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読書メモ「世界標準の経営理論」 入山章栄

いわずと知れたベストセラーですが、今さらながら読書メモを書いてみます。こちらの超分厚い本、手に取ってみられた方も多いんじゃないでしょうか。

まず、本の目次を見ると「経済学」や「心理学」と書かれていて、「あれ?経営学の本じゃなかったっけ?」と思う方がいるかもしれません。
その疑問に答えるには、まず経営学の立ち位置を知る必要があります。

経営学は「企業」という領域を特定した学問領域です。(榊原, 2013)
経営学は「企業」を研究するために、様々な学問の理論的な枠組みを活用します。活用する学問領域としてよく用いられるのが「経済学」「心理学」「社会学」であり、「世界標準の経営理論」でも、この3つの学問ごとに内容が大きく区切られています。

全27理論の一覧

はじめに、「世界標準の経営理論」で紹介される理論の一覧を見てみましょう。

世界標準の経営理論で紹介される理論一覧

理論は全部で27個ありますが、心理学に基づくものが12と数として多いことが分かります。
「ゲーム理論」「リーダーシップ理論」のように聞いたことがあるものもありますし、「ストラクチャル・ホール理論」のように初めて見るものもあります。(「レッドクイーン理論」はなんかかっこいい名前)

それでは、27の理論をめちゃくちゃ要約して少しずつ紹介していきたいと思います。詳しく正確に知りたい方はぜひ本書を読まれてみてください。



経済学ベースの理論

MBA本でも多様される戦略フレームワークの源流は経済学にある。

1.SCP理論

Structure-Conduct-Performance (構造ー遂行ー業績) Theory
・経営戦略では必須である「マイケル・ポーターの競争戦略」の基盤となる理論。
「構造的に儲かる産業 と 儲からない産業」があり、その理由は何かを示した。
それは、産業が「完全競争」と「完全独占」のどちらに近いかを見ればわかる。(完全独占に近い方が儲かる)

◆完全競争
①業界の企業が多く1社が価格を決められない
②業界への参入・撤退コストがない
③同業他社との差別化がされていない

完全競争に近い例:アメリカの航空会社
企業数は多く、決定的な差別化要因がないため利用者は安い航空券という理由だけで購入する。

◆完全独占
①②③の反対。つまり、1社が価格を決められ、参入コストが大きく、決定的な差別化要因がある。

完全独占に近い例:かつてのMicrosoft
パソコンOSを一時的に独占しており、供給量や価格を決める強い力を持っていた。

・どの企業も「完全競争」と「完全独占」の間のどこかにある。「企業にとって重要なのは、自社の競争環境をなるべく完全競争から引き離し、独占に近づけるための手を打つこと」

1-a.SCP理論をベースにした戦略フレームワーク

書籍は基本的に「理論」を紹介されているが、SCP理論のみ特別に戦略フレームワークについても1章も設けられている。それは、もっともきれいに「フレームワークに落とし込まれた理論」だからとのこと。

3つの戦略フレームワークをざっと紹介します。

①ファイブフォース
産業の収益性は5つのフォース(脅威)で規定される。
・フォースが強い産業は「完全競争」に近づき、フォースが弱い産業は「完全独占」に近づく。
・この図↓を思い出すことができればOK!

  • フォース1:潜在的な新規参入企業

    • 参入障壁が低く新規参入が多い

  • フォース2:競合関係

    • 競合が多い

  • フォース3:顧客の交渉力

    • 顧客が他者サービスへ乗り換えやすい

  • フォース4:売り手の交渉力

    • 売り手(サプライヤーやベンダー)を選べない

  • フォース5:代替製品の存在

    • コーヒーにとっての紅茶のように代替品がある

②戦略グループ
自社と同業他社を、製品セグメント構造などをもとにグループ化すること。

③ジェネリック戦略
自社が業界内で取っている「ポジショニング」を検討するフレームワーク。
「コスト主導戦略」「差別化戦略」に大別される。
・コスト主導戦略:コスト優位性を追求することで、低価格品を提供して市場シェアを拡大したり、利益率を高めたりする戦略。
・差別化戦略:他社と異なるサービスの提供を追求する戦略。

差別化戦略の方が、「完全競争」に近い状態をつくりだし収益性を高められる。ただし、コストで圧倒的に勝てる条件であればコスト主導戦略も有効となる(例:ウォルマート)

1-b.SCP理論を超えて

・収益性は産業構造だけで決まるのか?というのは調査研究されており、企業固有の要因も大きく影響していることが分かっている。産業構造は影響を及ぼすが過大評価しなくても良い。
・いわゆる業界ランキングような客観指標でなく、経営陣がどこの企業をライバルと思っているかという「心理的な戦略グループ」が収益性に関係している。
・10年程度の「持続的な競争優位」を築ける企業は非常に少ないが、「一時的な競争優位」をつくり、それを繰り返して収益をあげる企業が増えている。
・SCPの限界について、入山先生の見解は2つ。共に古典的な経済学に立脚していることが原因で、1つ目は「安定」と「予見性」を前提としていること。2つ目は人間は合理的で認知バイアスに影響されない」という前提を持っていることである。
・特に現代は競争優位性をつくりだしても、それを持続できない。規制緩和、グローバル化、ITの発展により競争が激化しているのが原因。これをハーパーコンペティション時代という。

