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「シドニー」に学ぶナイトタイム復興──ベニューの結束と行政との連携が夜を変える

パンデミックを境に大きく変わった世界のナイトタイム。本記事ではシドニーのナイトタイムの変遷を切り口として世界のナイトタイム復興について考えていきます。

「世界で2番目に悪い」シドニーのナイトライフに対するイメージ

2021年12月上旬に「Committee for Sydney」によって発表された『Benchmarking Sydney's Performance Report』という調査によると、シドニーのナイトライフに対するイメージは、世界で二番目に悪いとされています。

この結果は、2014年から6年間に渡って施行されていたナイトタイム規制政策「ロックアウト法」の影響が大きいと考えられています。

ロックアウト法とは、飲酒がらみの暴力を抑止するための法律です。2014年、シドニーで2人の若者が撲殺された通り魔事件をきっかけに、夜間産業の規制が始まりました。

ロックダウン法における25時30分以降の入店禁止や、27時にドリンクのラストオーダーを設けるといったルールはシドニー市街地のバーやクラブに大きな影響を与えました。キングスクロスなど繁華街の人通りは80%減少し、多くのバー、クラブが店を畳み、夜の賑わいが失われてしまったのです。

また、営業時間の短縮は深夜から明け方が稼ぎどきだったミュージックベニューにとって痛手となり多くのベニューが閉鎖されました。そしてミュージックベニューの相次ぐ閉鎖はシドニーで活動しているミュージシャン、DJの活動を制限し、経済だけでなく文化的にも大きな損失を与えました。

こうした変化を受け、シドニーではライブハウスやパフォーマンス会場、アーティスト、音楽業界関係者を中心に、「Keep Sydney open」というロックアウト法反対団体が組成されました。

Keep Sydney openは資金集めやロックダウンに対する意識改革を目的に数々のイベント/デモを主催。法の目をかいくぐったパーティーが乱立する当時のシドニーは混沌とした状況だったものの、ナイトタイム事業者が連帯し草の根活動を行うことで、活気に満ち溢れたナイトタイムコミュニティを作り上げていました。

ロックアウト法廃止を求め、業界団体が政党化

2016年、州政府は法律施行から過去2年間の状況を判断しロックアウト法を続行することを決定しました。同時に今後2年間、飲食店の営業時間に関する制限を緩和し、テスト期間を設けて再度判断すると発表しました。

また、2018年には「Keep Sydney Open」が政党化。ロックアウト法廃止や、大麻の合法化、芸術文化・ナイトタイムを州の優先事項とするよう働きかけることを掲げ、2019年の州選挙に出馬し大きな注目を集めました。

その後、2019年に州議会の委員会では一部地域を除いてロックアウト法を年内に廃止する決議が可決され、2021年には完全に廃止されました。

こうした段階的な緩和を経てシドニーは、ロックアウト法を廃止し、24時間都市に向けた方向転換に成功しました。

行政と現場の協力はコロナ禍の夜を変えるのか

ロックアウト法の廃止後、州政府はナイトタイムエコノミーの活性化と安全確保のバランスが取れた都市を目指しています。ロックアウト法廃止直後にコロナ禍が始まってしまいましたが、パンデミック対応の一環として「24時間経済戦略」が発表されました。

戦略には、感染に影響の少ないビジネスの営業時間を延長しポップアップや文化的イベントに関する条件を簡略化する、クリエイターのためのスペースを確保する、深夜の公共交通機関と夜間に営業する駐車場を増やす、ナイトタイムのブランディングを行うなどの計画が盛り込まれています。

これらには、TimeOutのマネージングディレクターでナイトタイム産業協会のマイケル・ロドリゲスが24時間経済委員長として関わり、市民の意見を取り入れて決定したもの。

彼のようにナイトタイム産業の現場を知り、行政との目線合わせができるプレイヤーを登用することは、ロックアウト法によって分断された市民と行政、ナイトタイム産業の意思疎通につながりました。

日本では、まん延防止法などをめぐって反発が起きていますが、ナイトタイム産業に負の烙印を押すのではなく、連携によって解決を目指すシドニーの姿勢から学べることは多いのではないでしょうか。

日本でも類似の事例として、ナイトタイムエコノミー推進協議会(JNRA)が政府関係者との直接交渉を開始することで、コロナ禍でもナイトタイムエコノミーを地域のアジェンダに加えることに成功しており、このような取り組みがさらに広げていくことが重要だと考えられます。

とはいえ、シドニーでは、ロックアウト法施行時から続く警察によるナイトベニューの取り締まり、ナイトベニュー側の反感が依然として大きな課題となっています。政府とナイトタイム産業の協力関係を、警察にも及ばせられるかがシドニーの今後の課題と言えます。

どの都市においても、ナイトタイムの現場と行政が協力関係を築くことは、コロナ禍を乗り切る大きな推進力になるはず。また、コロナ禍による制限がなくなった後の運用にも役立つはずです。

「世界で2番目に悪い」と言われてきたシドニーのナイトタイムのイメージが今後どう変わっていくのか。Night Design Labでは継続的に世界の各都市のナイトタイムを取り巻く環境について発信していきます。

『Night Design Lab』とは?
新たなる「夜の価値」を探す研究機関です。国内外のナイトタイムエコノミー事例やナイトカルチャーに関わるキーパーソンへの取材、ナイトタイムの課題や新しい楽しみ方の提案、インサイトの発信を行います。
https://newskool.jp/


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