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【NJRPG-2ND/シナリオ】フォールス・ウインター#2:オペレイシヨン・ペーパークリップ

あらすじ:メイライ・コーポレーション。電子戦争終結後に台頭した「旧世紀の死体に集るハイエナ」とも呼ばれる新興暗黒メガコーポ。傭兵ビジネスで確固たる地位を築き上げた彼らの重役、アルトゥール博士が抱える秘密こそが、鷲のニンジャたちの次なるターゲットであった。

これは「ニンジャスレイヤーTRPG2版」のシステムに対応した、「鷲のニンジャ」がテーマのキャンペーン『フォールス・ウインター』の第二話に該当するサンプルシナリオ記事です。

プレイ人数:4~5名
所要時間:8~12時間(オンラインセッション/テキストセッション)
難易度:キャンペーン専用のルールで作成後、1シナリオを踏破した程度の強さのPCを想定(成長の壁を超えていない)

キャンペーン全体の背景設定やルート分岐の調整方法などは、別途CPセッティング記事も参考にしてください。

※各ゲーム要素はニンジャスレイヤーTRPG初版で行ったキャンペーン実卓を元に、2版向けへコンバートされたものです。ゲームバランスは現行環境やプレイヤーキャラクターに合わせて都度調整することを推奨します。

関連記事はこちらのマガジンから。

◇本文中に登場する略称
NM:ニンジャマスター    → ゲームの進行役。描写などを行う。
PL:プレイヤー       → ゲームの参加者。PCを操作する。
PC:プレイヤーキャラクター → ゲーム内の主人公。メインキャラ。

前シナリオ

マップデータ

このシナリオで使用するマップデータはGoogle スプレッドシートで作成されています。下記からローカルにダウンロードするか、ご自身のアカウントにコピーを作成してGoogle スプレッドシート上で使用してください。

マップの詳細は以降のシナリオ本文中で解説されます。

はじめに

このシナリオは前話『ブレイン・ウォーフェア』から(シナリオ単位未満の)偵察など小さな任務を幾つか経験した後の物語となる。PCは詳細な情報を伝えられないまま、暗黒メガコーポのひとつメイライ・コーポレーション重役のペントハウス襲撃を命じられる。その目的は、休暇中のキーマンである「アルトゥール・ルドルフ」博士を尋問し情報を引き出すこと。これはPCたちの実践訓練も兼ねており、彼らはターゲットのペントハウスについて調査する段階から取り組む必要がある。

PCは正面突破でも隠密潜入でも任意の手段で目的達成を試みることができるが、NMは"好機"が生まれると複数の勢力が同時に動き出し、任務上の利害関係の対立が発生してしまう点に注意しなくてはならない。不用意に行動すれば、ターゲットを連れ去ろうとする敵、侵入者を排除しようとする敵と、PCは三つ巴の戦闘に苦しめられることだろう。

このシナリオで発生する重要なイベント要素は次の通りである。

メイライ社の監視者『コスモクライム』の登場:シナリオボスとして、PCがアサルト行為を行ったとき、潜入に失敗したとき、アルトゥール博士が尋問などで心拍異常を起こしたとき、この存在は突如起動してペントハウスを破壊しながら敵の抹殺を始める。ターゲットが拉致される危機にある場合、人材流出防止のため、コスモクライムはアルトゥールを殺そうとする。

アマクダリ・セクトのエージェント『ブラックメイル』の乱入:PCがこの別勢力の存在に気がついたとき、コスモクライムがアルトゥールを抹殺するため発砲したとき、この存在はニンジャとして独自の目的を達成しようと動き出す。ブラックメイルはムテキ・メイルでアルトゥールを守り、暴力を叩き込み、彼を拉致しようとする(PCが阻止しなければ、彼はトリロジーに登場したアサノのように懐柔され、セクトの一部に取り込まれる)。

PC/PLはこのシナリオを通じてメイライ社およびアマクダリとの因縁を深める一方、自分たちがセクトに連なる存在ではなかったという事実を初めて突きつけられる。

メイライ・コーポレーションについて

酷薄な再開発で土地を奪い、行き場を失った人々を最低限の衣食住が保証される過酷な労働環境へ送り込む『カンオケ』は、重工系暗黒メガコーポの多くが実行する無慈悲な施策である。 しかしながらメイライ社はそうした人々のみならず、シャッタード・ランドなどの荒廃地帯やスラム街から、到底まともな職にはつけないだろうという人間までもを自社に雇い入れ、職業訓練、すなわちミリタリー教育を施したうえでトルーパーとして採用しているのだ。

これは対外的にもアピールされている公知の事実であり、メイライ・トルーパーはその無機質な外見とは裏腹にクリーンなイメージで塗り固められている。それを雇い入れる闇カネモチたちは不屈のミリタリー部隊に身を守られているというパワをアピールすると同時に、慈善的な社会貢献を行っているという自尊心を満たすこともできるのである。

メイライ社に関する調査情報

「メイライ・コーポレーション(メイライ社)」は「フォールス・ウインター」シリーズオリジナルの暗黒メガコーポである。V3ロケットの研究開発者であるアルトゥール博士や、かつてメガトリイ社との繋がりを有していたCOO『ゴットリーブ』が中核となり、電子戦争の終結後に台頭した新興企業となる。

そのビジネスは独自技術で武装させたミリタリー部隊を派遣するPMC業であり、他の暗黒メガコーポを顧客として「やや値は張るが極めて戦闘力の高いクローンヤクザ」のような位置づけで兵士を提供している。同時にオナタカミやオムラの技術導入も行っていることから、特定のニンジャ組織との明確な提携関係を有さない、かなり中立に近い立ち位置にある。

一方で重工業分野の開発能力も持ち、他のメガコーポと一線を引いた立ち位置を保ち続けていることから、ヨロシサン製薬などから競合先として危険視されている存在でもある。他のメガコーポは当然ながら、ソウカイヤもメイライ社の存在を快くは思わないだろう。そして企業発展の背後にY2K以前の技術を持つこのメガコーポは、アマクダリ・セクトにオナタカミ社への併合吸収対象として狙われている。

詳細はセッティング記事も参照のこと。


導入:カットシーン

カチリ……カチリ……カチリ。
ブリザードに閉ざされたソード山脈のどこか。さらに鋼鉄と岩壁、氷の分厚い壁に閉ざされたこのブラック・サイトの一角で、2人のニンジャが小さなサイバネ作業台を挟んで対峙していた。

カチリ……カチリ……カチリ。
ワークベンチに投げ出された腕に精密工具を差し込み、表情の見えないアシッドウルフが淡々とメンテナンスを行う。その"腕"の持ち主こそ君、即ち〈登場PCのコードネーム〉と呼ばれている鷲のニンジャがひとりである。

このシナリオは、前回のシナリオで最も精神力を使用したPCの『鷲の腕』を旧世紀ポリゴンメンポのアシッドウルフ(=スパイマスター)がメンテナンスするカットシーンから始まる。彼は『鷲の腕』の動作を確認した後に、その内部機構を開いて謎のカートリッジを取り出し、それを見て「ニューロンを酷使し過ぎだ」「サイバネとの同期率が落ちる」と警告する。

彼は新しいシリンダー・カートリッジを取り出してサイバネに挿入するが、その用途について明確な回答は得られない。実際のところ、この部品には微量のエメツを含有する液状のLSDが充填されており、無自覚にPCの体内を循環し、アシッドウルフの"洗脳"を定着させる役割を担っている。

「……その"腕"は、通常のサイバネとは異なる原理でお前の腕として働く。故にそれを深く繋げ……分かち難いものとする。それを補助するのがこれだ」彼は取り出したカートリッジを掲げてみせ、懐にしまった。

