンチャー企業では1人でいろんなことをやるため、ビジネスやそれを取り巻く法律に詳しくなります。クレジットカードの仕組みやら、資金決済法やら景品表示法などを勉強することがありました。
ちなみに中小零細企業は景品表示法違反やりすぎです。カドショもあかんとこ多すぎです。規模が小さすぎるからいちいち消費者庁に怒られてないだけです。トラブルにあったら消費者庁に通報してもいいかも。

類似業界法規制の3例

TCG業界と似ているが、すでに法による規制が行われていた業界の例を軽く見ていきます。

音楽・ライブ業界のチケット不正転売禁止法

今のTCG(特にポケカ)には買い占め・高額転売という問題があります。
チケット不正転売も似た問題だと言っていいでしょう。
転売については多様な業界で問題が発生していますが、悪質な転売の線引きは難しく、すべての転売に適用される立法は難しいです。
そのため、音楽・ライブ業界はライブチケットに限った『チケット不正転売禁止法』という法律を勝ち取りました。ライブ業界はロビイングを精力的に行い、有識者として政治家と協力して立法を推し進めていました。

『チケット不正転売禁止法』はざっくり説明すると、
【条件を満たした興行を特定興行と定義し、興行主の許可なく、販売価格を超える価格で転売することを禁止する法】
です。
興行主が条件を守る努力を行った上で、法が保護するという形です。見境なく、ライブチケットの転売が違法というわけではありません。

モバイルゲームガチャ規制(自粛)

TCGはそもそも射倖心を煽る商品です。イラストとテキストが書いてある紙を5枚150円で売っていて紙の価値に差はない。メーカーが2次流通に一切関わらないことでこの体裁を保っているだけです。射倖心を確実に煽っています。その点でTCGはソシャゲのガチャと似ています。
そもそもソシャゲが現実世界のガチャやカードゲームという概念を持ち込んだのだから当然と言えば当然ですが。

モバイルゲームではまずコンプガチャが特に悪質だと問題視され、消費者庁から現行の法律でも違反する可能性があると発表されました。

それを受け、さらなる致命的な法規制が入らないように、業界団体は自ら「ゲーム内表示等に関するガイドライン」を制定しました。
このガイドラインではガチャの排出率明記を義務付けるなどしています。排出率の操作をしない・していない証明をするため、射倖心をわずかでも抑えて合理的判断でガチャしてもらうためです。

暗号資産に関する制度整備

TCG(特にポケカ)は、近年著しい高騰により注目され、投機性を持つことが否定できない現状にあります。自称TCG投資家アカウントが乱立し、情報商材まで出回っています。
暗号資産は流行るにつれ、資産としての性質や投資(投機)対象になっていることが認知されていきました。その点でTCGは黎明期の暗号資産に似ていると言えそうです。

暗号資産のために、2017年に資金決済法等が改正されました。規模が大きく、ほとんどお金に近い性質を持つ暗号資産分野では、以降も法整備がすすめられています。https://www.fsa.go.jp/policy/virtual_currency/20210407_seidogaiyou.pdf

特定業界だけのため法はどんなときできるのか?

ここまで類似している業界の法規制にざっくり触れました。それらの例から、特定業界向けの法が整備されるのは次のようなときだと言えそうです。

■業界に自浄作用がない
自浄作用がなければ法を作り、国が規制するほかないという判断です。暗号資産については黎明期には金儲けやったもん勝ちというような事業会社がいくつも存在していました。法改正で事業者登録制になり、厳しい制約を受けて、行政処分を受けたり、撤退する会社が見られました。逆にコンプガチャ問題を受けて、先手を打って自主的に規制を行ったモバイルゲームのガチャはより厳しい法による規制を逃れることができたと言えそうです。
■(悪)影響を受ける人・金額の規模が大きい
立法は簡単ではありませんし、時間もかかります。大人が4,5人騙された、被害額1000万円。では動きません。では類似業界の規模を金額で見てみましょう。
ライブ業界の年間市場規模は5,862億円(チケット不正転売禁止法の2018年)。
モバイルゲーム業界の年間市場規模は2607億円(コンプガチャ問題の2012年)。
暗号資産BTCの国内月間取引高は約3500億円(法改正の2017年4月度)。
暗号資産の規模がデカすぎて他がかすみますね…法整備が進むわけです。
グレーな領域では脱税が多いため、動く金額が大きいとしっかり納税してもらうために、法整備が進みやすいということもありそうです。
■業界がロビイングする or 被害者が声を上げる
ライブ業界はロビイングを根気強く行いました。価格を上げると若い新しいファンが育たない、グッズが売れない、売れているのに席が埋まらず盛り上がりにくい。こういった理由を挙げ、高額転売問題の中でも特に法による規制が必要だと主張し、『チケット不正転売禁止法』を勝ち取りました。

モバイルゲームでは「子供が親のスマホで知らないうちに数十万課金してしまった」などの消費者トラブルが頻繁に報道されていました。射倖心を煽り、判断力が発展途上の『子供』に大金を使わせる…と表現するともはや反社会的ですね。

TCG業界はどうだろう?

