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モンスターを10年間毎日描き続けたらPOPEYEのアートディレクターに拾われて図鑑を出版することになった話(後編)

人生ほど予想通りにいかないものはない

2018年の年越しのこと。当時僕はセレクトショップで働きながらモンスターを描いていた。毎年12月31日は営業時間が短縮されるので、その日はいつもより早く帰って家でゆっくり年越しをしようと思ったが、同僚から連絡が来て、彼の家で鍋をつつきながら年を越した。そしてそのまま初詣にいった。

僕は半年後退職することを職場に伝えていたからか、この初詣はすごく鮮明に覚えている。そして半年後職を失うことに不安感を抱きながらおみくじを引いたのも覚えている。大吉だった。内心すごく嬉しかった。大吉だから大丈夫だとその時思った。彼はまあまあ普通なやつだった。

初詣の帰り道に「今の仕事いつまでつづけるの?」と漠然と質問を投げかけると「まだまだ続けるよ」と返ってきた。その3ヶ月後、その同僚は退職した。やめることが決まっていた僕。まだまだ続けるはずの彼。しかし、僕が退職する前に続けるはずの彼が辞めた。

これはMONSTER BOOKとは直接関係のない話なのだが、MONSTER BOOKの準備をしていた日々の中で強く印象的な出来事となった。

激動の2019年

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そして話はMONSTER BOOK誕生秘話へと戻る。大量のモンスターの修正をこなして着実に完成への道のりを歩み出したものの、2019年は僕にとってトピックがかなり多い年だった。まとめてみると、

・会社を退社 
・TOMASON LAND開催 (個展)岐阜と東京
・ギャラリー『MAT』OPEN
・taipei art book fair初参加 etc.

割と重要な出来事が2019年に集中していることがこれでお分かりいただけたのではないだろうか?特に独立をした年ということもあり、バタバタの1年だったのだ。

こだわって作った解説文

それと並行して遂にモンスターの解説文へと着手するのだ。
ただの画集ではなく、図鑑であるというのだから、解説文も肝心だ。

昔から僕の生み出すモンスターにはひとつひとつ設定がある。仮に今まで1万体のモンスターを描いていたとすれば1万話のストーリーが存在するのだ。人に歴史があるように僕のモンスターにも歴史があり、その歴史は膨大に膨れTOMASONの世界観を形成している。

この解説文こそが、僕が描いてきたモンスターの世界観を
ストレートに伝える大事な役割を果たしているのだ。

また、この図鑑に英文を入れるのも、出版社に強く希望した。
なぜなら、アメリカのポップカルチャーに1番強く影響を受けてモンスターを描き始めたからだ。
僕は水木しげるの妖怪と同じくらいティムバートンやマーベル、カートゥンネットワーク等に影響を受けている。だからこそMONSTER BOOKをきっかけに海外に発信することを視野に入れることにしたのだ。

小学5年生の時に1度だけ家族旅行でニューヨークに行ったことがある。その時見た景色や空気感はいまでも変わらず覚えているし、偶然村上隆の展示を見かけたときに、当時それが誰かということも知らずに見ていたが、すごくかっこよかった。これも強く印象に残っている。
一言でいうならここが私のアナザースカイ。

MONSTER BOOKは、幼少期強く影響を受けた
アメリカに向けた図鑑でもあるのだ。

当時は暇さえ見つければスマホのメモ機能でモンスターの解説文を90字以内にまとめてストックする、これが日課だった。とにかくこの作業が1番大変だった。

先ほど登場した、会社を退社した同僚から家を引き払ったという連絡を受けた。そいつは英語が話せたというのもあり、住み込みを条件にモンスター解説文の翻訳をお願いした。
しかし、ひとつ屋根の下に男2人で生活することは僕にとって苦痛極まりなく、すぐに解消することとなる。この時、モンスターは愛せても人は愛せないと心底思った。そいつは今日本を出て海外にいるから、本当に人生はどうなるか分からない。無事に後任の翻訳者も見つかり、ふたたびモンスターの解説文を書き続ける日々が始まった。

