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Bob Dylan / The Times They Are a-Changin' (1964)

「フォークの貴公子」「プロテスト・シンガー」としてもてはやされたボブ・ディランの”フォーク時代最後”の作品となったサード・アルバム。

ケネディ大統領暗殺という時代の転換期(レコーディングされたのは暗殺事件前)にリリースされた本作は、タイトルのとおり時代の移り変わりを捉え、奇しくも「時代の代弁者」としての期待を(本人の意図とは別に)負う作品となっている。

とはいえディランのプロテスト・ソングは声高に主張するのではなく、現実を直視した淡々とした語り口が印象的で、それがむしろ(特に若者の)普遍的な心情を代弁したのだろう。

アルバムに含まれている音はディランによるアコースティック・ギターとハーモニカとヴォーカルのみでありながら、その表現力は前作よりも豊かに、核心を突くように鋭く、ストーリーテリングも率直に真に迫る。
常に市井の人々の側に立つ彼は、深刻な人種差別や格差、不条理や暴力などを一義的に非難するのではなく、その奥にある人間誰しもが持つ闇、人間の業を見つめている。

深刻に痛切に歌われる10曲からは、醒めた視線や厭世観だけでなく人肌の温かみを感じさせるし、2曲だけ収録されたラヴ・ソング(いずれも”別れ”を描いている)では彼の美しいメロディ・センスが光る。
ブルースからフォークへと移行する中で物語性とメッセージ性を広げ、楽曲としての練度も増した本作は、シンガー・ソングライター・アルバムとしても素晴らしい完成度だと思う。




ディランの作品を、1枚目から順に”還暦”を迎えたタイミングで再訪している。
今回は3作目。
淡々として刺々しい語り口だけでなく、柔らかな表情も見せる本作は、時代の変化とともに自分自身の変化をも感じているのだろう。
社会の出来事と自らの人生の双方を見つめた本作をレコーディングしている時点で彼はまだ22歳。デビューからわずか2年足らずで既におそろしく冷静で円熟していた彼は、自身の内面を深く掘り下げ、才能を磨き上げることで、その音楽性をこの後さらに飛躍させていくことになる。

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