ダンゴウ

ブラック・サイトの一角、ネオサイタマの広域戦略地図を伴う戦略室。鷲のニンジャたる君たちは、"ボス"であるアシッドウルフによりこの場所に集められた。

戦略室に集められたPCは、ネオサイタマの広域地図を前に、アシッドウルフ(スパイマスター)から次のような事柄を伝えられる。

◉メイライ社の上級顧問兼主任技術者、アルトゥール・ルドルフ博士がペントハウスで休暇に入った。彼は友人や家族などを招いて、数日後にはパーティーを開催する。

◉今回の任務はパーティーが開かれるタイミングでこのペントハウスを襲撃し、アルトゥール博士を尋問してメイライの機密情報を引き出すことだ。ただし尋問内容はターゲットの確保後、"ボス"からIRCで指示される。

◉アシッドウルフは直接現場には赴かず、ただ監視だけを行う。

◉今回の任務はPCの訓練も兼ねている。パーティーが開催されるまでに、アルトゥール博士の行動およびペントハウスのセキュリティーについて調査するところから任務は始まるものとする。

◉ターゲットに辿り着く手段はPCの自由である。真正面から襲撃を仕掛ける電撃作戦でも、変装して忍び込む隠密作戦でも構わない。


シーン1:事前調査

各PCはそれぞれ1回ずつ、参照する能力値(【ニューロン】or【ワザマエ】)を選択可能な特殊な『調査判定』を試みることができる。【ニューロン】を参照した場合はシステム的セキュリティーの存在を、【ワザマエ】を参照した場合は人的セキュリティーの存在を暴く。【ニューロン】と【ワザマエ】でそれぞれ2セットずつ情報が用意されている。

この判定では「難易度:NORMAL」に成功することで、選択した能力値に対応する『基本調査』情報をひとつ得ることができる。その後、別のPCが同じ能力値に対応した判定に成功すると、関連した『詳細調査』情報が開示される。

例外として、PLが「難易度:HARD」で判定することを選択し、その判定に成功した場合、『基本調査』情報と『詳細調査』情報が同時に開示される。

◉ワザマエ:基本調査情報①:ペントハウスにセキュリティーカメラの類はみられないが、ブラックスーツを着用したメイライ社の兵士が定位置で警備にあたっている。彼らは樹海で遭遇したときと同様の黒いフルフェイスヘルメットを装着しているため、すぐに見分けがつく。武器は携行していないように見える。

詳細調査情報:ブラックスーツに覆われた身体はサイバネティクスにより強化されている。携行武器が見当たらないのは、マシンピストルをサイバネ腕に内蔵しているからである。彼らは常時2~3名のグループで行動・連携しており、誰かが敵を発見したり倒されると即座にそれを察知する。

◆メイライ・ブラックスーツ(種別:モータル)
カラテ     2  体力     1
ニューロン   2  精神力    2
ワザマエ    4  脚力     3
ジツ      -  万札     1
近接攻撃D:3、射撃D:6
◇装備やスキル
 スキル :『◉タクティカル移動射撃』
 サイバネ:『▶テッコLv1』、『▶ヒキャクLv1』、『▷内蔵型マシンピストル』
 装備  :『サイバーヘルメット(サイバーサングラス)』
 
 『▷内蔵型マシンピストル』:内蔵型、遠隔武器、拳銃、連射2、ダメージ1、時間差

◉ワザマエ:基本調査情報②:ペントハウスでは数体のオイランドロイドが給仕や清掃のために歩き回っている。日常生活のルーティンから逸脱した動きもみられ、監視カメラの役割も担っているのではないかと推察される。

詳細調査情報:移動の過程でメイライ・ブラックスーツと何らかの会話を行っており、何らかのセキュリティー上の連携をとっていると推察される。ただしその連携はアナログであり、発見されたとしても即座にブラックスーツに警戒状態が伝わるわけではない。また全てのドロイドが給仕衣装の下にハンドガンを携行している。しかし彼女たちの優先行動はゲストの保護であり、積極的に応戦はしない。

◆オイランドロイド (種別:戦闘兵器)
カラテ    4  体力   6
ニューロン  4  精神力  -
ワザマエ   3  脚力   3
ジツ     –  万札   3
攻撃/射撃/機先/電脳  4/3/4/6

◇装備や特記事項
 ハンドガン: 銃器、連射1、ダメージ1
 機械の体 : 近接武器、ダメージ1

『◉絞殺攻撃』:
  殺人オイランドロイドは無表情や笑顔で攻撃対象に近づき、押し倒し、馬乗りになって首を締め上げる。
  もしくは両手で首を掴み、ネック・ハンギング・ツリーの要領で高く掲げる。
  このオイランドロイドは『拘束攻撃(脱出:HARD)』ルールを持つ。
  次の自分の手番まで拘束状態を維持できていた場合、
  自分の手番開始フェイズにその敵に回避不能の1ダメージを自動で与える。

◉ニューロン:基本調査情報①:防諜機能性のガラス戸には破壊を検知するレーザーセンサーが備わっている。これはペントハウス内の警報装置と連動しているものと推察される。

詳細調査情報:警報が発動すると、ペントハウス内のセキュリティー全員に敵の位置が筒抜けになり、アルトゥール博士の私室はオフィス級セキュリティ扉によって隔離されてしまう。

◉ニューロン:基本調査情報②:防衛用のロボニンジャが運び込まれた運搬履歴が残っている。そのモデルコードは『サターン』。一般市場へはロールアウトしていない機体である。最上級セキュリティーとして位置づけられており、恐らくは敵対存在を検知して始めて起動する仕組みと考えられる。

詳細調査情報:サターンにはかなり高度なセキュリティー権限が与えられている。メイライ・ブラックスーツやオイランドロイドへの指揮権から、アルトゥール博士の私室の隔離壁へのアクセス権限にまで及ぶ。


シーン2:ペントハウス襲撃

『安い、安い、実際安い』
空虚な宣伝文句を側に、君たちはマグロ・ツェッペリンの広告ネオンの上で重金属酸性雨を浴びている。この広告宣伝船は唯一、ターゲットが所有するペントハウスの付近を通過する。故に、侵入経路として選択された。

眼下には防重金属酸性雨加工が施されたバルコニーテラスが見えている。予想される着地誤差は、高層ビルの間を吹き抜ける風の影響を考慮しても……軽微。容易に修正可能。

さあ、降下の時間だ。

導入の描写テキスト

事前調査を終えたPCはマグロ・ツェッペリンを渡り、初期配置エリアであるペントハウスのバルコニーへと飛び移る。

これ以降の行動は自由であり、正面突破と潜入のどちらの手段を選択しても構わない。前者の場合は非常にシンプルだが時間制限があり、後者の場合は手間がかかるが本来の目的にじっくりと時間を掛けられる。

マップ全容と凡例

詳細なマップ構造

このマップはデフォルトでは次のような部屋割を想定して作成されている。シチュエーションにも依存するものの、NMはそれぞれの部屋や配置されているキャラクターの詳細について、調査が進んでいない段階では伏せて置くのが望ましい。

1:バルコニー
 ・プレイヤーキャラクターの初期配置エリア
2:南通路
 ・警備兵が2体
3:南東通路
 ・特筆事項なし
4:南西通路
 ・警備兵が1体
5:トイレ
 ・招待客が1人
6:西通路
 ・警備兵が2体、巡回オイランドロイドの初期配置エリア
7:エレベーター
 ・敵NPCの増援POP地点
8:オーセンティックバー
 ・給仕オイランドロイド、警備兵、招待客
9:中央ホール
 ・警備兵、招待客、中央に停止中のロボ・ニンジャ。
10:キッチン
 ・特筆事項なし
11:小部屋
 ・招待客
12:ゲストルーム
 ・招待客(VIP可能性あり)、オイランドロイド
13:北通路
 ・警備兵2体、巡回オイランドロイドの初期配置エリア
14:プライベートスペース
 ・特筆事項なし
15:中継通路
 ・警備兵が2体
16:展示室
 ・警備兵が2体、招待客(変装ニンジャ可能性あり)、重要なトレジャー
 ・ガス・マネキネコトラップが設置されている(警報に連動)
17:重役のオフィス
 ・ターゲット(重役など)
18:寝室
 ・招待客(VIP可能性あり)

