閨(ねや)
「仔ウサギのソテー」を食うな 飢えて死ね 食物連鎖、という言葉を、子供の頃に教わった。生き物は、生き物を食べる。生き物は、生き物に食べられることがある。私は、毎日、生き物を食べる。死んでしまった、殺されてしまった、生き物を食べる。生き物の私は、未だ食べられていない。私はずっと、生き残っている。 うさぎは一羽、ニ羽と数えるということを、子供の頃に教わった。長い耳が鳥の羽に見えるから、羽が生えてるなら鳥の仲間だ、と言って、殺して、食べるため、らしい。空を飛べない、見えない
君の手で押し潰される虫になる もうはなうたはきこえてこない ミュージカル映画の曲だ 不細工な男が死んだ後の祭りだ 怪物は怪物のまま死ねますか美容整形外科の広告 春が来る花が咲いては枯れていくきみにやさしいのはひとりだけ 甘い夜 洋画を止めてキスをした 知らない人の訃報 知らない 亡骸に土を被せて曖昧に求めたように求められたら レシートを折っては捨てる天国の扉を叩く 愛されるまで 蜂蜜とチーズのピザが好きだとか言われなくても覚えていたよ 不幸だね 君の子供を抱き
色褪せた花なんか要らないよね。モノクロの映画も、要らないね。長いレシートも、要らないね。君の子供も、要らないね。 季節が、巡る。のっぺり、べったり、いつまでも乾かない水糊で、曖昧に貼り付けた笑顔で、毎日毎日、同じ話を、同じことを、繰り返しているだけなのに。社会が進む。私は、ずっとずっと、いつまでも、空の色や、月の裏や、同じ夢を、見ていたいだけなのに。なのに、でも、だから、また、何度も、何度でも、春が来る。花が咲いては、枯れていく。知らない人が、今日も死ぬ。 何度も見た
寄る辺ない環状線の車窓からあざみが見えて もう見えなくて できるだけ傷つけないよ 後ろから優しい夜で噛まれるうなじ 突き刺さる青いひかりが眩しくて明日の夜もきっと死にたい 頭痛には原因があるはずだから 甘すぎなくておいしいケーキ 言い訳をさせてわたしの眼の前で 育児放棄のかわいいパンダ 隣人を愛するための、夜眠るための、普通の、定型文の、 傷ついた思春期みたいな顔をして夜中ひとりで悩まないでね 現在地 教えて あざみの花言葉 教えて きみの子供の名前
わたしたちは、ずっと友達。ずっと、ずっと、ずっと、生きても、死んでも、ずっと友達。 そんな、叶わない、夢を見る。 スープを作る、夢を見る。わたしたちは、二人で海には、行けなかった。碧い、碧い、割れた宝石みたいな、海の砂の、夢を見る。飲まずに捨ててしまったビールの、短くなったタバコの、壊れたスマートフォンの、傷だらけのこどもたちの、まっくろの花束の、夢を見る。恋の色をした粉を纏った、きらきら光る蝶の、夢を見る。屍人の指で自慰を重ねる、脆い獣の、夢を見る。白くて暖かいひだ
火の車 信じてみたい人がいて坂を転がり落ちる 夢中で 夢は夢、一足す一は、夢で見た、一足す一は、花が咲いたら、 やわらかい布団の話 なおらない病気の話 腐りゆく梨 あの日見た桜も同じ色だろう僕らはみんな遺伝子の子 種の保存 延命治療 後背位 君が齧った苹果を齧る 幸せにしてくれるなら君が死ぬまでで良いならこれは薔薇色 本当の名前は春に売りました 腐った桃の落ちる速度で いつまでも繋がりたくて固結び 心中未遂の話をしよう 目も耳も心も無くてよかったね咲きも実りも
アヴェ・マリア 優しくしてと言ったのに歴史のように進む秒針 ハンバーグ大火事ステーキ大洪水 迎えは来ない、悪い子だから。 ずっと っていつまでだろうちぎり取る最後のページ ずっと幸せ とくべつな君にとくべつ美しい生き餌をあげるオパールになれ しかばねが君の帰りを待っていて否定のために動くくちびる 書くことが無くて絶望しています死体を埋める話を止めて 乾いてく脂身なんか見せないで苦しませずに殺す方法 処女受胎 慰められる夢を見て二十五時から進めずにいる 一階に蝉
Wikipedia、教えて、遭難の全て。休日のおしまいと流星 桃色の錠剤砕く聾啞者に合成音声ソフトに愛を あばらぼね 真っ赤な嘘と無知の知と滴った血を許せない まだ 飴細工こんな光を反射してスワンボートでエンドロールを ともだちになるゆめだった。脆弱性、天使の羽のタトゥー、消せない 深海へようこそ、イドラ、井戸の奥、有毒の針、唯一の無二 分け合った苹果の酸味月の下解熱鎮痛剤の白々
