PayPayに裏切られた話

第一志望の会社に最終面接で落選してしまった。

行列のできるパスタ屋さんに並んでいる時に、携帯電話が鳴り落選を告げられた。

文字通り頭が真っ白になり、30分店外で待った時間やパスタへの期待などどうでも良くなる。しかし、そのタイミングで店に案内されたので渋々入店することにした。

目に入ったメニューを震える声で指差し、ただ天井を見上げる。鏡張りの天井の自分と目が合い、絶望している自分を鳥瞰している気分になった。涙が落ちないようにした工夫はかえって虚しさを生んでしまった。


なぜ、落ちた。

コンサル会社を受けたせいで、選考対策で身に着いたWhy思考?が頭の中を跳梁する。しかし、本当に落ちた理由がどれだけ時間をかけても分からなかった。もう店を出てしまおうかと考えた時にニンニク入りのトマトパスタが満を持して食卓に運ばれてきた。


しかしまあ味がしないパスタだった。
何ならニンニクの匂いすら分からなかった。

左隣のカップルは美味しそうな感想を述べていた。
どうやら俺の感覚だけバグってしまったらしい。

そこからは
ただ麺の食感だけが脳に報告される謎の時間。
あまり見えない将来。
右隣の広東語を話す夫婦。
分からない会話。
明日が祝日ということで混む店内と伸びる行列。
更に混み合う厨房。
何本あるか分からないカトラリー。
天井から吊り下がるワイングラス。
通り過ぎる店員。

どの情報も自分から遠かった。


見えないし、聞こえないし、嗅げないし、触れないし、味わえないのである。
五感は既に死んでいた。
明らかに脳は深刻なダメージを負っている。



パスタらしきものを食べた後は、後に待つ客への配慮の念と料理に染み付き始めた嫌な思い出から逃れるため、店を足早に出ようとした。

会計時、PayPayを用いたものの、スクラッチチャンスさえも外れ、もう笑うしかなかった。普段当たったことしかない企画に外れたのである。

PayPayすら俺の味方ではなかったのである。

更に落ち込み、後ろの客のPayPayの支払い音を聞いて私は店を後にした。

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