1:バルコニー

ペントハウスに潜入した際の初期配置エリア。スタート時点では敵に発見されていないが、屋内(南通路)とを遮るガラス戸越しに視線が通っており、何も行動しなければ屋内の敵の手番が訪れた時点で発見されてしまう。

TIPS:ガラス戸・窓の解錠
マップ中に複数存在するガラス戸や窓は、基本的に難易度HARDの【ワザマエ】判定で静かに開いて忍び込むことができる。当然突き破って侵入することもできるが、破壊を検知するレーザーセンサーが備わっているため、即座に戦闘状態に突入してしまう。これは【ワザマエ】判定で1の出目を含んで失敗した場合も同様である(失敗した場合、再挑戦はできない)。

2:南通路

メイライ・ブラックスーツが2体、ドアの側を固めている。彼らを排除するのは造作もないだろうが、死体を放置しておくと3ターン目には西通路から移動してきたオイランドロイドに発見されてしまう。

TIPS:死体を隠す
敵を殺害した場合、当然ながら死体はその場に残る。こうした死体は隣接マスから回収し、マップ上の隠匿ポイントに隣接することでそこに隠すことができる。敵を近接攻撃で殺害し、なおかつその対象が隠匿ポイントに隣接している場合は【ワザマエ】判定に難易度NORMALで成功すれば、即座に死体を隠すことができる。

3:南東通路

南通路とオーセンティックバーを繋ぐ中継点。唯一警備がおらず、どこからも視線が通っていないエリア。

4:南西通路

メイライ・ブラックスーツが1体、ドアの側を固めている。この部屋には2ターン後に西通路のオイランドロイドが到着するため、死体を放置しておくと発見され警戒状態に突入してしまう。

TIPS:ビルの外周を移動する
マップ上の「ガラス戸・窓」には全て警報装置と繋がったセンサーが取り付けられており、無理やりこじ開けると即座に戦闘状態に突入してしまう。しかしこれを判定によって解除すれば、PCは建物の外周を伝って別の部屋に移動することができる。

基本的な解錠難易度は【ワザマエ】(HARD)であり、『◉トラップ処理技術』の対象となる。外周マスはすべて『移動困難な地形』とみなされる。

当然ながら、再び内部に侵入するには窓を解錠するか突き破る必要がある。

5:トイレ

何の変哲もないトイレ。死体や武器を隠しておくことができる。個室のひとつでは、ペントハウスのゲストが隠れて高純度のトロ粉末を吸引している。

ゲストを殺害すれば『トロ粉末』と『【万札】2』を奪うことができる。

TIPS:ゲストを殺害する
このペントハウスを訪れているゲストはPCの任務とは無関係の存在であり、いずれも暗黒メガコーポと繋がりを持ち、清廉潔白な人物とは言い難い。PCは望むなら彼らを殺し、変装用の衣服など持ち物を奪うこともできる。

明記されている場合を除き、所持【万札】は2として扱う。また例外を除き、殺害時にDKKを入手することはないが、シナリオ終了時に総殺害数に応じて全PCに相応のDKKが付与される。

6:西通路

2人のメイライ・ブラックスーツが中央ホールへの扉を守っている。他には潜入開始時点でオイランドロイドが清掃を行っており、毎ターン移動して反時計回りにペントハウス内を巡回する。

7:エレベーター

何の変哲もない2機のエレベーター。シナリオの展開により、この場所からゲストとオイランドロイドが避難したり、増援が登場したりする。

8:オーセンティックバー

2体のオイランドロイドがバーテンダーとして給仕を行い、カウンター席には数人のゲストが座っている。ドロイドの背後はバックバーと交互に広いガラス張りの窓になっており、ネオサイタマの夜景が一望できる。

例外的に、この場所のゲストはマップの東側のみを、ドロイドは西側のみが視界とみなされる。またドロイドの視界はゲストによって遮られており、姿勢を低くすることでその検出から逃れることができる。

上側のオイランドロイドは適時、⑩のキッチンとこの部屋を行き来する。

9:中央ホール

美しいガラス彫刻と柱に囲まれたオープンスペース。テーブルには上等なスシを含めた料理が盛られており、立食パーティーの形態でメガコーポ関係者達が歓談している。

部屋の中央にはオブジェめいて一体のロボ・ニンジャが飾られている。これは事前調査で情報を得られる『サターン』である。サターンには『アクセルカタナ』の武装に似た流線型の黒い装甲が採用されており、かぎ爪を生やした長い腕を床まで垂らしている。

この場所ではゲストの会話から、サターンが高度なAIを搭載していること、オナタカミ社の装甲を採用していることなどを窺い知ることができる。またNMが許可するならテーブル上のスシを食べて回復することも可能である。

TIPS:このロボ・ニンジャは当然ながらただの飾りではなく、実際の動作を想定して弾薬から燃料まで満載された実機である。また"ただのロボ・ニンジャ"でもないため、ウカツにもハッキングを仕掛けようとしたPCはカウンターを受けるだけでなく、その起動と警報の発令を引き起こしてしまう。

10:キッチン

何の変哲もないキッチン。⑧のオーセンティックバーからオイランドロイドの1体が定期的にやってくる。

望むならスシの補給ポイントや、包丁など刃物(小型近接武器)が入手可能としても構わない。ただし手に入るアイテムはシナリオ終了時に消滅する。

11:小部屋

「なに、気にすることはない。君は悪人の目をしている。面白いことになりそうだと、踏んだだけのこと」男は抑揚のない笑い声をあげた。

特別重要な部屋ではない。ひとりのゲストが革張りの椅子に腰掛け、グラスを弄びながら葉巻をくゆらせている。彼はメイライ社に思うところを持つ様子を見せるが内情に詳しい、些か虚無的な男であり、変装中のPCが会話に応じるならアルトゥール博士について幾つかの情報を得ることができる。

◉現在、ペントハウスにはアルトゥール博士の妻と娘も滞在している。娘はオナタカミ社に広報として勤めている。

◉男はアルトゥール博士の公私混合に密かに腹を立てている。ペントハウス中央に設置されたロボ・ニンジャ『サターン』の装甲はわざわざオナタカミ社に委託生産させたものであり、溺愛する娘への私的感情が絡んでいることは疑いようもない。

◉公にはなっていないが、オナタカミからメイライの上層部へ何らかのアプローチがあったという噂がある。現状を見るにその提案は一蹴されているが、先の通りアルトゥール博士と娘という窓口からオナタカミはジワジワと入り込もうとしている。

◉サターンはオムラの試作型ロボ・ニンジャ『モーター・ドクロ』を素体にオナタカミの流線型デザイン装甲を採用、さらにメイライの独自技術を組み込んだ危険な戦闘兵器である。怪物のような鈎爪に、巨大なバルカン砲、ミサイルポッド、ジェット推進エンジンなど多数の武装を備えている。またそのAI制御は"オムラのポンコツ"とは比べ物にならないほど高度であるという。

なおこの人物の正体はアシッドウルフに与するビクターであり、名前を求められたならば『シンマキ・ソウキュウ』と名乗り、名刺を差し出す。
 ビクターはPCを監視する役割を担っているが、将来的に彼らをタイジン・ジツの契約奴隷としてアシッドウルフから奪い取る計画を練っているため、積極的に彼らと接点を持とうとする。そのため、NMはこのシナリオにおいて、暗黒投資家シンマキ・ソウキュウを『有用な情報を提供してくるお助けNPC』のように運用することが望ましい。

