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アフターコロナに向けて「ナイトタイムエコノミー」に関わる人々をどうやって支援するべきか?:「Global Nighttime Recovery Plan」第4章を読み解く

「ナイトライフ」に従事する人々のための未来を

ナイトタイムエコノミー推進協議会(JNEA)が日本語翻訳版を公開している「GNRP」。これまでの章ではクラブ、屋外スペース、インフラ、都市計画、ガバナンスといったテーマを扱うなかで、「ナイトタイムエコノミー(地域の状況に応じた夜間の楽しみ方を拡充し、夜ならではの消費活動や魅力創出をすることで、経済効果を高めること)」の再興について考えてきました。

その第4章では経済活動において大きな役割を持つ「ナイトライフ(夜間事業)」に従事する人々に注目し、経済の活発化を促す施策を紹介していきます。

本レポートが発行された2021年の「ナイトタイムエコノミー」は、COVID-19の蔓延を防ぐための世界的なロックダウンが行われており、今回のCOVID-19にてナイトライフの芸術文化施設は最初に閉鎖され、再開するのは一番最後となるだろうと予測されていました。

ブルッキングス研究所は、クリエイティブ部門において、米国だけで2021年の4月1日から7月31日までの間に約300万人の雇用と1,500億ドルの売上高の損失を推定しており、パンデミックがクリエイティブ産業に与える経済的影響は驚異的です。

以上のようなクリエイティブ産業への経済的影響が大きくなっている状況に対し、コンサートホール、ナイトクラブ、バー、映画館などでの、主にナイトタイムエコノミーにおけるクリエイティブ・セクターに焦点を当てています。

ナイトタイムエコノミーにおける関係労働者を含む、ナイトライフの従事者はそれ自体がニッチではなく、より大きな経済の重要な一部であることの気づきを促し、ナイトライフとクリエイティブ産業の重要性を検討するためのより大きなレンズとして、夜の生活と夜の経済に新たに焦点を当てていきます。

「ギグワーカー」に支えられるナイトライフ

夜間に働いている方の15.7%がレクリエーション活動(昼夜を問わず)に従事しているとされ、ほとんどのナイトライフ・ワーカーは正社員ではなく、「ギグ」ワーカーに近い状態にあります。

「ギグ」は音楽用語でライブハウスなどに居合わせた演奏家らの軽い合奏を指します。そこから転じて単発で短期の仕事に従事する人を「ギグワーカー」、そうした働き方を前提に成り立つビジネスや市場を「ギグエコノミー(経済)」と呼びます。

この「ギグワーカー」は、プロジェクトベースまたは特定のタスクのために、雇用主と短期間の関わりを持つ傾向があります(フリーランス、臨時雇用、自営業、契約労働を含む)。米国では5千万人、日本でも1千万人を超す人たちが副業を含めたギグワークに従事しています。

この章のために実施された調査では、自分自身を「自営業者」と分類する人々は、失業した場合に雇用主がいることを前提とした失業支援などの従来の救済措置を受けることはが困難であり、欧州委員会の推計によると、文化産業で働く自営業者は他の産業における労働者の2倍にのぼるとされています。

COVID-19がナイトライフワーカーに与えた影響

ナイトライフ・ワーカーは、建設作業員、レストランやバーの労働者、そしてライドシェアのドライバーまでさまざまです。ナイトライフ・ワーカーが抱える構造的な問題は、昼間帯などの通常の労働時間外に働くことに起因するものが多いと考えられています。

具体的には資金援助の必要性や、ヘルスケアとメンタルヘルスのサポートに関するものが大きな比重を占めています。

COVID-19により事前の警告もなく世界中のナイトライフ会場が閉鎖され、退職金や緊急支援なしに多くの人が仕事を失ったなかで、パンデミックが予想以上に長く続くことが明らかになりました。

