見出し画像

次世代基盤政策研究所がめざすもの

次世代基盤政策研究所(NFI)が昨年夏に設立されてから、1年が経過した。私たちがNFIを設立したのは、現代社会についての以下のような認識に基づいている。

昨年来の新型コロナ感染症の蔓延によって、この一年半、私たちはそれまで想像もできなかったような体験をすることになった。

安全で安心して豊かに暮らせる社会。多くの人はこのような社会の実現を目指している。そして、これまで歩んできた道筋をさらに進むことによって、それが実現されると信じてきた。

だが、私たちの住む世界は、21世紀にはってから大きく変わった。経済の国際化に着いていけず、わが国の繁栄にはブレーキがかかった。そして、1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災、その後も地球温暖化がもたらすのか、毎年これまで経験したことのないような大規模な自然災害が発生している。

そして、2010年をピークとしてわが国の人口は減少を始めた。それまでも少子化が指摘されていたが、高齢化によって平均寿命が伸び、高齢者数が出生数の減少を上回っていたため、総人口は増加を続けてきた。それが、楽観論を生み、長期的な人口減少という社会の基盤の変化への対応を遅らせたのであろう。

他方、近年のITは、私たちの生活にかつてない利便性をもたらした。SNSは、これまでと比較して桁違いの量のコミュニケーションを可能にするとともに、われわれが知りうる世界を飛躍的に拡大した。

だが、その技術の発展に着いていけない社会は、その利便性を享受するよりも、リスクを恐れ、ITが潜在的にもつ力を活用しきれていない。現状では、事故の危険があるからといって、自動車は使わず、自転車やリヤカーでの移動や運搬を選択しているに等しい。リスクを適正に管理しつつ、大きな効果を引き出す方法を工夫すべきだ。

そして、今般のコロナ禍である。世界にその質の高さを誇っていたわが国の医療も、高齢化に伴い感染症から生活習慣病に重点をシフトさせ、感染症への対策が不十分であったことが露呈した。とくに、ITの活用において、世界の多くの国から数周の遅れを実感させられた。

このように書いてくると暗いイメージが浮かんでくるが、今われわれに必要なことは、この状態からいかにして脱出するか、その方向を見出していくことである。これまでのやり方を踏襲していては、いくら努力しても展望は拓けない。

それゆえ、今取り組むべきは、現状を直視し、社会をその前提から見直すことであろう。そして、新しい社会にマッチした政策や制度をデザインしていくことである。

このような認識に基づき、次世代基盤政策研究所は、これまで普遍的と思われてきた原則や思考、不易とされてきた制度や慣行を、ゼロベースで見直し、新たな政策と制度の提言をしていきたいと考えている。

もちろん、不確実な未来に関する提言は完成されたものではない。それを発展させていくためには、疑問や反論を真摯に受けとめ、それへの回答を追求しつつ、試行錯誤を経てより洗練されたアイディアへと収斂させて行かなければならない。

それゆえ、われわれの発信に、是非、さまざまな角度からご意見を寄せていただきたい。
                              (森田朗)