また仮に(変装用の衣服を奪おうとしたり、怪しいと先走ってしまったりして)PCが彼を攻撃しようとした場合、タイジン・ジツで縛られた奴隷ニンジャがステルス状態を解除して現れ、それを阻止する。PCが追撃を加える意図がなければ戦闘状態には発展しない。

◆ビクター(種別:ニンジャ)
カラテ     8   体力     12
ニューロン   8   精神力    13
ワザマエ    7   脚力     4
ジツ      4   万札     25
近接攻撃D:8、射撃D:7、回避D:9
◇装備やスキル
 スキル :『●連続攻撃2』、『●連射2』、『●時間差』、『●マルチターゲット』
      『◉剛力(出目【6】含む近接攻撃は『痛打+1』)』、『◉挑発』
      『◉ニューロン・ブースト』、『◉翻弄』、『◉◉グレーター級ソウルの力』
      『☆◉ニンジャ存在感のオーラ(標準的)』

『●全身義体』:
 全身を医療用サイバネで置換しており、痛覚を完全に遮断することができる。
 このキャラは『◉痛覚遮断』を取得しているものとみなされる。

『☆タイジン・ジツ』:
  手番開始フェイズに【精神力】を1消費し、瞬時行動として発動する(難易度NORMAL)。
  発動した場合、射線の通る敵1体を術者の次の手番開始時まで『不覚状態』とする。
  相手はこれを望まない場合、回避判定を行う(HARD)。

『★センド・ジツ』:
  手番開始フェイズに【精神力】を1消費し、瞬時行動として発動する(難易度HARD)。
  自身もしくは視線の通っている味方キャラに隣接する3×3マスを『NRS錯乱モータル』マスとする。
  
  このマスは「移動困難な地形」であり、術者側の味方NPCとして扱われる(【体力】1)。
  また頭上ないし隣接マスを通過しようとする敵に回避ダイスダメージ1(回避NORMAL)を与え、
  命中した場合はそこで移動を強制的に終了させる。

12:ゲストルーム

何の変哲もないゲストルーム。西通路から入るには難易度Hのハッキングに成功する必要がある。この部屋にはアルトゥール博士の娘が滞在しており、一体のオイランドロイドがメイドとして室内に控えている。

オイランドロイドは非常に頑丈であり、メイライ・ブラックスーツほど簡単に倒すことはできない。娘を攫おうと考えるなら、ドアをノックして誘導する、事前に窓のセンサーを解除してスナイパーニンジャに狙撃させる(後述)など、幾つかの工夫が必要になる。

13:北通路

2人のメイライ・ブラックスーツが中央ホールへの扉を守っている。他には潜入開始時点でオイランドロイドが清掃を行っており、毎ターン移動して時計回りにペントハウス内を巡回する。

14:プライベートスペース

特別重要な部屋ではない。ゲストルームと寝室から、トイレとシャワールームに繋がっている。

警報が鳴った時、北通路から繋がる扉は『ダメージ軽減2』かつ【体力】10を持つオフィス級セキュリティ扉に閉ざされてしまう(解除方法はリンク先を参照)。

15:中継通路

展示室とアルトゥール博士のオフィスに繋がる中継通路。2人のメイライ・ブラックスーツが見張りを行っている。PCが変装状態でオフィスに入ろうとした時、ブラックスーツに呼び止められてしまう(彼らを殺さなければ取り抜けられない)。

16:展示室

アルトゥール博士の個人的な収集品が展示されている部屋。見事なカケジクなど様々な美術品が飾られているが、マップ中では3つの品をトレジャーとして回収することができる。ただし、いずれも【ワザマエ】判定(HARD)でセンサーを解除しなければ、即座に位置が敵にバレてしまう。

①月の石:一見して何か判別がつかない小さな黒い鉱石。シナリオ終了後、アシッドウルフに特別なサイバネティクスに加工してもらうことができる。
②古代マヤ文明の純金装飾品:【万札】40に換算する。
③年代物の古代中国様式茶道具一式:【万札】10に換算する。

なお、この部屋にはガス招き猫がトラップとして3機設置されている。

17:アルトゥール博士のオフィス

ターゲットであるアルトゥール博士の接待用オフィス。彼は一通りの接客を終え、シナリオ中はこのオフィスで書き物をして過ごしている。デスクの下には警報ボタンが仕掛けてあるが、PCに先んじてそれを押すことはできない。

彼はマップ上の全ての電子ロックを解除するマスターパスワードを知っており、尋問でそれを聞き出すことができる。アルトゥール博士への尋問や乱入者イベントについては『シーン3』以降を参照。

警報が鳴った時、中継通路から繋がる扉と窓はオフィス級セキュリティ扉に閉ざされてしまう(解除方法はリンク先を参照)。

◆アルトゥール・ルドルフ博士 (種別:モータル)
カラテ     1  体力     2
ニューロン   4  精神力    5
ワザマエ    3  脚力     2
ジツ      -  万札     10
◇装備やスキル
 『▶クロームハートLv1』

18:寝室

アルトゥール博士の寝室。特別重要な部屋ではない。何らかのインシデントで警報が鳴り、彼が敵の脅威に晒されていない場合、一旦はこの部屋に逃げ込む。

◇隠密行動のルール

PCは敵対キャラクターに発見されるまで、幾つかの方法でペントハウスに忍び込むことができる。次に示すのは潜入手段の例と、それに伴う『隠密行動のルール』である。正面突破を行うに十分な実力あるのでもなければ、基本的にこちらの方法でスマートに任務を遂行することが推奨される。

"視界"に関する処理

◉プレイヤーキャラクターは招待客に変装して忍び込むことができる。ただし変装中は『素手/スリケン』以外の武器の装備や、移動スタイルの使用ができない。この例外は『内蔵型武器』である。
 *『大型』ないし『変身』効果中のキャラは変装することができない。
 *『変身』系のジツを使用した場合、即座に変装は解除される。

◉敵NPCの行動手番が回ってきたとき、視線の通っているマスに次のキャラが存在すると警報が発報され、即座に戦闘状態に突入する。
 *非変装状態のプレイヤーキャラクター
 *死亡・気絶した状態のキャラクター

 ◉この対象となった『ステルス状態』のキャラクターは『ジツ発動判定』を行う(難易度:EASY、コストは発生しない)。このとき、対象のキャラクターを視界に捉えている敵の人数分だけ『発動判定ダイス』
が減少する。

"ステルスキル"に関する処理

◉プレイヤーキャラクターは射撃もしくは近接攻撃によって、音もなくNPCを始末することができる(ステルスキル)。ただし、この際の判定難易度は全て+1される。
 *銃火器を使用する場合、消音器を用いていると考える。

◉プレイヤーキャラクターが次のような行動を取った場合、隠密状態は即座に解除され、戦闘状態に突入する。
 *爆発や炎を生み出すような攻撃を行う
 *重火器を用いて攻撃する
 *その他、NMが『目立つ/騒音が響く』と判断した行動を取る
  ※こうした行動を試みようとした場合、NMは必ず事前に警告を行う

◉『ステルスキル』したNPCの死体はその場に残り、巡回NPCに視認される可能性がある。ただし、そのPCは『隠匿ポイント』を通過することで、直前の手番で殺害したキャラクターの死体を隠すことができる。

潜入手段の例

◉潜入手段1:警備のブラックスーツやゲストに変装して潜入することができる。後者は無条件だが、前者はブラックスーツを倒してヘルメットを奪う必要がある。

この方法で潜入する場合、敵の視界に入っても一切警戒状態にならないが、『素手/スリケン』以外の武器の装備や、移動スタイルの使用ができない。

より厳しい裁定を取る場合、「メイライ・ブラックスーツはスキャナーによって武器を検出するため、持ち歩くことができない」ものとして、武器スロットの使用を制限し、戦闘開始から1ターンは『素手/スリケン』以外に装備を変更できないなどの縛りを掛けても良い。この場合、変装はかなり安全に行動できる方法ではある一方で、敵に検出されたとき不利になる可能性を秘める。

