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('68) Joni Mitchell / Song to a Seagull

 当時24歳、すでに離婚を経験し、シンガー・ソングライターとしてのキャリアを進めるためにカナダはトロントからニューヨークへと出てきたジョニ・ミッチェル。このデビュー作には彼女の才能が早くもしっかりと収められている。デヴィッド・クロスビーのプロデュースの下、全曲を自作し、印象的なアコースティック・ギターやピアノも自ら演奏している(一部スティーブン・スティルスがベースで参加)。

 本作は「街へとやってきた」前半と「街を出て海辺へと帰る」後半のコンセプト・アルバム的な趣向となっており、その中に彼女の半生が朴訥に綴られている。ストーリー性を持った詞には象徴的な風景や人物が瑞々しく鮮やかに描かれている。後の彼女の楽曲のメイン・テーマとなる恋愛模様について、このアルバムにおいてはまだ”恋に恋する少女”的な甘酸っぱさも含んでいて新鮮。70年代のアメリカで大成する「シンガー・ソングライター・ブーム」に先んじて世に出された、ジョニらしい透明感と情念の一片を滲ませる良質な作品。最後の11曲目には彼女の悲哀と虚無感、それでも一人のアーティストとして歩んでいく覚悟が刻まれている。


ジョニ・ミッチェルといえば、今年リリース50周年となった歴史的名盤「ブルー」。同じく50周年のキャロル・キングの「タペストリー」と並んでシンガー・ソングライター・アルバムの金字塔といえる作品だ。しかし、「ブルー」に至るまでの作品群も素晴らしい。

数年前、久しぶりに東京に行った際、都会の街並みの中をこのファースト・アルバムを聴きながら一人歩いた記憶がある。多くの人が行き交う喧騒の中、僕は一人。その孤独にジョニの歌声は、寄り添うでも突き放すでもなく屹立して響いた。繊細なだけでなく芯の強さもあるのが彼女の声の魅力だ。

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