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「ジェンダーも政治も、古い慣習を延命させてはならない」売上ゲームよりも社会課題の解決に挑むビジョニングカンパニーが目指す世界

テレビやSNSを眺めていると、旧来の慣習や前時代的な制度に、落胆することがある。

コロナ禍に伴ってテレワーク環境は整備されていくのに「出社は義務だ」と言い続ける上司がいる。政府は「2020年までに女性管理職を3割まで増やすことは断念した」と発表するし、「ツーブロックは禁止」とルッキズムに触れるようなブラック校則を強要する学校も話題になった。

「すでに決まったことだから」
「今までも、この方法でやってきたから」

これまで私たちは、権威や慣習に抗えず、合理性を欠いた方針や結論に散々振り回されてきた。理不尽な経験をした方も、少なくないはずだ。

でも、時代は大きく変わりつつある。

世界を見れば #BlackLivesMatter に賛同する企業が積極的に声を挙げているし、日本でも「女性登壇者の割合が少ないイベントには登壇しない」といったムーブメントが各地で起きている。その行動者の誰もが、“これまで”に左右されてはいないし、“これから”をどうしていくかに視点が移っているのだ。

どんな現状を変えたいと思っているか。
どんな社会にしていきたいか。
どんな将来を描きたいか。

これからの個人や企業、社会に求められるのは、実績やブランド力よりも、“未来を志向する力”だ。

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「どんな未来を信じているか?」

パートナーとなる企業に尋ね、共に言語化し、確かなクリエイティビティをもとに社会を巻き込んで、実現へ導いていく会社がある。それがNEWPEACEだ。

「ビジョニング カンパニー」という異名を称する同社は、今日までいくつもの企業や自治体が描く“これから”に寄り添って、未来を切り拓いてきた。大幅な事業転換に立ち会うこともあれば、ゼロベースの新事業の立ち上げに関わることもあった。

創業7年目。未来を見据えて歩んできたNEWPEACEは、理不尽な“これまで”から脱却するために行動し続けている。代表・高木新平のインタビューから伝わってきたのは、「社会は変えられる」という強いメッセージだ。

(執筆:カツセマサヒコ 編集:長谷川 賢人 撮影:きるけ。)


目指すは、20世紀的システムからの解放

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NEWPEACEが担当するクライアントワークは官民の枠を越える。スタートアップをはじめメルカリやDeNAなどのIT企業、資生堂やパナソニックといった大企業のイノベーション部門、また福岡市などの自治体、厚生労働省、文部科学省、ビルゲイツ財団などの非営利組織まで、実に幅広い。

どの案件も見境なく引き受けているかというと、むしろその逆だ。NEWPEACEはパートナーとなる企業や団体の選定に、かなり慎重なように見える。多くの制作会社や広告代理店、コンサル企業と異なるのは、NEWPEACEも「選ぶ側」にある点と言えるのではないか。高木はパートナー選定について、以下のように話す。

「ただの売上ゲームになっている仕事には興味がないんです。たとえ個人的にすごく好きな商品だったとしても、『前年比より何パーセント売り上げたい』といった依頼なら断るし、別の切り口を一緒に考えたい。

たとえば就活サイトを運営するワンキャリアは、企業側に優位な就活市場に問題を感じていました。それを解決するためにNEWPEACEは『就活に、透明性を。』というビジョンを提案し、一緒に活動を続けています。

ビジョンを持って新しい市場を開拓する、社会課題に立ち向かう、事業ドメインを大きく変更する。どんな形であれ、未来を志向しているパートナーと仕事をしたいんです」

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NEWPEACEが“ビジョニングカンパニー”を名乗るのは、同社がパートナーとなる自治体や企業にもたらす一連の行動や役割を「ビジョニング」という言葉で表しているからだ。

パートナーとなる企業が「どんな未来を信じているか、どんな社会にしたいか」を傾聴し、それを実現させるために「どのように社会を変えていくか」を寄り添って考え、高度なワードセンスとクリエイティビティで実現に導く。それがNEWPEACEの役割であり、「ビジョニング」の真髄である。

たとえば直近では、アパレルブランドが抱えてきた「衣服ロス(在庫が余った衣服を大量に破棄し、環境汚染を生んでしまう問題)」に向き合うべく、『Niko and...』などを展開する大手アパレル企業ブランド・アダストリアとタッグを組んだ。

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二社は倉庫に残った衣服を黒染めし、リサイクルではなくアップサイクル(ただの再利用ではなく、より品質を向上させること)して販売する新ブランド「FROMSTOCK(フロムストック)」をスタートさせる。アダストリアがサステナブルな社会を目指したいと願い、NEWPEACEがそれを実現させるために伴走して、誕生させたブランドだ。