◇メイライ・トルーパーのサイバーヘルメット
 流線型のフルフェイスヘルメット。頭部装備として装着。
 他の警備兵のIRC交信情報を覗き見ることができるが、
 謎のサブリミナル映像により、装備中は【精神力】の最大値が-1されてしまう。


潜入手段2:武器を装備したまま、ニンジャらしく視界を逃れながら潜入することができる。非常にシンプルだが、警備とは無関係のモータルの視界も気にする必要があり、発見される可能性も高い。

より厳しい裁定を取る場合、「連続側転」中でなければNPCの隣接マスを通過した時点で敵として検出されてしまうものとしても構わない。ゲスト客がNRS症状を起こし、その場に警備が急行してくることになる。

警備キャラクターについて

◇NPCデータ:メイライ・ブラックスーツ

ペントハウスの主要な警備はこのブラックスーツが担っている。侵入者が発見されるまで彼らは定位置から動かないが、同じ部屋にいる仲間がやられたとき即座にそれを検知して戦闘態勢に入る。

つまり、同じ部屋に2人が配備されている場合、彼らの行動手番が訪れるまでに2人を始末しなければ戦闘状態に突入してしまう。

◆メイライ・ブラックスーツ(種別:モータル)
カラテ     2  体力     1
ニューロン   2  精神力    2
ワザマエ    4  脚力     3
ジツ      -  万札     1
近接攻撃D:3、射撃D:6
◇装備やスキル
 スキル :『◉タクティカル移動射撃』
 サイバネ:『▶テッコLv1』、『▶ヒキャクLv1』、『▷内蔵型マシンピストル』
 装備  :『サイバーヘルメット(サイバーサングラス)』
 
 『▷内蔵型マシンピストル』:内蔵型、遠隔武器、拳銃、連射2、ダメージ1、時間差

◇NPCデータ:給仕オイランドロイド

ブラックスーツとは異なり、オイランドロイドは給仕や清掃のためペントハウス内部を歩き回っている。バーカウンターなど定位置で業務に従事している個体も存在するが、いずれも敵を検知した時点でブラックスーツに警告を飛ばす。

NMは前者のオイランドロイドを、機械的に毎ターン3マスずつ、最短経路で反時計回りに移動させる。

◆オイランドロイド (種別:戦闘兵器)
カラテ    4  体力   6
ニューロン  4  精神力  -
ワザマエ   3  脚力   3
ジツ     –  万札   3
攻撃/射撃/機先/電脳  4/3/4/6

◇装備や特記事項
 ハンドガン: 銃器、連射1、ダメージ1
 機械の体 : 近接武器、ダメージ1

『◉絞殺攻撃』:
  殺人オイランドロイドは無表情や笑顔で攻撃対象に近づき、押し倒し、馬乗りになって首を締め上げる。
  もしくは両手で首を掴み、ネック・ハンギング・ツリーの要領で高く掲げる。
  このオイランドロイドは『拘束攻撃(脱出:HARD)』ルールを持つ。
  次の自分の手番まで拘束状態を維持できていた場合、
  自分の手番開始フェイズにその敵に回避不能の1ダメージを自動で与える。

シーン3:尋問

敵に検出されず⑰のオフィスに到達できた場合、PCはその場でアルトゥール博士を尋問するチャンスを得ることができる。彼を拉致することを選択した、あるいは彼と接触する前に戦闘状態に突入してしまった場合、この尋問シーンはアシッドウルフが用意した隠れ家のひとつで、シナリオ終了後に発生する。

アルトゥール・ルドルフ博士について/尋問内容

アルトゥール・ルドルフ博士は電子戦争以前に液体燃料多段式ロケットやミサイルの開発に携わり、第2次世界大戦後、メガトリイ社に招聘されたドイツ人の高名なロケット技術者である。彼はY2Kカタストロフィ直前に何らかの理由でメガトリイ社を離反し、メガコーポ連合側に寝返った。現在はメイライ社の重役として様々なテックの開発に協力している。当時30代後半、現在は50代に差し掛かっている。

彼との接触に成功したとき、アシッドウルフは尋問内容をPCにIRCで指示してくる。以下は想定される指示と、アルトゥールの返答である。

指示:『"我々が誰だか分かるか?"と聞け』
回答:「わ、わからない。競合他社のアサシンか!?それとも、ゴットリーブ=サンに接触してきた連中のエージェントか!?」

指示:『"電子戦争以前の過去からやって来た"と言ってやれ』
回答:「まさか……まさか君たちは……!そんな、あ、ありえない!何故今になって!?」

指示:『いいか。そいつは裏切り者だ。Y2Kカタストロフィの直後、数名の技術者とメガトリイから消えた。メガコーポ連合の引き抜きを受けてな。そいつは俺達が流した血で、上等なスシを口にしている。聞き出す情報がある。少しばかり"従順"にしてやれ』
回答:「グワーッ!やめろ!やめてくれ!か、家族のために仕方無かったんだ……!そ、それに、先導したのはゴットリーブ=サンだ……逆らえなかった!」

指示:『いいぞ。COO"ゴットリーブ"の居所を吐かせろ』
回答:「無理だ……彼に殺されてしまう!」

指示:『ペントハウスの内部にそいつの妻と娘がいる。娘はオナタカミの広報だ。使え』
回答:「ヤメロー!ヤメロー!」

指示:『尋問しろ。必要ならどちらかを殺せ』
回答:「シャッタード・ランドだ!精確な位置は分からないが、ゴットリーブ=サンはそこに要塞拠点を、研究所を構えている……難攻不落だぞ……!落とせるものか……!」

指示:『よし、十分な収穫だ。皆殺しにしろ』
回答:「やめてくれ!言う通りにしたじゃないか!君たちの……君たちの役に立つ!私は技術者だ……頼む、殺さないでくれ!」

このシーンでアシッドウルフはPCにアルトゥール博士を痛めつけさせ、必要な情報を得るためであればその家族の命を奪うことさえ命じる。彼の目的はメイライのCOOである"ゴットリーブ"なる人物の情報を聞き出すことであり、それさえ果たすことができれば後はアルトゥール博士と家族を皆殺しにするように指示してくる。

もしPCがアルトゥール博士に対して慈悲深い行動(家族を殺さないなど穏便な行動)を取っていた場合、彼はサイバネの修理などで役に立てる、と命乞いをする。これを受け入れたなら、アルトゥール博士をブラック・サイトに拉致して協力させることができる。既に家族を殺していた場合、彼は一切協力姿勢を見せず、激高し、無謀にもニンジャに襲いかかるだろう。

アシッドウルフはアルトゥールの生死には関心を持たず、殺害の指示を出すものの、PCが彼を活かそうが殺そうがその判断を尊重する。

シーン4:乱戦

何らかの理由でPCが敵に発見され戦闘状態に突入した場合、あるいはアルトゥール博士を尋問したり、拉致しようとしたりして心拍異常が確認された場合、強制的にこのシーンの戦闘イベントが引き起こされる。

セキュリティの行動パターン

ペントハウス内で侵入者が検知されたとき、まずはブラックスーツが排除に動き、オイランドロイドがゲストの避難誘導を行う。ブラックスーツでは対処が困難と判断される場合、あるいは既にターゲットへ敵が到達している場合、アルトゥール博士の私室がセキュリティ隔壁にロックダウンされ、危険なロボ・ニンジャ"サターン"が問題の対処にあたる。

また特殊なケースとして、PCの尋問や攻撃などでアルトゥール博士の心拍数が跳ね上がった時、自動的にスキャニングを行いPCを検知した後、1~2ターン経過後に"サターン"は起動する。

最上級セキュリティー

『今日は随分と招かれざる客が多いですね』ボディ正面のLEDが明滅し、"サターン"と思われるロボ・ニンジャが電子音を発する。

「ドーモ、コスモクライムです。私は概念蘇生ニンジャです。アルトゥール博士の護衛を任されていますが、同時に緊急時における彼の存在抹消権限も有しています」ロボ・ニンジャはマシンガンを両腕に内蔵すると、鈎爪を打ち合わせオジギを……アイサツを繰り出した!