ナイトライフ・ワーカーが計画していたギグもキャンセルされ始め、コミュニティベースの援助は、一時的な緊急援助を提供したものの、一部の政府は経済衰退に対処する際に見落とされがちな労働者よりも、多くの労働者を対象とした大規模な援助計画に取り組んでいる状況です。

以上のことからもクリエイティブ産業の労働市場は、今後しばらくの間、非常に厳しいものになるかもしれないと予測されます。

GNPRによる調査によると、回答者の多くは住宅や経済的支援の必要性を指摘しており、40%弱が「最も早急に必要である」と答えており、回答した人々の半数以下が金融支援を受けているが、彼らの生活ニーズを満たすには充分とはいえない状況です。

また同調査にはメンタルヘルスに関する自由回答のコメントが多く集まり、ナイトライフ産業における失敗は頻繁に起こり、その失敗は個人的なものであることが多く、セーフティネットもほとんどないことが、イトライフで働く人たちを不安定な立場に置いています。

「夜間労働者は組織化されていない」という課題

前述のようなナイトライフ・ワーカーを支援しようとしても「ナイトライフは文化とビジネスの両側面をもっていることが認識されていない」「夜間労働者は組織化されておらず、手を差し伸べるのが難しい」などの課題が存在します。

まず前者の視点では、ナイトライフは「夜遊び」という経験を超え、さまざまな分野にわたる芸術と文化を含み、ナイトライフベニュー(コンサートやイベント)やナイトライフに関わる企業が収益を生むビジネスであることは明らかです。

現在のパンデミックによる夜間産業への悪影響からナイトタイムエコノミーを立て直すため、夜の労働者にとってより持続可能で、回復力があり、公平な環境を作り出す機会が必要です。しかし、政府がナイトライフの文化的な意義を認めることは難しく、多くの政府がナイトライフの支援を検討する際には、道徳的な懸念が問題とされます。

これらの懸念点を理解し改善することで、ナイトタイムエコノミー全体の労働者の条件を改善する積極的な変化につながる可能性が生まれます。

上記の懸念点に対し、私たちは「短期的な解決策」と「持続可能な解決策」の二通りのアプローチを行うことで課題の改善を図ることができます。

相互扶助やアーティストへの直接支援

ナイトライフの労働者にとって、直接的な資金援助は、短期的な救済という点では最良だと考えられます。資金援助によって、労働者は生活状況を安定させ、精神的なウェルビーイングを向上させられます。しかしながら、ほかの手段も存在します。

以下はアプローチの手段の実例になります。

・ 一般労働者への緊急支援
OECDは、自営業者やグレー・エコノミーの労働者を見落とさないように、救済プログラムの資格基準を単純化することを推奨しています。

・ アーティストのための緊急助成金
2020年3月から6月までの間に失われた収入に対する助成金を提供するものとして、ニュージーランドはあらゆる分野の芸術団体のメンバーを対象とした緊急救済助成金基金1,600万ドル(NZ)を配分しました。

・ 相互扶助
政府の対応が不十分であることが多いため、相互扶助、資源とサービスの共有が、パンデミックへの重要な緊急対応として注目されています。United We Stream Asia (UWSA) は、世界的な相互扶助ストリーミング運動United We Streamに関する取組であり、資金調達プラットフォームをつくるためのオープンソースモデルを提供しています。

・ 政府の援助へのアクセス
Sound Diplomacyとgener8torは、データに基づいたキャンペーンを行うことで、この資金の一部を音楽と文化産業に割り当てることができると考え、音楽、エンターテイメント、文化産業が救済を受けられるための無料で実用的なガイドである「CARES for Music Toolkit」を作成しました。

・ アーティストへの直接後援
パンデミックの間、Spotify の株価は急騰し、この時期のデジタルメディアの消費の重要性が反映されましたが、多くの人にとって、ストリーミングによる収入(1回の再生あたり数セント)は、かつてライブパフォーマンスで稼いだお金の代わりにはなりえません。アーティストにとっての直接的な収入を得る機会を増やすより、古典的なアーティストとファンの関係をつくる他のモデルへの転向が必要です。インターネット上の音楽販売プラットフォームである Bandcampは、より公平なモデルで、アーティストや独立系レコード会社と後援者を直接つなげることを目的に作成しました。

