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日本と海外における同人アンソロの謝礼のお話

 中国で発行される同人アンソロジー企画において、参加作家様にある程度まとまった額の謝礼金を支払うのが通常である、というお話を複数の中国の方から伺いました。それ以外にもイベントスタッフにも金銭での報酬が支払われる場合があるということで、(恐らく)過半のケースにおいて無償のボランティアが基本である日本の同人とは文化が違うなーと、カルチャーギャップを個人的に感じます。

 もちろん日本でも、一部の男性向けジャンル等、ある程度の頒布数を見込める同人アンソロ企画では謝礼金の支払いが行われることがあるという話を聞いたことがあります。しかしながら、僕の主な同人活動の場である女性向け寄りのアニパロジャンルでは、献本以外のささやかなお礼としての少額の金券や菓子折りの進呈を除けば、そういった謝礼金の支払いはほとんど聞いたことがありません。
 女性向け中堅ジャンルで活動されている友人や、創作ジャンルで活動している別の友人に尋ねてもほぼ同様の返答を頂き、ネットでお見かけする女性向けアンソロ執筆者募集の概要にも、謝礼金の話はほとんど出てこないように見受けられます。
 例外として、プロのデザイナーさんに装丁を依頼したり、表紙やノベルティグッズ用のイラストの描き下ろしの依頼などである程度の金銭のやりとりが発生することもありますが、参加作家様全員に、例えば5000円以上の謝礼金をお支払いするとなると、どうやって予算を捻出するんだ……? と頭を抱える方がほとんどの筈です。
 しかし中国では、Skebなどのコミッションで支払うような、上記のようなまとまった金額の謝礼金を参加作家様へ準備するのが基本のようで、どういう収支計算でそれが可能なのか、自分にはマジで謎です……。
 もちろん、謝礼金をお支払いできるのが一番良い事であるのは当然です。しかし、印刷費に加えてイベント参加費など各種諸経費で費用は坂を転げる雪だるまな上、謝礼金のお支払いが見込める300部や500部を超えるような頒布数を見込める同人アンソロは激レアさんです。ということは、中国では300部や500部とコンスタントに同人アンソロが売れるということなの!? とか、中国は印刷費めっちゃ安かったりするの!? といった想像(というより疑問)が広がるのですが、それに加えて「でもこの同人アンソロ、本文フルカラーに加えて上製本+フルカラーカバー+スポットニスでめっちゃ豪華だよな!?」等々、本の装丁についても手を抜かず本気の全速力な同人アンソロは中国でも多いので、果たして一体中国はどうなっているのでしょうか……。謎が謎を呼んで完全にお手上げ状態です。

 さておき、それでは中国以外の海外はどうだろうということが気になり、欧米や東南アジア圏の同人アンソロに参加している海外の友人数名に尋ねてみることにしました。その解答や自分の経験に基づかせて頂くと、多くは日本の女性向け同人界隈と同様に謝礼金なし、献本のみがほとんどのようです。更に欧米圏で活動している友人の話によると、アンソロを100部頒布できたら成功というような状況とのことで、謝礼金以前に印刷費すら賄えるのか? とドキドキします……。
 そしてこのような状況下において、欧米の同人圏で流行しつつあるように見えるのが電子書籍での同人アンソロの発行です。二次創作の同人アンソロを、チャリティーと銘打ってPDFデータの電子書籍としてGumroadなどを通して有償頒布し、利益を慈善団体に寄付――といったような海外の同人企画をここ数年よく見かけます。しかし、半ば慈善活動であると言っても、二次創作の同人誌のデータ販売は日本の同人界隈から見ると御法度に近い行為でしょう。物質的な本だと多く頒布数を見込めないということと、欧米圏におけるフェアユースの概念が二次創作同人誌の電子書籍化へのハードルを押し下げているのでは――と、個人的には想像しています。
 また、「多くは」と書かせて頂いた通り、東南アジア圏において、一部の同人アンソロで謝礼金のやりとりが発生するケースがあるようです。欧米ではなく東南アジア圏で、というのが私にとっては興味深いのですが、以下の理由があるのかな? と推測しています。

①欧米ではサンディエゴ・コミコンのような複合型のイベントが主流であるのに対し、東南アジアでは欧米式のイベント形式の他にも、同人誌や同人グッズの頒布が中心である日本式の即売会が様々な国で開催されている。
②イベント参加の為の東南アジア各国間の行き来も盛ん。
③もしかすると、印刷費も欧米のように高額ではない?
④こういった環境が同人誌へのモチベーションや需要を底上げしており、まとまった売上予測を立てられる。

 つまり、「コミュニティ人口が多く印刷費も高額ではないことに加え、同人誌の需要を生み出す事の出来る日本式の即売会文化が存在する」状況下で、やっと謝礼についての予算を同人企画に組み込めるのではないか、と思っています。そして欧米では、需要や製造費の問題から利益を度外視せざるおえず、結果チャリティ活動としての傾向が強まっているのか? と。

※但し、欧米式のイベントにおけるカタログ向けのイラスト作品については謝礼が発生すると予想されるので、ここではあくまで「同人アンソロジー」に限った話とさせて頂きます。

 最後に、今回海外の友人たちとの謝礼ぶっちゃけ話で一番感じたことは、謝礼の予算が厳しい側の同人仲間同士、海外であっても我々と認識や価値観は同じだな、という事です。同人活動ということで、頒布数や売上がどうしても見込めない事への理解と納得や、アマチュア活動として同人誌をみんなで作り上げる楽しさがあるからこそ、献本一冊でも参加できる、といった友人の言葉に共感できる作家様は多いのではないでしょうか?
 ともあれ、中国における謝礼の慣習や欧米における慈善活動としての同人企画等、それぞれのコミュニティによって微妙に文化に差異があるのが面白くもあり、気を付けるべきポイントだと思います。中国の作家さまを同人企画にお招きして、謝礼の設定でトラブルになる、みたいなことや、欧米の二次創作の同人企画に参加したら、電子書籍化の話が立ち上がってしまい謎のマシュマロが送られてくる、みたいな可能性も考えられるでしょう。こういった同人文化の違いについて、今後も情報収集を進めて記事に纏めることができたらな、と思っています。

Special Thanks:
ぶっちゃけ質問に親切に付き合ってくれた国内外の友人たち。センキュー!

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