らくがき「モノクローム」


2023.2.23

 花束なんか要らないよね。うちには花瓶なんか無いし、要らないね。もらったことも無いし、要らないね。黒く枯れるだけだし、要らないね。

 最近、あたたかくなってきた。どうやら世間は春らしい。早く追いつかないといけない。ちらほらと桜が咲いていて、暫くの間は持て囃されて、何度か雨が降ったら散るだろう。

 三月は嫌い。終わるから。
 四月も嫌い。始まるから。

 新生活とか新社会人とか、そういうのがとても疲れる。新しいものに追いついていかないといけないのは、とても疲れる。社会は遅いのか早いのかよく分からないスピードで、それでも進み続けていて、眠い目を擦りながら首をもたげながら足を引きずって歩いている私は追いつくのが精一杯だ。財布の中はレシートだらけ、ということもなく、折り畳まれた数枚のレシートを広げて食費を計算している。何かの切っ掛けさえあれば、こんなことすらもできなくなったりするのだろう。どこからどこまでが正解?どこからどこまでが正気?要らない花束の値段を計算して、レシートを折る。冷蔵庫にチーズを入れて、ドアを閉める。夜が少しずつ短くなっていく。花が咲いては枯れていく。一緒に映画を見て、一緒に泣いて。頭を撫でて、勝手に喋らないで。手を繋いだら、手を離して。
 こんな私に優しくしてくれてありがとう!お礼と言っては何だけど、つまらないものだけど、花束をあげる!長いレシートの折り方も教えてあげる。

 あなたのお母さんになりたかった。だって私は、あなたを殴ったりしないから。私はきっと、私の子供を殴るだろう。出来損ないの役立たず、不細工で頭がおかしくて、お前のせいでみんなが不幸になってしまうって言うだろう。私の子供のことは何もかも分かる。だから、あなたのお母さんになりたい。きれいなお花を花瓶に生けて、黒くなるまでお水をあげる。あなたのお母さんより、私のお母さんより、愛してあげる。本を読みなさい。お野菜を食べなさい。お友達を作りなさい。お勉強をしなさい。幸せそうに笑いなさい。泣くのをやめて笑いなさい。反省しなさい。反省したら謝りなさい。謝ったら、愛してあげる。

 嘘です。一人で死ぬから怒らないでください。


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