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3Dプリント製マスクをFDM(FFF)方式へのDfAM視点で評価してみる #3Dプリンター

個人的にはFFF(FDM)方式の3Dプリンターでマスク(マスクカバー/フィルターホルダ)を印刷することについて、積極的にお勧めする気持ちはありません。他の種類の感染症対策アイテムの方が生産性や効果の観点からは優れている、または手製マスクの製造補助具などを作る方が印刷時間に対してのメリットが大きいと思われるからです。

ですが少数(自分と家族の分ぐらい)なら印刷してみてもいいでしょう。
というわけで、印刷するならどれなのか?という点について独自に評価をしてみます。
※2020/04/22: Easy_maskを追加しました。
※2020/05/25: Stopgap Surgical Face Mask (SFM)を追加しました。

評価の観点

主に下記の点です。
基本的には DfAM (Design for Additive Manufacturing/付加製造のための設計)、特に今回はFDM(FFF)方式に対する設計がなされているか?という観点で見てみます。

・印刷の容易さ
FDMで印刷しやすいか?
サポート材は必要か?
どんなプリンターでも印刷できるか?(サイズ)
印刷時間はどの程度か?
印刷条件などは案内されているか? 等
・耐久性
実用的な強度がでるか?だしやすいか?
複数回使用可能か?

※なおサイズや厚みの大小がある場合はサイズが大きく、厚みの薄い、難易度が高くなりがちなものを中心に評価をする。

イグアス 3Dマスク

・印刷の容易さ
XYZが得意げに印刷しているが、多量のサポート材を使用している点が大きくマイナスである。印刷時間も印刷難易度も高くなってしまう。
この形状ならほとんどサポート材は不要に感じるが.....??
印刷時間はサポート無しなら約2時間、サポート有りなら4時間強程度。
サポート無しかで最低限のサポート材で印刷ができるなら優秀と思われる。
(0.2ピッチ、シェル速度35~45mm/sサポート角度55度 にて)

またSTLファイルを読み込んだ時点で印刷に適した方向に向いていない。

イグアス1

さらにオフセット方向が悪く、ベッドに対してエッジ面が平行にならない為ベッドへの定着性が悪い。下面になる方向を指定して平面で再度カットするなり、オフセット方向を調整するなどされていると良かったが....

イグアス2

また、肉が薄い、シェル方向が悪い、曲面になっている等により、スライス面によって面幅が違ってくるため、画像のようなジグザグや間欠的なインフィルが発生する箇所があり、印刷品質が低下してしまう。
印刷パラメーターを細かく調整すると無くすこともできるが、手間も増えるし、難易度が高い。

イグアス3

紐かけ部分であるが、サポートが必須な形状になっている。
0.4~0.6mm程度のワンライン程度で造形するように埋めておけば、後でカッターナイフや手で割る事を前提としてサポートを省くことができると思われる。

イグアス4

通気孔は六角形になっているが、75度超のサポート設定にしなければサポート材を省くことがで来ません。マスクの面が斜めになっているため60度では足りないので、せっかくの6角穴が無駄になっています。
サポート材の生成を防ぐためにはサポートブロッカーを使用して局所的にサポートを排除する必要があり、これはやや煩雑です。
また、1mm厚3mm幅程度の部分を連続して印刷するようになっており、このような形状は積層割れしやすい状態になりがちです。

イグアス5

イグアス:★☆☆☆☆(1/5) 
相当の自信が無いなら時間の無駄なのでやめておけ

イグアス自体がSLAやSLSを中心としたメーカーなので致し方ないが、全体的にSLA/SLS方式で出すことが念頭にあり、FDMに対する知識が無いか出力経験に乏しい設計で考慮が足りない。
そしてXYZと一緒にやっている「FDMでも出せます!使えます!」というようなアピールに悪意を感じる。
今回は評価外だが、飛散防止のフィルタ(キッチンペーパー等)を挟めるようにもなってない。
イグアスの営業パフォーマンス以上のものではないので、FDMで出力せずに別のモデルを印刷することをお勧めする。


PITATT 3D print mask

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紐の固定個所はV時のスロットに括った紐を押し込む構造で破損しずらく、よく工夫されています。

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肉薄でシェル方向の問題もあり、イグアスと同様の問題はあります。

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吸気口についてはひし形穴になっておりサポートは必要ありません。
肉が薄いのでイグアスと同様に破損はややしやすいと思われます。

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PITATT 3D print mask:★★★☆☆(3/5) 
印刷時間はやや掛かるが慣れれば十分きれいに印刷可能。見栄え・実用性も良し。

シェルの板厚方向にやや問題はあるものの、定着に影響するほどでもありません。紐を掛ける部分も良い構造になっており、破損しずらいです。
吸気部分に細い部分がありイグアスのデータ同様破損しやすい可能性がありますが、幅があるのでイグアスよりはマシに見えます。
インナーパーツによるフィルター材の固定も可能なので実用性も十分。