ボスキャラクター遭遇時の描写テキスト

最上級のセキュリティ存在であるサターンは『コスモクライム』と名乗り、ニンジャのように行動する。彼は起動すると「壁を無視して突き破りながら」アルトゥール博士の元、あるいは敵の元へと文字通り"直進"する。

彼には非常に高いセキュリティ権限が与えられており、もしアルトゥール博士がメイライ社を裏切ろうとしたり、誰かに連れ去られようとした場合、情報漏えいを防ぐためにその殺害ですら厭わない。

◇NPCデータ:コスモクライム(サターン)

「ハ、ハ、ハ。なるほど、なかなかのワザマエですね。アナタに関する戦闘評価を修正します」 /// 「サイバネとの同期に……やはり無視できないラグが」 /// 「しかし、覚えましたよ。次はもっとうまくやります」

セリフ例

コスモクライムはこのシナリオ時点ではかなり強力な火力を持つボスキャラクターとなっており、PL/PCにその存在感が印象付けられることを想定されている。彼は単体では回避性能も低く、多人数相手には長期戦を耐えられないため、NMは適時コスモクライムによってメイライ社の増援をPOPさせ連携行動を取らせると良い。

◆コスモクライム/サターン(種別:戦闘兵器、大型2x2)
カラテ     8   体力     16
ニューロン   2   精神力    -
ワザマエ    12  脚力     3
ジツ      -   万札     30
近接攻撃D:8、射撃D:12、回避D:2
◇装備やスキル
 スキル :『●連続攻撃2』、『◉ツジギリ』、『◉タクティカル移動射撃』
      『◉緊急ブリッジ回避』

 サイバネ:『▷▷ジェットパック・ユニット』、『▷脚部内蔵型マイクロミサイルポッド』
      『▷クロスLEDウェポンライト(第二の心臓)』

 『電磁クローアームx2』:特殊近接武器、ダメージ1、電磁ダメージ1
 『ダブル・オムラ・マシンガン』:遠隔武器、連射6、ダメージ1、小銃、マルチターゲット

 『●高性能ニンジャAI』:
  このキャラクターは毎ターン開始時に回避ダイスを必ず2つ得る。

 『●ゼンメツ・アクション・モード』:
  【体力】が半分以下まで低下したとき、常時『キリングマシーン』と同等の効果を得る。

 『●移動スタイル:殺人轢殺タックル』:
  移動フェイズ開始時に使用を宣言できる。使用した場合、『突撃』と同様の効果を得る。
  この『突撃』は障害物や厚さ2ptまでの壁を貫通・破壊し、通過した全キャラに対して
  轢殺ダメージ1を与える。

◇NPCデータ:メイライ・オペレーター

『最上階、ドスエ』電子マイコ音製と共にエレベーターが最上階に到着。複数の足音と共に兵士たちがフロアに殺到する!

『コスモクライム=サン。緊急対応チーム、アルファが最上階に到着しました。指示を』『ゼンメツしてください』『了解』

難易度調整のオプションとして、他のフロアで待機していたメイライの対応部隊が戦闘の途中で増援に現れる可能性がある。具体的なタイミングとしては、コスモクライムの【体力】が半減し『ゼンメツ・アクションモード』が発動する前後のターン開始時が望ましい(マップ上で生存しているブラックスーツの人数も考慮すること)。

この部隊は1体のメイライ・オペレーターが隊長として、3体程度のメイライ・トルーパーを引き連れエレベーターからPOPする。単純な戦闘要員以外でも、NMは彼らを次ように難易度調整のオプションとして使用することができる。

◉PCが非常に強力でコスモクライムがすぐに倒されてしまいそうなため、増援として戦闘に参加させる。この場合、ある種のアンブッシュとしてPOP地点から即座に「通常移動」を行えるものとする。

◉アルトゥール博士から非常に離れてしまっており、後述のセクトの乱入者への対処が難しい場合、PCの代わりに彼らを向かわせて足止めないし乱入者を消耗させる(これはイベントとして処理してしまっても構わない)。

◆メイライ・オペレーター(種別:モータル)
カラテ     4  体力     4
ニューロン   3  精神力    3
ワザマエ    6  脚力     5
ジツ      -  万札     5
近接攻撃D:4、射撃D:8
◇装備やスキル
 スキル :『◉タクティカル移動射撃』、『◉トリガーハッピー』、『◉ウィークポイント射撃』
 サイバネ:『▶テッコLv1』、『▶ヒキャクLv1』、『▶クロームハートLv1』、『▷自動蘇生装置』
 装備  :『パルス・グレネード』、『サイバーヘルメット(軍用サイバーサングラス)』
      『メイライ・タクティカルSMG(マシンガン)』

 『軽量型メイライ・タクティカルスーツ』:
  最低限の装甲を備えた軽量のパワードスーツ。【脚力】+1。

 『●戦術指揮』:
  同じマップ上に居る味方のモータルNPCの移動可能マス数を2倍にする。
◆メイライ・トルーパー/アシガル級(種別:モータル)
カラテ     2  体力     1
ニューロン   2  精神力    2
ワザマエ    4  脚力     3
ジツ      -  万札     1
近接攻撃D:2、射撃D:6
◇装備やスキル
 スキル:『◉タクティカル移動射撃』
 装備 :『アサルトライフル&ミハル・ドットサイト, 赤外線レーザーサイト』
     『サイバーヘルメット(サイバーサングラス)』
 
 『軽量型メイライ・タクティカルスーツ』:
  最低限の装甲を備えた軽量のパワードスーツ。【脚力】+1。

未知の乱入者

「アルトゥール=サン、私の名前はブラックメイルです。私はより大きなビジネスを提案しに来た」 /// 「黙れ。死ね」

このシナリオの間、実はPC以外にもアマクダリ・セクトのエージェント「ブラックメイル」がアルトゥール博士と接触しようと潜入を行っている。

彼女はゲスト客変装して紛れ込み、接触するタイミングを見計らっているが、順当に進んだ場合、物語としてはPCたちのほうが先にアルトゥール博士に接触してしまう。ブラックメイルが姿を現して行動し始めるのは、次のような状況に陥った場合だ。

◉別の招かれざる客:隠密状態でアルトゥール博士と接触し、(NMが許可するなら)PCが【ニューロン】判定などで影から監視するブラックメイルに気がついた時、彼女は介入を試みる。ここは対抗判定としても構わない。

「ブラックメイルの出現と同時にNRSを悪化させたアルトゥールの心拍異常を察知して」あるいは「ブラックメイルが意図的に警報を作動させたことにより」コスモクライムが起動する可能性がある。

◉アブハチトラズ:起動したコスモクライムとPCが交戦を開始し、アルトゥールから注意をそらした時。ブラックメイルはアルトゥールを適度に痛めつけ従順にした後、その場から連れ去ろうとする。アルトゥール博士の部屋はセキュリティドアで隔離されてしまうため、彼女は必然的に北側のベランダを目指すことになる。

コスモクライムは兵士たちを優先してアルトゥールの保護に差し向け、必要であれば彼を殺そうと自ら銃撃を加える(これはブラックメイルの目的がアルトゥールであると見越した行動でもあり、実際彼女はムテキ・メイルでアルトゥールを守る。そして【精神力】を消耗させる。)

