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/ (スラント)~クライフの空間詩学~(3)

3.圧縮された空間、10m x 10m バルセロナの空間

バルセロナサッカーとはどんなものか、あらためて見直してみよう。

マッチレポート
2016年10月19日
バルセロナ(4-3-3) vs マンチェスター・シティ (4-2-3-1)
前半開始
 ・シティのハイプレス。バルサは簡単にくぐり抜け、ボール・ポゼッション。
 ・デブルイネのワントップ。
 ・両軍ともバランスよく、スペースを埋めている。
 ・22” メッシ先制。バルサ、右サイドから3人でパスを奪い、メッシがシティPA内に持ち込む。メッシのワンツー。シティDFは誰もついていけなかった。
  ボールを持ったメッシの前にスペースを与えたシティのミス。
 ・メッシからスアレスにパス。ほぼ中央からの突破。メッシのラストパスは脅威。
 ・40” シティがビルドアップできなかった。ギュンドアンがボールを前に運べない。つなげない。
 ・シティ、2回のチャンス。デブルイネからノリトへのパス。それとシルバからギュンドアンへのパス。
 ・ネイマールのボールロストが目立つ。ドリブルとキープのリズムがチームと調和してない。
 ロシア番組実況「アンチッチ、オンチッチ、トラチッチ」???
 ・シティ、FK。バルサ、メッシ、スアレスの中央突破。
前半終了

監督の次の一手
 ・シティ :チャンスを作れない、デブルイネ機能せず。アグエロ投入し、デブルイネを一列下げてシルバと並べ、デブルイネの活性化を狙う。組立て、パスコースの選択肢を増やす。
 ・バルサ、ネイマール機能せず。中盤を増やすか?後ろのイニエスタの配球が少ない?ネイマールとイニエスタ交代か。

後半開始
 ・10” デブルイネ、右からチャンス。2回。
 ・15” GKブラーボ、PA外でのハンドで退場(自分のパスミスから)
 ・20” ノリト→GK
 ・25” メッシ、2点目。ボールを持ったメッシの前にスペース。2人のDFの寄せも間に合わず。
 ・28” デブルイネ、中央からフリーでシュート。
 ・32” メッシ、3点目。 ギュンドアンのバックパスミスから。
 ・シティのバックパスが目立ってきた。前へのパスの受け手が不足。スペースもバルサが埋めている。隙なしバルサ。バルサ、ハイプレス。シティ、プレスをようやくかいくぐってフェルナンドへ。
 ・40” シティがバルサをゴール前に押し込むようになってきた。シティの出足良く、バルサのパスをカットできるようになってきた。
 ・ギュンドアン、アグエロに交代。イニエスタ、交代。
 ・ネイマールが目立ってきた。
 ・45” メッシ、2人抜いて倒されPK。ネイマールPK失敗。
 ・46” ネイマール、メッシから渡ったパスを、4人DFに囲まれながら巧みな足技で得点。
後半終了 

まとめ
シティはバルセロナに対し開始早々から高い位置でのプレスを仕掛けてきた。だが、ボールスキルに長けているバルセロナは、シティのハイプレスの網を簡単にくぐり抜け、ボールを前に運ぶ。
シティの選手もボールコントロールの達人ばかりのなかで、バルセロナの対人スキルとスペースの使い方が光る。バルセロナサッカーの特徴である。
局所々ではシティのハイプレスとそれをかわすバルサのショートパスのシークエンスが発生しつつも、ピッチ全体では、両チームともコンパクトネスを保ちながら全体にバランスよく散らばり、極端な「集散」=スペースを作っていない。両サイドのFWがワイドに攻めるバルサに合わせてシティもワイドに開く。バルサの方が選手間のスペースを巧みに使ったといえよう。
メッシ、ネイマールが目立つのは、キーとなる局面でのボールタッチ数が多いことの証明だろう。これも定量化できない、可視化できない指標である。

ハイプレス=密集の発生、密集の回避策としてのダイレクト・ショートパスの多用、スペースの活用。
バルセロナサッカーは多く語られているので今更筆者が付け加えることはないのだが、本論考で注目している集散、密度、空間という観点からすると坪井が拾い上げたスペインの用語である「エントレ・リネアス」というキーワードが見えてくる。

エントレ・リネアス(ライン間のスペースの利用)。ここでいうラインとは選手を点として個々の選手を仮想の線で結ぶことによって形作られる仮想の守備ラインのことである。守備ラインは通常2列から3列で重層的に形成される。ここでも守備側は、守備ラインと守備ラインの間のスペースを狭めることによりボールを奪取せんとする戦法だが、バルセロナやスペインでは、攻撃者はこの狭い空間を利用すべし、と教えているのだ。
ここでは密度とは一定の空間のなかでの、人の多い少ないを意味している。空間を形造る線は、プレーヤーを結ぶ仮想の戦であり、仮想の守備ラインである。この仮想のラインで区切られた空間を、攻撃時も守備時にも狭める、人の集散でいえば、「集」の状況を意図的につくりあげる、そしてその「集」の状況を突破する、これが現代サッカーの特質のひとつであるといえるのではないだろうか。
このプレイモデルを最高度のレベルで実行しているのが、バルセロナである。
オープンスペースにボールの出口を探すという常識を打ち破って、相手選手が多い密集のなかでもパスを選択し、しかも連続してパスを繋げるバルセロナが驚きと称賛をもって世界のフットボールファンを魅了するのは必然である。
バルセロナは密集の中でも自在にパスを操って世界のサッカー界に君臨しているし、世界中のファンを熱狂させている。バルセロナのサッカー方針は先の坪井健太郎氏の著書に詳しい。
つまり密集のなかでのサッカーの体系化は一定以上進んでいると考えて良い。

バルサ、またバルサを骨格としたスペイン代表ののサッカーの隆盛はこの密集の制圧から始まった。
では、このバルセロナのサッカーはなぜ生まれたのか、である。

以下次号

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