2.RBV(リソース・ベースド・ビュー)

さて、SCPを書いて思ったのだけれど「細かく書きすぎました(汗)」
このペースだと終わらないのでもっとさくっと軽めにまとめていきたいと思います。

・RBVは日本語では「資源ベース理論」
・企業は何らかのリソースを投入してアウトプットを生み出す。SCPはアウトプット側の構造や戦略を分析したが、RBVはリソース側に着目する。
・リソースとは、人材、技術、知識、ブランド、向上、財務、他企業との関係など。
・簡単にまとめると、リソースを独占すれば、アウトプットも独占することができる。独占までいかなくても、模様困難なリソースを確保すればサービスの競争力は高くなる。(例:アップルのブランド)
・バーニーによれば競争優位を実現しうる企業リソースの条件は①価値があり、②希少なこと。さらにいえば、それが持続的である必要がある。そのためには③模倣困難で、④代替が難しいというのが条件。

・ただRBVは2007年のレビュー論文において、549の分析モデルの内、53%でしか師事する結果が得られなかった。RBVは一定の説得力はあるが、それだけでは不完全。

・RBVの問題としては、アウトプットの状況で、リソースの価値が左右されることを考慮していない、リソースの組み合わせや活用について考慮していないということが挙げられている。

SCP vs RBV

・結局のところ、SCPとRBVはどちらが重要なのか?
・答え①両方大事。それぞれリソースとアウトプットという表裏をそれぞれ見ている。
・答え②そもそも前提とする競争の型が異なる。
IO型(Industrial Organization:産業組織論)
 ・産業構造が競争に影響を及ぼす。障壁をつくってライバルとの競争を避ける。差別化はそのいち手段。SCP分析はこちら。
チェンバレン型
 
・独占的競争モデルに基づいた競争の考え。サービスが企業ごとに差別化されている状況を所与とする。産業参入障壁はないと考える。激しい競争の中、「勝つ差別化」をする。そのために重要なのがリソース。RBVの考え方。
・シュンペーター型
 
・不確実性が非常に高く予測が難しい状況の競争。ここでは、「試行錯誤をして、いろいろなアイデアを試し、観光の変化に柔軟に対応する」

3.情報の経済学

・そもそも企業組織はなぜ存在するのか?それにこたえるのが組織の経済学。
・ビジネス取り引きにおける「情報の非対称性」を出発点に、取引前の問題を扱う。
・経済学の完全競争では、「サービスの完全な情報を顧客・同業他社が持っている」という条件がある。しかし、実際のビジネスでは、提供サービスの質や取引相手の情報が完全には分からないことが多い。
・有名なのが「アカロフのレモン市場」(レモンは中古車を意味する)
 ・中古車の最適な価値は営業マンは把握しているが顧客は分からない
  ・A:正直セールスは、150万円の価値の車を150万円で売る
  ・B:悪徳セールスは、100万円の価値の車を150万円で売る
 ↓
 ・これ大して顧客は、セールスが価格を価値以上に釣り上げている場合があると知っているので、値引き交渉をする。
  ・A:正直セールスは、利益が少なくなってしまうので売れない
  ・B:悪徳セールスは、120万で売っても利益が残るの売る。
 ↓
 結果として、悪徳セールスだけが取引でき、市場に残る。これを「アドバース・セレクション」と呼び、ビジネス取引の深刻な問題である。
 ・「アドバース・セレクション」が実際に起きている4つの例。
 ①就職市場:候補者が自分の能力を偽る
 ②保険:事故率が分からないので一律に高い保険料を設定
 ③融資・投資:企業の与信調査は本当のことが分からない
 ④企業買収:高く買ってもらうために情報を隠す

・この問題は、スタートアップの買収が進まないなどの問題がある。では、アドバース・セレクションをどう解消すればいいのか。経済学では代表的な2つの方法が提示されている。
 対策① スクリーニング
 企業が顧客の私的情報を持っていない場合。提供するサービスの種類を増やす、クーポンを渡すなど顧客に選択肢を与えることで、顧客が自ら私的情報に基づいた行動をとってくれる。
 対策② シグナリング

 私的情報を持っている場合。相手にその情報を納得してもらうように「わかりやすく顕在化したシグナル」を送る。就職の場合の例としては学歴。企業の場合は「認証」(ISO等)がこれにあたる。

4.エージェンシー理論



2024/6/26に執筆 続く (随時更新予定)
次は第6章


参考文献
・榊原 清則, 2013, 経営学入門 上 第2版 , 日本経済新聞出版

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