先述したとおり、アダストリアは「現状よりも売上を伸ばしたい」といったオーダーではなく、「社会課題にどのように取り組むべきか」という観点で、NEWPEACEに声をかけた。こういった仕事こそ、現在のNEWPEACEの王道と呼ぶべきかもしれない。


「多様性が爆発する社会」を自ら実証する事業群

2020年現在、NEWPEACEはこうしたクライアントワークだけでなく、4つのカンパニー事業を展開している。いずれも「20世紀的システムから人々を解放し、多様性が爆発する社会をつくる。」という自社ビジョンを具現化したような事業である。

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たとえばその一つである「REING(リング)」は、"多様な個のあり方"をテーマに、ジェンダーニュートラルなアンダーウェアの開発や売り場作り、コミュニティ運営に注力。企業のブランドマーケティングやクリエイティブ制作に携わることも多く、その存在感を大きくしている。

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(写真:2019年4月撮影)

NEWPEACEにとって最初の自社コミュニティとなった「6curry」も同様だ。“EXPERIENCE THE MIX”をテーマに約2年の月日をかけて、同コミュニティは人と人との新たな交流や居場所を作ることとなった。飲食業の新たなかたちを模索し続け、コロナ禍においてもオンラインに舞台を移し、活発に運営を続けている。

「ビジョニングによって、共感者によるコミュニティができていくのですが、そのコミュニティをクライアントではなく自社主導で動かしているのが『REING』や『6curry』です。社会変革を伴うビジョンは、一社独占ではなくみんなで共有するもの。同じ方向を向けるクライアントとは一緒に組みたいですが、そうしたクライアントがいなくとも、NEWPEACEが強い興味を持つテーマがあった場合は、自分たちで事業として立ち上げます」


新卒時代に味わった「過去の延命」の原体験

2014年に創業したNEWPEACEだが、当時から高木は「ビジョンを描くこと」の重要性を説いてきた。全ては、2010年に大学を卒業して入社した広告代理店での原体験がある。

「大学時代は、一般の方の声を聞きながら服作りをしていた経験があって、“生活者の声を集めて何かを作ること”に興味があったんです。TwitterやFacebookの勃興期で、広告代理店もSNSでユーザーボイスを集めた新しいキャンペーンなどを実験し始めていた。合同説明会でたまたまその話を聞いて、『これをやりたい』って思ったんです」

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同期の中で一人だけ当時まだニッチなインタラクティブプランナーを志望し、いよいよやりたいことがやれるぞと意気込んだ高木だが、任せられた仕事は原発のPR。仕事で関係する人たちは、みんなSNSに対して「タダで広告出せるんでしょ?」「ユーザーの声とか別にいらないから、原発が安全だってことを伝えられるようにしてよ」という態度だったという。

「新しい技術が生まれても、それを使う人たちは旧態依然のスタンスでいる。そのことが耐えられなかったんです。不満が募るところに、東日本大震災が起きました。当然、関わっていた案件は全て止まりますし、『広告の仕事って、できることが本当にないなあ』と虚しさに晒されました。ひとつだけ行動を起こしたプロジェクトもあったんですけど、それも、会社からやめろと言われて理不尽になくなったり」

不運が重なった結果、“過去にこうだったから”とか、“もう決まったことだから”みたいな仕事を、もう絶対にやりたくないと思うようになったと高木は話す。過去を延命させるような仕事はしない。それよりも、未来のためになる仕事がしたい。高木は、新卒からわずか一年にして、独立を決めた。


挑戦者が、世の中を味方にしていくために

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フリーランスとなった高木は、コンセプト型のシェアハウスの運営や拡大、選挙運動のネット解禁を目指した署名活動の展開、実施、東京都知事選立候補者のキャンペーン立案など、特異な経験を積み重ねて、2015年、NEWPEACEの創業に至った。

初年度は制作仕事の受託が多かったが、二期目に転機が訪れる。広告代理店の後輩からの紹介でつながった、DeNAの自動車産業への参入だ。

「『DeNAが自動車の自動運転事業に参入するから、ビジョンを一緒に考えてほしい』と。自動運転は技術力をそのままプロモーションしても喝采を浴びるものでもないし、法律の壁も高い。自動車メーカーが先陣にいる中で戦うには、DeNAの事業がもっと“応援される存在”になる必要があるだろうなと考えました」