・ クリエイティブワーカーに対する政府の救済
例えば南アフリカには、文化的・クリエイティブセクターのために蓄積されてきた情報が少ない中、歴史的な不均衡が続いていることは課題であり、英語のみの申請フォーマットでは、支援を必要とする人たちの多くが申請書を提出することができませんでした。これに対し、政府はナイトタイムエコノミーを含むバリューチェーン全体で雇用と協力の機会を創出する野心的な提案を募集することにより、クリエイティブエコノミーに予算を投資しました。

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「社会的セーフティネット」や「クリエイティブコミュニティ」の整備

短期的な解決策はパンデミック下において即効性がありますが、経済状態が以前のように戻ることは難しいと言えます。夜間労働者とナイトライフ産業全般を立て直し繁栄させるには、以前とは異なる政策やアイデアの実施が求められます。

パンデミック後のナイトライフは、将来の危機にも耐えうる、より公平で持続可能なモデルに向かうことが重要です。

民間も公共もこのパンデミックの間に経済的損失を経験していることから、ナイトライフを支援するパートナーシップを構築することで、ナイトライフ経済の再起動を支援し、ナイトライフの労働者により公平な社会を提供する良いモデルとなります。

以下はモデルとなりうる具体的なアプローチ例になります。

 政府

 ・ ナイトライフと夜間労働者の市民参加と測定方法の改善
労働統計や分析のためのデータ収集は、政策の情報提供に役立つため、夜間労働者や労働に該当する業種を含めなければいけません。夜間労働の「目に見えない」性質から、これは特に難しいことであるが、政策立案には不可欠です。

 ・ 社会的セーフティネットの改善
多くの国ではパンデミックで離職した労働者が雇用状況に関係なく、経済的・身体的な幸福を維持できるような強固な失業制度や普遍的な医療制度がありません。堅牢なセーフティネットが、ギグワークに内在するリスクから労働者を守るために必要だと考えられます。

クリエイティブコミュニティ

 ・ クリエイティブ産業の民間支援を促進するためのインフラ整備
クリエイティブ産業のために個人的なパトロン活動をやりやすくするためのインフラストラクチャーの構築が必要です。

 ・ 持続可能なネットワークと労働者の力の構築
ナイトメイヤー(観光客の争奪戦を展開する欧米の主要都市で設置が相次ぐ夜の街づくりのリーダー)や政府のナイトライフ団体、地元の労働組織など、既存のリソースを通じた連携を構築するチャンスがあります。これらの組織の外でも、ナイトライフ・ワーカーは安全に組織化して主張する方法を探さなければなりません。

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おわりに

「ナイトライフ」はワーカーが生計を立て、生きていくための手段であるだけでなく、多くの人にとって文化的・社会的なインフラでもあります。

さまざまな音楽ジャンルや文化がナイトライフから生まれただけでなく、構造的不平等のために制限されている多くの人々の社会的な動きや結束をもたらし、機会を生み出してきました。

COVID‐19の影響下にある日本においてもナイトライフワーカーの存在は決して小さくありません。クリエイティブ産業を活発化させることは日本経済へ大きな利益を生みます。

ナイトライフワーカーは、組織化と擁護活動を通じて、業界をより公平なモデルへと移行させるために、文化労働者として、また都市の活力に大きく貢献している者として、自分たちの力を認識することが大切です。

弊社NEWSKOOLはこうした「ナイトタイム」の隆盛に従事し、さまざまなプロジェクトから得た経験と専門家としての知見を活用し、企業・行政・クリエイティブ人材・消費者を巻き込むNIGHT DESIGNを推進していきます。

詳しくは弊社のHPをご覧ください。


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