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ロングスカート

この30年くらい、まったくスカートを履かなかった。
子どもが生まれてからバタバタと走り回る生活でパンツスタイル、仕事に復帰してもずっとパンツばかり履いていて、いつの間にかクローゼットからスカートが消えていた。

セレモニースーツでさえパンツスーツ。
わりとフォーマルな場面でもスカートは履かなかった。
(まぁ一枚も持ってなかったんだけど)
強い主張があるわけではなく、一にも二にも機能性重視。
パンツは動きやすい。
ポケットがたくさんある。
なにより楽。


ピアノを習い始めた当初、レッスン時の服装について、何が相応しいか、適しているか、あまり意識しなかった。
体を動かしやすい服、というのは十分念頭にあったけど、そのころは寒かったし、そもそもスカートを持っていなかったので、パンツ以外の選択肢がなかった。

何回目かのレッスンのとき、寒さで指が全然動かなくて、1時間まるまるズタボロだったことがあった。
その前までは全然緊張していなかったのに、その次のレッスンから、めちゃくちゃ緊張するようになった。
手だけじゃなくて足も震えるようになって、そのとき「これはスカートのほうがいいのでは?」と初めて思ったのだった。

30年ぶりにスカートを買うというのは、ちょっとした冒険だった。
まず、あまりに遠ざかりすぎてスカートが似合う気がしない。
履き方忘れてるんじゃないか、という恐れもあり。
歳を取ったので体型的にもどんなシルエットのスカートがいいのかわからない。
トレンドはわかる。
でも、似合うかどうかは別問題だし。

ある日、ファストファッションのお店に行ってみた。
普段足を踏み入れないスカートのエリアは新鮮だった。
少しテンションが上がってしまって、ピンクのロングスカートに一目惚れして、試着して、サイズ感もぴったりだったし、勢いでそのまま買ってしまった。
いや、いい歳なんですよ。
これまでほとんどアースカラーの服しか着てなくて、「いくらなんでもその歳でピンクはないやろ」「いや、せっかくだから挑戦してみてもいいのでは?」と葛藤はしたものの、ほぼ即断即決。

小さいころにゲームを禁止されていた子供は大人になってはっちゃける、みたいな話があるけど、自分もまさにそれ。
たぶん人生で初めてのロングスカート。
若い頃はミニスカしか履いてなかったし、その後はパンツばかりだし、まさにはっちゃけなんだよな。

それにしても、ロングスカートって楽しいのね。
履いてて気分がすごく上がる。
ものすごく上がる。
ただ履いているだけで世界が楽しい。

たぶん、服装が持っているアイコンから自由になったからかなって思う。
服装を通して見られている自分、見せている自分。
服装を通して否応なく負わされるロール。
これまでそういうものから真に自由になったことがなかった。
ロングスカートを買ったことで、今まで本当の意味で自分が着たい服を選んでいなかったことに気づいた。
相応しい服。
期待される服。
機能的な服。
そこを無視してみたら、ピンクのロングスカートを履く自分、いいんじゃないかって。
ロングスカートは私にとってロールのない素の装いなんだなって。
そんなことを思った。

いまはもう、レッスンで足まで震えることはない。
でも、足を思い切り踏ん張れるから、むしろスカートのほうがいいとわかったし、しばらくスカートを楽しむつもり。

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