前述した内容からTCG業界が規制を受ける可能性を考えます。

まず、自浄作用はなさそうです。
カードショップは価格が吊り上がり、取引が増えれば増えるほど儲かります。仮にカードショップAが異常に高騰したカードの買取をやめても、B店が買い取りますし、A店は品揃えが悪く、不人気になってしまいます。
また、カードは儲かる!という状況が続いたため、儲かればそれでいいという考え方の事業者がかなり増えました。このような状況では自浄作用を期待する方がどうかしています。

次に規模については、それなりに大きいと言えるでしょう。
2021年のカードゲーム市場規模は1782億円でした。これは一次流通の金額だと思われます。カードショップやフリマアプリでの買取・販売による二次流通を加味すればさらに大きな規模になるでしょう。しかも、2022年度もカードゲーム市場は上り調子です。法規制が入ったときのライブ業界やモバイルゲーム業界に比肩する規模だと言えるでしょう。

業界のロビイングはなさそうです。
TCGはオリパに限らずともそもそもクリーンなビジネスではなく、法のメスが入ればダメージを受ける企業の方が多いでしょう。また、ロビイングにはコネと体力が必要ですが、それらを持つ企業も少ないです。
一方、被害者が声を上げるケースは増えてきた印象です。
技術の発展により個人取引が増えたことも一因でしょう。キャスオリパなどという地獄のような文化もあります。
トラブルの多いオリパは賭博と解釈される可能性のある商品です。パチンコ・パチスロはあれでも年齢制限など規制されています。
オリパは子供でも容易に買える状況です。子供を保護するため〜と政治家が動く可能性も否定できません。

そもそも既に目をつけられている説 10/22追記

オリパの違法性については既に官公庁に認知度されています。

経済産業省の資料に掲載され、賭博罪該当率が高い認識

総合的にみて、TCG業界は法のメスが入っても不思議ではない状況だと考えます。

どんな法ができそう(できてほしい)か

できるならどんな法か。どんな法ができてほしいか。できたらどういった影響があるか考えます。

TCGとは次のものを指す(投機性の認定)

特定の用途の法が作られるときは、法における定義が必要です。そこには、TCGは換金制が高く、ものによって価格が異なり、価格が短期的に上下する性質があることは明記されるでしょう。

TCGメーカーに封入率明記義務

モバイルゲームのガチャのあれです。
メーカーにとってはコストが増えるでしょう。生産ラインに要求する品質があがりますし、封入率を公開すると不良品の定義が明確になり、返品対応も増えるでしょう。
二次流通においては期待値計算が容易になり、シングルカードの価格は安定するかもしれません。衝動的にパックを購入する消費者も減るかもしれません。

オリパが賭博認定(あるいはオリパ販売時ルールの明文化)

コンプガチャの違法性を消費者庁が指摘したように、オリパの違法性を消費者庁に指摘されたり、オリパトラブルで訴訟が発生し、違法判決が出てしまうことが考えられます。
「条件を満たしたオリパなら販売してもよい。」という方向もありえそうです。

カード買取時にマイナンバー(あるいはそれに準じるもの)記載義務

150円のパックから10万円のカードが排出されるならば、年間で20万円(雑所得非課税ライン)を超える利益を出す一般人が大量に生まれます。納税漏れを減らす対策が強化されるのは自然に思えます。 

買取表に記載ルールの明文化

カードショップに慣れてしまうと感覚が麻痺してしまいますが、買取表でよく見る文言おかしいです。

※買取価格は予告なく変更することがあります。
→買取表をツイートした1分後に価格が変わっててもおかしくないし、やりたい放題。
※こちらは美品の価格です。商品の状態によって買取価格が変動します。
→なお美品の基準は非公開。
※数量限定
→いくつ?あと何枚?終わりって言われたら終わり。

なんでこんなことが許されてるんだ?
法でルールが設定されるなら、

  • 美品の基準を公開すること。

  • 数量限定買取では数量を記載すること。

  • N円以上の商品については、月毎に満額買取実績や買取表金額に対する実買取金額の割合を公開すること。

  • 無料査定では店側の責任で傷がついた場合の補償がないなど事前説明を行うこと。
    など考えられそうです。

法規制後にくるショップ激減。無料プレイスペース激減。の地獄

先に述べたような法規制が入った場合、メーカーやカードショップの負担は劇的に上昇します。高収益&在庫処分&在庫回転率上昇を兼ね備えた最強の商売オリパに制限がかかればショップは激減するでしょう。(悪どいオリパに依存してるカドショはどんどん潰れてどうぞ)
TCGは商品を定価で売っても大きな利益になりません(トモハッヒ◯ーも言ってた)。秋葉原のような都市部で大きなプレイスペースを備えつつ、オリパなしで高収益を維持するのは至難の業でしょう。プレイスペースが有料化してもおかしくないですし、そうなればプレイヤーも減るし、負のスパイラルに陥るでしょう。
しんどいですね。

そうならないためにも

自浄作用はないと言いましたが、良識あるカードショップにはそのまま良識ある運営を期待します。

メーカーはさらに転売ヤー対策に力を入れてください。素敵な商品を作っているのに、そこにタダ乗りして暴利を貪る輩にはメーカーが最もムカついているはずです。あと、高騰を煽るような商品の企画を自重してください。大して生産できないくせにランダムで4種類封入する限定品を作った理由がミステリーです。

良識あるコレクター・プレイヤーのみなさんは、露骨に悪質な転売ヤーから購入することを避け、高額カードを買い煽るような言動に気をつけていきましょう。何か悪質な販売方法で被害を被ったなら泣き寝入りせず、然るべき場所に通報なり、相談なりしましょう。新しい法整備がなくとも違法な取引や、民事で勝てる取引は多々あります。

うわあ、がんばろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?