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【禅 ZEN】「主人公」

 流されない自分を持つ

 自分の中の真の自分を呼び醒ませ

 中国の浙江省(せつこうしょう)に瑞巖寺(ずいがんじ)
というお寺があり、
そこに師彦(しげん)というお坊さんがいました。
この人は毎日自分に向かって
「主人公!」
と呼び
「ハイ!」
と答えていました。
そして続けます。
「はっきりと目を醒ましているか?」
「ハイ、醒ましております」
「流されて、本当の自分を見失うなよ」
「ハイ、承知しております」
 石の上で坐禅をしながら、来る日も来る日も、
自分一人の問答を繰り返していたということです。
これを無開和尚(むもんおしょう)
(宋代の禅僧で名は無門慧開(えかい))
が感心しています。
「師彦の奴め。
自分一人で売ったり買ったりしておる。
主人公と呼びかける自分、
ハイと答える自分。
目醒めているかと呼びかける自分、
騙(だま)されませんと答える自分――」
この話は無門慧開が書いた、
『無門関(むもんかん)』
という書物に出ている逸話ですが、
 この原文のなかに
「人の瞞(まん)を受くること莫(なか)れ、諾諾(だくだく)」
という一語があります。
「人に騙されるなよ」
「ハイ、承知しております」
という自問自答なのです。
 ときどき「主人公!」と呼びかけて、
自分のなかの自分に目を醒ましておいてもらわないと、
人間という奴はいつの間にか人に騙されてしまって、
とんでもない方向へ流されていってしまうんだよ、
という意味です。
 しかし、「人の瞞を受くること」を単純に
「騙される」と受け取るのはどうかと思います。
そうではなくて、
どんどん流されていく自分に
本来の自分が引っぱられていようでは困るぞ、
と受け止めるべきです。
時代の波に流されていると、
本当の自分を見失ってしまうから、
つねに自問自答して、
本来の自己に目醒(めざ)めていることが大事ですよ、
という教えです。
「おい師彦!
どうでもいいことに心を引っぱられて
ふらふらしていやしないか。
どんな波が押し寄せてきても流されない自分、
その真実の自己を大事にしろよ」
 これが「主人公!」と呼びかける意味なのです。

 自分のなかの「二人の自分」

 みなさんにも当てはまりませんか。
「このごろ疲れ過ぎていないか。
どうでもいいことに振り回されてはいないか。
もっとほかに大事なことがあるような気がするよ。
 あっちへ走り、こっちへ走り、
どうもこのごろ落ち着きがないようだね。
それでいいのだろうか。
 そのうち身がすり減って、
取り返しがつかなくなってしまうよ。
今、私にとって大事なことは何なのだろう。
 このまま流されていったら、
私自身がなくなってしまう。
私自身とはいったい何なのだろうか」
 と、こういうことをときどき考えることが大事なのです。
 今を生きる人たちは、
ほどんどどうでもいいことに流されているのではないでしようか。
私の見る限り、
百人のうち九十九人は流されているでしょう。
いや、自分が流されているという、
そのことにさえ気がつかない人が大部分なのです。
 私たちは「二人の自分」を持っています。
周囲に動かされ、
時代の波に飛び込んで上手に泳いでいく自分と、
「人間がこんなことまでしていいのだろうか」と
立ち止まって考える自分とです。
もちろん後者が「主人公!」と呼びかけられる自分です。
 この二人の自分は、
つねに反論し合い、
同調し合い、
激励し合い、
警告し合って、
人生を歩んでいきます。
そのうち、
「一人でそんなことを思っても仕方がない。
時代が時代なんだから」
と意気地のない弱い自分と妥協してしまうと、
流れていってしまいます。
 公民館清掃から帰って来た家内が、
みんな除草剤を平気で使っている、
というのでした。
 集まった村の人たちが声を揃えて、
「今はこういう便利なものがあるから、
本当にありがたいよ。
世話のないのが一番だね」
といっていたというのです。
 こんなことは珍しいことではありません。
日本中どこでもそういいながら除草剤を使っています。
「どんなに時代遅れでもいい、
どんなに貧乏してもいい、
除草剤だけは使うまい」
と約束してから四十年、
私は今も広い境内の雑草は全部手で取っていますが、
「主人公!」を呼び出すことをまったく知らない人たちからは、
「今どき手で取らなくても」と笑われています。
 土に毒が染み込むことほど恐ろしいことはありません。
転んだ子どもの手に毒が入り、
その子の何代かあとの子孫に、
わけのわからない病気が発生するかもしれないのです。
 このつながりが見えてくるのを「醒める」といい、
見えないのを「冥(くら)い」といっています。


こちらの内容は、

『気持ちがホッとする禅のことば』


発行所 株式会社静山社
著者 酒井大岳
2010年1月5日 第1刷発行

を引用させて頂いています。



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