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即興童話と一匹の蛍

先頃、ゴールデンウィークに次男家族が帰省した時のことです。
私が孫を膝に抱き、ある二つの出来事を即興で物語風に語りました。さっきまで動き回っていたのに、思いがけず静かにじっとして聞いてくれました。話の途中で彼の顔を横から覗くと、横目で私を見て『早く次が知りたい』と言っているようでした。『この子は賢いかも知れない』と、一瞬思ったのです。そこで名前を仮名にして童話として書き、他のエピソードも綴ることにしました。

みんななかよし

たっちゃんのパパとママの休みがたくさんあったので、家族3人で東京から田舎のひいおじいちゃんとひいおばあちゃんの家へ遊びに来ました。たっちゃんは、まだ1歳7ヶ月の男の子です。

でも、悲しいことにそのお家には誰も住んでいません。ずいぶん前に二人ともお空の上に行ってしまって、会うことができません。

しばらくして、たっちゃんのおじいちゃんとおばあちゃんもそのお家へやって来ました。
昔の広いお家で柱も大きくて畳もいっぱいあって、たっちゃんは走り回るのが楽しくて、お部屋でボールを転がしたり、けったりしておじいちゃんと遊びました。たっちゃんは、鼻の頭と背中に汗をかきました。

次の朝、おじいちゃんが起きて畑に行ってみると、だれかに畑を荒らされていると気がつきました。
じゃがいもの種芋は食べられてしまって、葉っぱだけが残っていました。さつまいもの苗は引き抜かれて、その場に投げすてられ、しなびていました。
たっちゃんに食べさせようと、1ヶ月前に苗を植えたおじいちゃんは、とてもがっかりしました。

さつま芋、じゃがいも芋などの畑


「どうしたらいいかなぁ」と、おじいちゃんは困ってしまいました。
山に食べ物がなくなったから、おさるさんが山からおりて来て、食べたに違いないと思いました。
そこで、おさるさんに『もう少し待ってね、お芋が大きくなったら、おさるさんにも分けてあげるね』と手紙を書いてみようと考えました。
でも、おさるさんは文字が読めないだろうから、あきらめようと思いました。それでも、おまじないのつもりで手紙を書くことにしました。
そして、新しいじゃがいもの種芋とさつまいもの苗を植えなおしました。そのそばに、風で飛ばされないように、願いを込めた手紙を丸い石でおさえて置きました。
次の日に畑に行ってみると、手紙はそのまま石の下にありました。その次の日も次の日も、ずーっとそこにありました。
雨がザーザーふったり、お日さまの光がいっぱいさしたので、苗は少しずつ大きくなっていきました。
たっちゃんが東京に帰る日も、土がついて汚れて少しやぶれた手紙は、まだそこにありました。

「次にたっちゃんが遊びに来る頃は、きっと、じゃがいもとさつまいもが大きくなっているから、その時はおさるさんにも分けてあげようね」とおじいちゃんが言うと、たっちゃんはニコッと笑いました。

もう一つのお話は、夕べおばあちゃんがお風呂に入った時のことです。お風呂のかべに小さいクモがいて、スッスッと少し動いたので、そのクモに話しかけてみました。

「こわくないから、この洗面器の中に入ってごらん、お外に逃してあげるよ」

するとすぐに洗面器に入ったので、窓を開けて洗面器をさかさまにしてポイと外に逃がしてあげました。
「バイバイ」と言って窓を閉めると、お風呂のかべに小さいちょうちょうが止まっているのを見つけました。そーっと近づいて、スポンジ付きのお風呂そうじ用の棒を持って言いました。
「ほら、これに止まってごらん、何もこわくないからね、外へ逃してあげるよ」
すると、天井の真ん中にある大きな丸い蛍光灯のまわりを、急にパタパタと飛び始めました。
これはむずかしいかもしれないな、と思った時、スポンジの上に止まってくれました。
窓を開けて「お家へお帰り」と棒をふると、夜空の向こうへ飛んで、パパとママのところへ帰って行きました。めでたし、めでたし。

            おしまい

私がお風呂場で虫に話しかけることが出来たのは、noteのエキナセアさんの記事を覚えていたからです。コメントを差し上げた、印象に残る良いお話でした。本当に有難うございました。
縄文人は虫と会話ができたと、何かで読みました。私はその時、縄文人になっていました。


4月28日の犬の日に、息子夫婦の第二子となる嫁の安産祈願に神社に行ったり、翌日は総勢13名の親戚との食事会があり充実した日々を過ごしました。
私たち夫婦が2泊3日で帰った翌日に、息子たちは、嫁の東京の友人女性をお招きして、桜島や霧島など鹿児島観光を楽しんだようです。

何を思うか1歳児
少し曇った日の桜島にて

息子家族がお友達を空港で見送った日の夜7時頃に、古い家に帰り着くと辺りは真っ暗でした。息子が玄関の鍵を開けようとした時、小さく光る物を見つけました。
『なんだろう』とよく見ると、一匹の蛍が飛んでいました。鍵穴を明るく照らしてくれたのでしょうか、数年前まで一人暮らしをしていた私の母が『おかえり、この家で過ごしてくれてありがとう』と伝えに来たのかもしれません。
「たった一匹だけだよ、一匹だけ」驚いて目を見開いて教えてくれた彼も、何かを感じていたようです。
私はその家の周りで、蛍を見たことは未だ嘗てありません。

その話は、彼等が田舎の家で何日か過ごした後、東京へ帰る前日に安普請の我が家へ寄り、5人で夕食をしている最中に教えてくれました。
その時に、ある話が私の脳裏を掠めたので「知覧の特攻隊の話を思い出した、知ってるかな」と言うと、僅かな沈黙の時間が流れました。
「切ない話ですか」とお嫁さんが言ったので「そう」とだけ答えました。
『特攻隊員に慕われていた富屋食堂経営者の鳥濱トメさんと、ある一人の特攻隊員の話で、その隊員が任務を果たした後、蛍になってトメさんの所へ帰って来ると約束をしました。その後、実際にトメさんの元に一匹の蛍が現れたと言う話しです』と教えてあげればよかった。けれど、泣けてきそうで黙り込んでしまいました。
蛍の季節になると「特攻の母」と呼ばれたトメさんの功績を思い出していました。これからは幻想的な光に、実母の面影を偲ぶことも加わりそうです。

息子家族は、翌日に夫が車で空港まで送り無事に空路で帰って行きました。晴れたり曇ったり不安定な春の日々でしたが、良き想い出となりました。

             完

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