戦闘になれば彼女はアルトゥールを担ぐのを止めて敵に対処しようとする。そのため特別特殊な判定を行わなくても拉致への対処は容易だ。

◉不本意な遭遇:PCがアルトゥール博士に到達する前に警報を鳴らしてしまった場合、ブラックメイルは計画を切り上げてアルトゥール博士の元に直行する。

これにより、彼女はPCよりも先にターゲットと接触することになるが、出現したコスモクライムがPCとの戦闘より先にそれを検知した場合、PCはコスモクライムの銃撃からムテキ・メイルでアルトゥールを守る姿のブラックメイルと遭遇することになる。

遭遇の緩和

展示室には幾つかの独特な展示品が飾られており、それを守るように2人のブラックスーツが待機している。また展示品を興味なさげに……眺めているのは肌の白い女だ。

「なんだ……失せろ。私に関わるな」女は振り返り、黒く縁取られた目で射竦めるように睨んだ。

遭遇時の描写例

ブラックメイルとの遭遇が唐突過ぎると感じる場合、NMはPCがアルトゥール博士に到達する前に、彼女と遭遇するチャンスを設けると良い。ブラックメイルはゲスト客のひとりに変装して紛れ込んでおり、互いに変装した状態であれば比較的穏便な形で接触が発生する可能性がある。

このとき互いに【ニューロン】判定(NORMAL)を行い、より成功値が多い側のキャラクターは「相手がニンジャである」ということに気がつく。同値の場合はこの事実へ互いに気がつく。

ただしそこから戦闘に発展することも、それ以上の会話が発生することもない。ブラックメイルはすぐにその場から姿を消し、PLは彼女が敵か味方か、場合によってはアルトゥール博士の護衛なのかと思考を巡らすことになる。

ブラックメイルを撃退する

コスモクライムとの戦闘を考えると、現れたブラックメイルとの連戦や3者入り乱れた乱戦は非常に処理が重くなることが想定される。そのためNMはPC対ブラックメイルでイクサに決着をつけさせるのではなく、何らかの妥協点を設けるのが望ましい。

例えばコスモクライムは状況判断し、PCに一時的な共闘を申し出る可能性がある(しかしその後に殺すとも明言する)。ブラックメイルは凄まじい飽和攻撃にムテキを解除できず、その場に押し留められてしまうだろう。勿論逆のパターンもあり、ブラックメイルと共闘してコスモクライムをまず破壊する、という展開も想定される。

こうしたシーンではイベント処理として、飽和攻撃やスナイパーの狙撃支援により、ムテキ状態のブラックメイルを窓から外界へと吹き飛ばす、などの演出を行う(ブラックメイルは爆発四散するまでは戦わず、戦況によっては離脱を選択する)。

TIPS:ブラックメイルと共闘する場合、彼女はPCの注意がコスモクライムに向いたことを確認すると、即座にアルトゥール博士を連れて脱出を試みる。NPCが博士を担いで移動することには何のペナルティもなく、担ぐ/下ろすは瞬時行動とみなされる。

この時点でPCの優先攻撃対象はブラックメイルとなり、実質的にコスモクライムの生存ターン数が延長されることを想定している。PCとコスモクライムの両者がブラックメイルを追いかける構造になるため、戦闘は次のような順で推移することになる。

1:プレイヤーキャラクター&ブラックメイルVSコスモクライム
2:プレイヤーキャラクターVSブラックメイルVSコスモクライム
3:プレイヤーキャラクターVSコスモクライム

◆ブラックメイル  (種別:ニンジャ)
カラテ    4  体力   6
ニューロン  4  精神力  4
ワザマエ   7  脚力   4/N
ジツ     4  万札   10

攻撃/射撃/機先/電脳  4/4/5/6
回避/精密/側転/発動  7/7/7/8

◇装備や特記事項
 ▶︎生体LAN端子LV1、▷ファイアウォールx1、アサシンダガー
 『◉頑強なる肉体』、『◉滅多斬り』、『◉ツジギリ』、『◉疾駆』、
 『☆◉バリケード化』、『☆◉瞬時の解除』、
 『☆ムテキ・アティチュードLV1-3』、『★ムテキ・メイル』

狙撃支援

このシナリオ中、NMが望むならスナイパーニンジャ「サイオコール」が高所から観測を行っていることにしても良い。

PCはマップ上の東西南北の任意の位置にスナイパーニンジャを配置し、1ターンに合計1回まで、任意のPCの手番終了フェイズの「瞬時行動」として現在地からの『狙撃支援』を依頼することができる。

この狙撃は配置されている方位に面する、いずれかの窓から射線が通っている対象にのみ有効となる。別方向からの支援が必要な場合、任意のPCの手番終了フェイズの「瞬時行動」として『狙撃支援』の代わりに任意の方位に移動させることもできる。

狙撃支援:『スナイパースリケン』、『ダメージD3』、『回避難易度:HARD』
     この攻撃が命中したとき、対象を1マスだけノックバックさせる。

このオプションの使い道としては、ボス戦闘難易度の減少、ザコ敵の数減らし、ノックバックによるブラックメイルの戦闘領域からの強制退場を想定している。

特に最後の選択肢については、ムテキによって攻撃を防がれたタイミングで狙撃することで確実に敵を排除することが可能となっている。

結末

『安い、安い、実際安い』ニンジャたちは現れた時と同じように、マグロツェッペリンへと飛び移り、姿を消した。ペントハウスから幾つかの謎、疑問、不安、もしかすると幾らかの高揚感を持って。

ボス級の敵をすべて排除し、アルトゥール博士の身柄の確保が確定した段階でこのシナリオは完了となる。

得られる情報/ストーリーフック

このシナリオではPCの選択やRPによって、得られる情報やCPの今後の展開に変化が起こる。いずれもクリティカルな内容ではないが、NMは下記を参考に以降の方針や開示情報の調整を行うと良い。

◉『ゴットリーブ』なる人物について
『ブレイン・ウォーフェア』に引き続き、このシナリオでも"ゴットリーブ"という名前が登場する。ゴットリーブはメイライ社で相当な権力を握っている重役(COO)であり、その所在はメイライ本社ではなく、シャッタード・ランドに隠されたメイライの秘密要塞施設であるとされる。彼はかつて〈鷲の一族〉に与するスパイマスターであったが、電子戦争の開戦直前に複数名の技術者を引き連れて暗黒メガコーポ連合側に寝返った。
彼の正体に関する秘密は、アシッドウルフだけが知っている。

◉アルトゥール博士の殺害もしくは確保
アルトゥール博士が連れ去られた場合、アマクダリ・セクトはロケット技術者を確保でき、なおかつメイライに対するカードを得たこととなる。彼らの計画は推進され、今後、本来はメイライと相対するシーンでセクトの構成員が同時に現れる可能性がある(CP難易度の上昇)。

アルトゥール博士が死亡した場合、全ての不安要素は排除され、物語に大きな変化は起きない。当然ながら、PCは将来的に彼から得られる情報や協力を失う。

アルトゥール博士の懐柔や拉致に成功した場合、彼はアシッドウルフによって手酷い拷問を受け"従順"になった後、PCたちのサイバネティクスの強化などに協力してくれるようになる。

◉ブラックメイルとの決着
ブラックメイルと交戦したうえで彼女が生存した場合、アマクダリ・セクトはPCの存在と活動を認知する。もし彼らが「鷲のニンジャ」というキーワードを口にしてしまっていたなら、PCはハタモトなど上級アクシスの要警戒対象としてブラックリストに登録されてしまう。

一方でブラックメイルは天下紋のバッジを後に残し、PCはアマクダリ・セクトの存在を、PLは自分たちがアマクダリ・セクトの構成員ではないという事実を知ることになる。

◉コスモクライムの正体
コスモクライムとの決着が着くとき、ロボニンジャの外装は破壊され動作不能となるが、彼はその状態でしばらく喋り続け、特別死を恐れることはない。そればかりか、まるで生き返って再挑戦する機会がある、かのように言葉を紡ぐ。

