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ヤリスに乗って感動した話

 いいクルマはディーラーを出た道でわかる。そんな学びをヤリスを試乗して得た。
 3月半ば、愛車であるヴィッツの納車後点検のために最寄りのネッツ店を訪れた。事前にヤリスの試乗もしたいと伝えたら快くOKを頂けた。待合スペースで出されたりんごジュースを飲んでいるとディーラーマンがやってきて試乗車の準備ができたと伝えた。言われたとおりに駐車場へ足を運ぶとそこにはピンクのヤリスが一台、第一印象はテレビや写真で観るよりもかっこいい。ヴィッツよりも低い車高と後方に行くにつれて下がっていくルーフライン、室内空間を犠牲にして長めにとられたボンネットはスポーティで軽快な走りを予感させた。日本仕様は小型車枠に収めるために全幅を切り詰めたというが、張り出し感を強調したフェンダーはワイドアンドローを効果的に演出しておりサブコンパクトカーにあるまじきどっしりと構えた安定感がある。そして何より少しキツめな表情のフロントフェイスは写真よりも実物のほうがイケメンだ。コイツは盛らないタイプらしい。
 先代にあたる三代目ヴィッツのオーナーとしては後席の居住性を始めとした室内ユーティリティが気になるところだが、ディーラーの試乗で時間をかけすぎるのも忍びないと思いさっさと乗り込むことにした。複雑な造形で非日常を演出する内装は明らかにマツダを意識したものと思われる。複眼メーターはスポーツカー好きとしてはアガる。しかしながら質感のプラスティッキーさが悲しいかなエントリーモデルである現実を思い出させる。今回試乗したのは最上級グレードのHYBRID Zであるが、最上級グレードにすら革やソフトパッドを一切使わないのはトヨタならではの容赦なさを感じた。あえて言うならばこのクルマはデミオの猿真似ではなく、トヨタ車として別の使命が与えられてると考えるべきか。
 さて初ドライブだ。各方面で絶賛されているヤリスだが所詮はトヨタ車、ドライバビリティに過度な期待は禁物と舐め腐っていたがそれは大間違いだった。アクセルを踏み込んで私はたまげた。自分の狙った速度まで意志通りに加速、保持ができるのである。と感動していたら目の前の信号が赤になったのでスッと左足でブレーキペダルを踏み込む。ここで第二の感動ポイントだ、なんとブレーキの踏み込み量が一発で決まったのである。停車位置もドンピシャ、ド派手なガックンブレーキでディーラーマンを苦笑させることも見事回避できた。私は普段MT車に乗っているのでブレーキは右足で踏むのだが、AT車に乗るときは左足ブレーキを使うようにしている。そのため初めて乗るクルマ、感覚が少々鈍った左足のコンボから繰り出される超絶ウルトラスーパーガックンブレーキを一発目でかまして助手席のディーラーマンを苦笑させるのが試乗の恒例行事だ。今までのトヨタ車といえば違和感のあるペダル配置、軽すぎて踏力コントロールのしづらいアクセル、少し踏んだだけでドーンと効くバカなブレーキ、とクソな操縦性の殿堂であった。ちなみにこれらは全て愛車のヴィッツにも当てはまる特徴なのでこの時点で私は死にたくなった。ヤリスは前述のネガを見事乗り越え素晴らしい操作性のペダルを手に入れたのである。自然に足がおけるペダル配置、適度な重さのアクセル、踏み込み量に応じてじわりと効いていくブレーキ、これらの絶妙な調整ができたクルマこそドライバーが身体の一部として自在に操れるクルマであり、結果的にそれはファン・トゥ・ドライブと疲労軽減という大きなご利益をもたらすのである。しかし、多くの運転嫌いのユーザーは目先のラクさを求めてだらしない姿勢で運転できるドライビングポジション、バカみたいに軽いペダルとハンドル、少し踏めばドーンと効くブレーキを好む傾向にあり、トヨタはそんな低い欲望を拾い続けて業界トップに君臨してきた歴史がある。
 ハンドリングに関しては市街地での試乗であったためバカみたいに軽すぎるハンドルが多少なりとも改善された程度しか確認できなかった。ヤリスのようなリヤサスペンションにトーションビームを採用する車のシャシ性能の真価を見極めるなら峠の下りや高速道路の直線を走るのがわかり易い。別の機会にレンタカーを借りて長距離ドライブで確認してみたいと思う。

 あのトヨタが意識高い系になったきっかけとは何だろう。一つだけ心当たりがある。ヤリスの乗り味は以前試乗したMAZDA2ことデミオに似ていた。ヤリスで味わった衝撃体験は以前MAZDA2で味わったそれの再現と言ってもいい。現行プリウスが登場したときもアクセラハイブリッドの影響を各方面で指摘されたが、ヤリスもまたマツダの指南があってこそ生まれたクルマだ。厳密に言えば、MAZDA2の乗り味そのままによりカジュアルなキャラクターに振っているので先代デミオのリメイクなのかもしれない。しかし、マツダの猿真似に終始しない一面も垣間見られた。今回試乗した車両はハイブリッドだ。あの感動的な加速はモーターのリニアな出力特性が一役買っていたことは確かだし、回生ブレーキ特有の違和感も見事に打ち消されている。トヨタのお家芸であるハイブリッド技術を走りの良さに転化することに成功したのだ。もちろんこれらに関してもマツダの指導がなかった訳ではないが、こうしたコラボレーションが実現したのもトヨタの節操の無さがプラスに働いたからだろう。
 結論に入るが、いいクルマを知りたいならヤリスとMAZDA2に乗れ。サブコンパクトカーという手軽な大きさ、価格で「走る・曲がる・止まる」というクルマの基本をキッチリおさえたこの二台は良いベンチマークとなるはずだ。


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