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提案したのは、“ロボットが運転する無人タクシーを、電車やバスがない地方で走らせる”というアイデア。「人のいないタクシーで、人のいるまちをつくる」というコピーに多くの賛同者が集まり、神奈川県藤沢市での実証実験を成功。そこからヤマト運輸や日産自動車といった大手企業と組むまで広がっていった。

「大きな予算も信用もない新規参入の企業でも、社会を変えるメッセージを掲げることで、大きな成果をあげられた。このことは、大きな自信につながりました」

社会課題に悩む人々から共感を得るようなビジョンさえあれば、周りを巻き込んでコミュニティの輪を広げ、賛同者を増やしていくことができる。高木はビジョンを描くことの重要さを再認識し、さらに経験を経て、「ビジョニング」という言葉を使い始めることとなった。


「社会は変えられる」という成功体験を拡げる

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最も新しい事業は、2020年5月に動き出した「NEWPEACE thinktank」だ。

コロナ禍によって浮き彫りになったのが、国や地方自治体が抱える旧態依然のシステム。記事冒頭にも書いたとおり、SNSを見れば、政府に対する批判の声が止まない。過去には選挙の在り方すらも変えてきた高木だけに、当然そこにも目は向いている。

「パブリックに関わっている方々は、常に社会のために尽力しています。問題はアナログなオペレーションシステムであり、早急に進化させる必要がある」

社会を変化させるには、「ネットで話題になる」といった世論の力だけではなく、国や自治体による「ルールを変える力」も不可欠。この二者が近い距離で協力し合える関係を築くのが「NEWPEACE thinktank」である。

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「NEWPEACE thinktank」は、かつては高木と共にネット選挙運動を実現した同社の増沢諒を中心に、公共のプレイヤーを巻き込みながら、ソーシャルイシューの最前線に立ち向かう。官民融合チームの新たな形をNEWPEACEが作り出し、「ルール」と「世論」の両輪を高速で連携させていく。

「事業運営とクライアントワークは別モノのように捉えられがちですが、僕の中でその二つは溶けている。どちらにしてもNEWPEACEが目指す未来に必要なことだからです。

それに、クライアントや社会にだけ変革を求めておいて、自分たちは何も変わっていないなんて、あり得ない。たとえば、持続可能な未来を作りたいのに、社内でペットボトルをバンバン使っていたら矛盾がある。すぐにコーポレートチームが動いて、社内は全てグラスの利用に替わりました。旧来の価値観からの解放を謳うなら、まず自分たちからやる」


新たな価値観やスタイルが受け入れられるように、物語を紡いでいく

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NEWPEACEの仕事は、アウトプットだけで見れば、ビジョン開発やキャンペーンの企画、様々なモノのデザインなど、クリエイティブカンパニーとしての側面が強く出る。ただ、プロセスに焦点を当ててみると、企業の課題抽出から寄り添うため、コンサルティング会社のような側面も出てくるし、企業の価値観を変えるという意味では再生ファンドにも近い。

さらに、多彩な事業や「ビジョニング」という独自の提案モデルを持つがゆえに、既存の業態や肩書きに彼らを当てはめようとすると、いずれにも該当せず歯痒い。だからNEWPEACEは、あえて自分たちに「ビジョニングカンパニー」という異名を授けた。

「イノベーションや社会変容を浸透させていくためには、物語を描かなくてはなりません。新しい技術や概念は、多くの人からしたら不安の対象となります。未来を想像させる物語は、それを受け入れやすくするんです。

80年代の広告が良かったと言われるのは、それだけ新しい製品が誕生していたからです。ウォシュレットのCMで有名な『おしりだって洗ってほしい』というコピーだって、ウォシュレットという未知の商品を受け入れさせるために生まれたもの。

現代では、NEWPEACEが、ビジョニングで未来のための物語を描いていきます」

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アメリカでは2018年ごろから、Z世代やミレニアル世代と呼ばれる若年層の投票率が驚異的な伸び率を見せている。ジェンダーギャップや環境問題に意識が向いている若者たちが、政治においても存在感を発揮しているからこそ、企業や自治体もそうした問題と向き合い、解決に向かおうとするムーブメントが生まれている。

(参考)
https://www.pewresearch.org/fact-tank/2019/05/29/gen-z-millennials-and-gen-x-outvoted-older-generations-in-2018-midterms/

日本も遅れてはいるものの、こうしたムーブメントはいずれ大きな波となって必ずやってくると、高木は話す。そのとき、おそらくNEWPEACEは、多くの賛同者と共に進む大きな船のような存在になっているのではないだろうか。

前時代的なシステムや慣習からの解放を目指して、ビジョニングカンパニー NEWPEACEは、今日も未来を見据えて動く。


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