もしPCがその内部構造を調べようと試みるなら、サターンの内部にはある種のバイオニューロンチップが搭載されていることが分かる。ただし知識のないPCがそれを識別できるかどうかは別問題だ。

コスモクライムのニューロン記憶はチップコピーが無数に作成されており、PCが再びメイライと事を構えるとき、他の素体に"ペースト"された状態で再び"コスモクライム"として立ちふさがることになるだろう。

◉アシッドウルフの言動のゆらぎ
このシナリオ中、アシッドウルフ(スパイマスター)は冷静な指揮官として合理的判断をくだす一方、裏切り者を苦しめてやろうという怒りから暴力的な指示を出すことがある。しかしながら、もし暴力的な指示にPCが背き、かつ合理的な理由があるのであれば特にそれを咎めないという異質さを見せる。これはアシッドウルフ(スパイマスター)が自己暗示と洗脳で生み出した多重人格的な自我が原因であり、優秀なスパイマスターである鷲のニンジャの人格と、裏切り者に対する怒りと再興に向けた野心を秘めた〈鷲の一族〉の人格が干渉を起こしている現れとなる。

*アシッドウルフの人格のゆらぎは、一人称の変化として表現できる。前者の場合は"俺"、後者の場合は"私"と言った具合である。

◉『鷲の腕』の未知の機構
PCがもれなく装備している『鷲の腕』には、用途不明のカートリッジが挿入されている。PLはアシッドウルフがPCについて、何らかの秘密を握っていることを察することができるかもしれない。

エピローグ

NMはシナリオ終了後、次のようなショートエピソードを開示し、ペントハウスにおける戦闘の後の出来事を描く。ここでは『ブレイン・ウォーフェア』で爆発四散したはずのニンジャが再登場し、コスモクライムの存在と合わせてメイライ社が何らかの秘密を有していることを示唆する。

【ペントハウス |事件発生現場】
 不自然な床の亀裂と、何かが掘り進んだような穴。壁や柱にめり込む、なんの変哲も無いガラス片。あるいは家具の残骸。黒い流線型の装甲服を纏った影が、次々と確かめるように殺戮の跡へ手を這わす。

「ニンジャ」痕跡を辿る。ロボ・ニンジャが死んでいる。

 銃痕と、そこに残る潰れた弾頭。小口径だ。メイライ社の装備規格とは合致しない。推定、一般的なチャカ・ガンによるもの。破損した頭部装甲……獣じみたカラテに叩き砕かれた。線めいた、一定の規則性を持つ無数の装甲切断傷。関節に突き刺さったスリケン。変形がひどい。大きな運動量が作用していたに違いない。

 オレンジ色のケミカルスーツを装着したトルーパーが残骸から離れ報告する。「コスモクライム=サンの死亡、確認しました」「だろうな。派手にやりすぎだ」ヘルメットのエフェクターを介したスペイシー・ボイスから感情を読み取ることは難しい。しかし、そこには微かな苛立ちのニュアンスが含まれていた。

「ニューロンチップは?」「僅かにデータ破損の可能性がありますが、問題ありません」「デッカーが来る。全て回収しろ。あとは本人に直接聞く」「了解」

 そこに入れ替わるように、重装備のオペレーターが別の報告に現れた「死体、確認できません。やはり2人分不足。攫われたものかと」。

 アルトゥール博士、そしてその娘のことだ。彼個人にオナタカミ社からの接触があったことは本社も把握していた。そして重要な……V3技術漏洩のリスクを避けるため、密かに有事におけるその抹殺許可さえ下されていた。"コスモクライム"はその権限を与えられた上級戦闘職員のひとりであった。

 それがこのザマである。少なくとも敵は3人……いや、それ以上か?「俺の平穏を乱す不穏分子め。メイライに楯突いてタダで済むと思うな……」厄介な残務処理の予感に、機械音を立てて拳を握る。その薄い怒りに応えるように、腰元のサイバーカタナが低く振動音を響かせる。

その影は、アクセルカタナという名を持っていた。

◇報酬(PC1人あたり)

基本報酬:万札15、余暇4日

※撃破したキャラクターの所持万札は除く。
 調整したい場合、所持万札のドロップを無しにして想定獲得分を基本報酬に加算する。
◇名声の獲得
 コスモクライムを撃破した:+1
 ブラックメイルを爆発四散させた:+1
 警報を鳴らさずにターゲットまで接近した:+1

※このシナリオ終了時点で『名声5』到達を想定している。
 NMは適時条件を追加して増加値を調整して構わない。
◇特殊サイバネ『▷ブラック・ブースター』の開放(『月の石』を回収した場合)

◇専用の拡張サイバネ『▷ブラック・ブースター』

『鷲の腕』専用の拡張サイバネ。何らかの黒い液体が入ったカートリッジ状の部品。手番開始フェイズに【体力】1をコストとして消費することで、腕から脳に突き抜けるような熱と共に、後述のいずれかの効果を発揮する。シナリオ中1回までの使用。

効果1:この手番の間『成長の壁』を無視して、一時的に使用者の【ジツ】値を+1する。これに伴って【ジツ】値が4以上になった場合、使用者は任意の★~★★★系のジツを一時的に得る。ただし効果持続系のあらゆるジツは、手番終了フェイズになると即座に効果が終了する。

効果2:この手番の間、使用者の『ジツ』が与えるダメージを+1する。これは例外的にエンハンス種別の効果によるダメージボーナスにも反映される。

ただしカラテミサイルやエンハンスを伴う連続攻撃のように複数回の攻撃判定が発生する場合、最初の1発だけにこのボーナスが加算される。カナシバリ・ジツのように範囲攻撃種別を持つ攻撃の場合、いずれかの敵1体に対するダメージのみにこのボーナスが加算される。

補足コメント

『ペーパークリップ作戦』はCIAの前身であるOSSが関与し、第2次世界大戦末期から実施された実在する作戦であり、その内容はドイツ・ナチスの優秀な科学者を秘密裏に米国に連れ込み雇用するというものでした。そこにはV3ロケットの開発者である重要人物アルトゥール・ルドルフ博士(実在)のような工学技術者もいれば、『フォールス・ウインター』のテーマとなっている『MKウルトラ』計画の源流である生物兵器開発に関わる細菌科学者なども含まれていました。

このシナリオでもタイトル通り科学者がターゲットとなるわけですが、米国に起源を持つアシッドウルフの部下たちが、旧ナチス・ドイツと繋がりを持つコスモクライムが守るペントハウスから科学者を(場合によっては)"雇用"するといったように、実際の出来事をなぞるようなセッティングとなっています。

つまり、Y2Kまでにおおよそ我々が知る歴史通りの出来事が起こっていたとするならば、ターゲットであるアルトゥール博士は『フォールス・ウインター』の世界で2度も"ペーパークリップ作戦"によって"米国に雇用"されるわけです。


初期のプロットにおいて『オペレイシヨン・ペーパークリップ』はMKウルトラ計画に関与した精神科医や、ピグマリオン社のエシオの拉致が目的となるシナリオでした。彼らの役割は、将来的にプレイヤーがアシッドウルフに叛逆することを決めた際に、味方として頼れる人物としてブラックサイト勢力に加わることでした。

しかしながら、彼らは『MKウルトラ計画』や『アマクダリ・セクトの再定義計画』といったクライマックスの出来事にあまりにも精通しており、物語が反ブラックサイトの方向性に傾きすぎることから、最終的に本シナリオでの役割はアルトゥール博士に譲る結果となりました。もしこのシナリオが【スルー・ザ・ゴールデン・レーン】のようにエシオをアマクダリと奪い合うような内容になっていた場合、キャンペーンはより波乱に満ちた展開になっていたことでしょう。


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