陽の当たるところは怖い にんげんの血が赤いことはじめて知った 温かいところが痛い おそろいのからだはずっとずっと貧血 星の数 野良猫の数 人の目を見て話せないにんげんの数
見せられるところがなくてみずぶくれ大人になってとぶとびおりる 幻肢痛 碧く染まった四肢からは夏の死骸の匂いがしてる 睡眠用bgmの囚人A しゅうまつまでにへんしんします 暗澹は冷たく滲む ちゃんとした人になりたい 乾くあんパン 忘れたらいなかったことにできるはず碧く染まった君の代わりを 終点 碧く微睡む朝が来て風に吹かれる八日目の蝉 ゆめうつつ声を出さずに祈るだけお前じゃなくて星が尊い 君に似た碧を探した 本当にさみしくないよ さみしくないよ 最愛は星座になっ
外から帰ったら手を洗う。汚いものを触ったら手を洗う。きれいになるまで手を洗う。 君が見ているから、手を洗う。 死んだ人は、星に、星座になる。光って、終わって、また光って、そうしていつか私以外のみんなのためのくだらないくだらない物語になってしまう。君は、なってしまった。夏も、夜も、夢から覚めたみたいに、魔法が解けたみたいに、砂糖が溶けたみたいに、いつの間にか終わってしまって、天使の羽を引き毟っているうちに、かしこいAIにキスを迫っているうちに、君は死んだ。死んだ、という
天の川(僕らはみんな生きている)(猩猩蠅はティッシュで潰す) 目の端でうろつく小蠅幸せになりたい私ただ落ちる夢 蠅がまた蠅を産むとき僕たちはミルキーウェイのあぶくの一つ 赤い花優しく染めて大火傷そのまま絞めて少し可笑しい よくないね人が死んだら悲しいねピンクのハート少し寂しい 身の丈の煌めきを摂る(他人事)打ち上げ花火は少しうるさい 歯を見せて幸せそうに笑いなさい表も裏も少し汚い 嫌われる前から嫌い 青色のものは何でも少し冷たい しんどいね関係ないよかわいいね
青黴の呼吸を想う塩辛いチーズを齧る烟るほど雨 甘い花、甘い思い出、甘い桃、また重くなる私の体 波を呑む 帰りたかった寒かったおなかの中に居たかった だけ 犬だって胸が痛いと泣くだろう 君が世界の敵だったなら 草原は何ヘクタール燃えたかな 君の名前は何だったかな 花火って、貴方に似てる。夜空って、青い薔薇って、殺人鬼って、 遊んでもくれなかったね(キス一つ)勿忘草はよく燃えるゴミ 蛞蝓を突いて君は春の顔ビニール傘を差して死にたい
ひからない、ひからない、ひからない 光は明るくて、眩しくて、速い。どこかの神様とやらは世界を作るとき、はじめに光を作ったらしい。そんなものは、無い方がいい。きっと、無い方がいい。 椅子に光が当たっている。椅子は光っていない。産毛に光が当たっている。産毛は光っていない。ピアスに光が当たっている。ピアスは光っていない。友達に光が当たっている。友達は光っていない。光っていないのに眩しくて、光っていないことが愛しいと感じた。そう思えている気がした。それは特別なことだと思い込
走っても間に合わないね夢見ても金魚は金魚鉢に浮かんで 純白を見たことがないこの世には純白は無い 遊泳禁止 完璧な性行為だと妄想は笑って壁に向かっていった 人生で何度目だろう赤信号 本能だから今日も死ねない 山猫の幸せって何ですか本能の何が偉いんですか 飢餓 君を食べるのは罪だった。 餓鬼 君に食べられるのは罰だった。 あの猫は幸せだった山猫の幸せだった、午後から雨が、 猫を抱く夢を見たのに今日もまた君がおいしい 死ねよ本能 四分の三拍子とひかり、ひかりって、無
蜂蜜をスプーンで掬う。大さじ一杯、正しい量をこえてはどろりと溢れて瓶の中に帰っていく。まだ足りない。 蜂蜜、蜜蜂が作っている、きれいな甘い琥珀色。働き者の虫のおかげで甘くて美味しいものが食べられて、幸せだ。怠け者の私のおかげで甘くて美味しいものが食べられて、幸せだ。毎日こんなに幸せで、少しでも早く楽になりたい。まだ足りない。 カーテンの隙間からは硬い光が冷たい床に落ちている。クッキーが入っていた缶には燃えるゴミと燃えないゴミが入っている。子供部屋には子供が居て、奴隷小屋