エイアイ・ラボ・ジャパン ORIMASK/折りマスク

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平面的な造形物を折り目にそって曲げて作るマスクです。
印刷の失敗が少なめで、印刷時間も短いです。ブリムやサポートも必要ないでしょう。一層目が定着しやすいような工夫もされています。
推奨条件の0.1mmピッチ(1層目は0.2mm)での印刷で2時間10分で仕上がります。

印刷条件や印刷上のポイントが告知されている点も評価できます。
3mm程度ブリッジが掛かることが前提の設定なので、ブリッジがうまく掛からない場合は印刷温度やレイヤーファンの動作タイミングを調整しましょう。

固定用のフック部分をしっかり印刷するのが難しいかもしれません。飛び地同士の距離が遠いので、樹脂が垂れて糸を引くと樹脂が不足して積層同士の密着が不足します。
その場合は樹脂の乾燥、印刷温度の調整(高め/低め両方)などをするとよくなると思います。

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ORIMASK/折りマスク:★★★★☆(4/5) 
印刷時間も短め、印刷の失敗が少なく壊れにくい、折り方次第で色々な顔に合う。

フック部分を除き、壊れづらい形状・印刷指定になっています。
印刷についてのガイドラインが明示されているのも良いですね。
フック部もある程度十分な大きさがあるので標準的な印刷設定なら問題ないと思われます。
インナーパーツによるフィルター材の固定も可能なので実用性も十分。
折り具合で顔に合わせやすいのも良い点です。
印刷時間も短く、他の人に渡す際も薄い状態で渡すことで壊さず、たくさん渡すことができます。比較的量産向きの形状をしています。


しおぴょん(@i_shiopyon) さん  Easy_mask

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作者の方もレーザーカットで板をカットしても良しと言っている通り、形状としては2mmの板をカットしたって感じですね。
DfAMな観点からするとただの板で少しもったいないので、工夫の余地はあります。(肉抜きと紐かけ部の顔への追従など)
ただ、印刷時間は左右合わせて1時間ほどで短く、印刷も簡単なので、たくさん作るのも苦ではないですね。

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外側はフィレットがかかっています。ただ、この大きさだと面取りでも大差ないかもしれません。紐やフィルターの不織布がちぎれないようにそう言った部分には少し大きめのフィレットがあってもいいかもしれません。

Easy_mask:★★★☆☆(3/5)
ほとんどの3Dプリンターで印刷可能、ただし3Dプリンタらしい工夫は欲しい。

DfAMの視点からの点数は低めですが、材料をCNCやレーザーでカットする方法もとれるので、簡単にたくさん作れます。3Dプリンターでも1日あれば10人分ぐらいは作れそうです。
鼻の部分に隙間ができやすそうで顔面への密着性は低いかもしれませんが、外出時の飛散防止には十分かなと思います。

Stopgap Surgical Face Mask (SFM)

記事をサポートしてくれた方から要望があったのでレビューしてみましょう。
詳細を読むとより洗練されたRevision Bに引き継がれているようですので、こちらを中心にレビューすることにします。

一般流通経路でサージカルマスクが手に入らない場合向けのサージカル(手術用)マスクとしてFDA承認された物のようです。医療用に使用するにはISO 13485準拠Good Manufacturing Practices認定施設で製造する必要があるとのことです。
一般人が普通に使うマスクとしては過剰かもしれませんね。

製造方法についてはドキュメンテーションを見るとナイロンSLSやHPのMJF(Multi Jet Fusion)が想定されており、HPのMJF、EOS、3Dsystemsの機械でのガイドラインが示されています。
FDMでの製造は考慮されていません。

実際にスライスしてみましょう。

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サイズがアメリカンなので、L/M/SとあるSmallサイズとフィルターリッドを配置してみましたが、結構デカいですね。
印刷時間はフィルターリッドも合わせて0.2mmピッチで約8時間程度になっています。

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60度以上のオーバーハングのところが赤く見えています。
フィルター部分やフック部分はほぼ水平です。FDM視点では失格です。

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やはり肉薄の鼻周辺は印刷にやや苦労しそうです。

Stopgap Surgical Face Mask (SFM):★☆☆☆☆(1/5) 
そもそもFDMでの印刷は考慮外、それは仕方なし。

そもそもSLSナイロン用の設計なのでFDM機で出力するときのことをいうのは筋違いなのですが、FDM機で出力するのはやめておきましょう。
印刷時間も長く、無駄なサポート生成も必要です。印刷時間がかかるのはフィルター取り付け部周辺がかなりがっちりしているからでしょう。
手術用マスクのフレームなので、街を歩くのにつけるにはやや性能過剰です。


終わりに

国内でアナウンスを見た4種とFDA承認のマスクの3Dデータをレビューしてみました。
他のマスクの情報がありましたら、コメントやこっそり耳うちで教えてください。

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