第23回 福永武彦「草の花」

薄幸な主人公の人生を、つい
自分の半生に置き換えてしまう


 私は、家柄とか社会的地位とか資産とかに恵まれず、全てにペシミスティックだが、とりわけ恋は「結ばれぬ」が好みである。前にも何度か触れたが、死とか絶望とか孤独とか、無常を感じさせる恋愛をもって貴しとする。その意味で、福永武彦「草の花」の主人公、汐見茂思と藤木千枝子の恋は、互いに愛しながら結ばれることがなかったという意味で、私の理想の恋愛に近い。小説は何度となく繰り返し読んだが、読む度に我が事のように胸が締め付けられる。薄幸な汐見の人生をいつか自分の半生に置き換えているのである。

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