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モンスターの設定を書き続けて、翻訳者に投げて、をひたすら繰り返して僕のMONSTER BOOKの作業はほぼほぼ完了した。
おそらくこの時点で1年半以上は時間を費やした。後は翻訳とデザインの完成を待つだけ。

人の心を動かすためには泥臭くて不格好な行為も必要だ

やることがないからといって何もしないのは性に合わない。
そこで、とにかく会う人会う人全てに、図鑑が出版されるという告知をこれでもかというほどした。
前編でも記したが、この地道な行為は本当に大事なことである。

そのおかげもあり、結果として無名の僕がセレクトショップ“ジャーナルスタンダード”とのコラボが実現したり、中国版の“HYPEBEAST”や様々なメディアにMONSTER BOOKの記事が掲載されることとなった。一見すると泥臭くて不格好に思える行為が、1番人の心を突き動かすのかもしれない。僕はそれだけこのMONSTER BOOKについて本気で真っ正面から向き合っていた。

東京・渋谷・PARCO・そして思い出の本

話は変わるが僕は岐阜県出身である。ひと言でいうと田舎者である。僕の初めての東京観光が大学2年生くらいだったと思う。友達と夜行バスに乗って半日かけて東京に向かい、テレビで目にする場所をひたすらとバスツアーのように観光していた。

浅草、銀座、六本木、上野、代官山、原宿とベタベタのベタなスポットを巡回して帰りのバスの前に渋谷に着いた。

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最後に寄り道をしたのが渋谷のPARCOだった。当時はまだリニューアルする前だったので地下が書店になっていた。
東京観光でこれといって買い物をしていなかった自分が、唯一惹かれて買ったものがこの写真の本だ。ストリートアートに関する本で、5000円近くした。田舎者の自分には高い買い物だったことを覚えている。僕にとっての初めての東京の思い出。今でもこの本を見ると思い返す。僕にとって、東京も渋谷もPARCOもこの本もきっと特別な存在だ。

夢にまで見た全国ツアー

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そして、僕の地道な告知活動が奇跡を起こす。
2020年にリニューアルオープンした渋谷のPARCOでの、MONSTER BOOKの出版記念ポップアップの話が舞い込んできたのだ。僕にとって特別な存在のPARCOで、しかも、そこでの最初の買い物が本だった自分にとって信じられないような話だった。ここでもまた点と点が線になった。

自分の書籍が遂にPARCOで発売される。夢のようだ。そして気づけば東京のPARCOでのイベントを皮切りに全国各地を回る大型のツアーが計画されたのだ。

PARCO(渋谷)4/11-4/19(延期)
PAR STORE(台湾)4/24-25(延期)
KAKUOZAN LARDER(名古屋)6/19-6/29
六本松 蔦屋書店(福岡)9/19-9/27
MANU COFFEE(福岡)9/19-9/27
藤井大丸(京都)11/3-11/23
IMA:ZINE(大阪)11/7-11/14

好きなことをやり続けると、いいことがあるかもしれない

無名のアーティストが図鑑を出版することだけでも異例であると思う。そして全国で出版イベントをすることなんてもっと異例だ。
何の取り柄もない僕がここまで来れたことが、自分でも信じられない。

ただ、10年間毎日ひたすらにモンスターを描き続け、自分のやりたいことをいろんなところで口にしてきたことだけは胸を張って言える。

好きなことを強く続けていく気持ちさえあれば、
想像を超えるチャンスがいくらでも待っている

これを僕はMONSTER BOOKを通じて1番感じた。

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そして白い立体によって細部までこだわり抜いてデザインされた図鑑MONSTER BOOKが4月10日に納品されて4月11日に出版されることとなった。

大好きなモンスターをひたすら描き続けたことによって、僕は図鑑を出版すること以上の経験を得たことは言うまでもないだろう。

だから僕のモンスターは最強で最高だ。

MONSTER BOOK

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MONSTER BOOK
デザイン:白い立体
発売:2020年4月11日
仕様:148×105×25mm / 300頁 / 上製本(箔押し加工)
定価:3500円+税
出版:白い立体 ISBN 97 8-4-9910388-0-8


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