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【翻訳記事】AmazonはいかにしてEUを計画経済へ変貌させたか

コリイ・ドクトロウの記事より翻訳。


メタクソ化(enshittification)の喩えとして、Amazonは完璧だ。メタクソ化とは、まずエンドユーザーを囲い込めるよう彼らに金をバラまき、それからエンドユーザーを犠牲にして取引相手にいい思いをさせて囲い込み、そのあと自らのために可能な限りすべての金を手元に戻し、囲い込みを続けられる最低限の価値だけを残しておくプロセスのことである。

企業の社会的責任を調査するNGO、SOMOの新しい報告で、マルガリーダ・シルヴァはAmazonの末期メタクソ化がEUでどのように行われているか述べている。囲い込まれた消費者へと接触するためにプラットフォームを使わざるをえない零細企業を食い荒らすという、アメリカで用いられた戦略をAmazonはEUでも繰り返し、消費者と販売者の両方をさらに貧しくしているのだ。

この戦略のメカニズムは秘匿されているわけではない。Amazonはこれを自慢してさえいるのだから!Amazonはこの戦略を弾み車フライホイールと呼んでいる。まずはじめに、消費者は低価格につられてプラットフォームへと誘い込まれる。これが顕著なのが一年契約を先払いで要求するAmazon Primeで、これは消費者がAmazonで買い物を行うことを実質的に保証するものだ。消費者がAmazonでモノを買うようになれば、販売業者もそこに留まらざるをえない。Amazonでより幅広い商品が売られるようになれば、惹きつけられる買い手もより多くなり、この買い手を求めて売り手が惹きつけられる。そうして、互いが互いを人質に取るようになる。

このフライホイール効果は悪しきサイクルを生み出す。地元の小売店を干上がらせるせいで消費者は必要なものを実店舗で手に入れることができず、そのせいで小売業者はAmazonへの出品にさらに注力するようになるのだ。消費者と販売者の選択肢が減るほど、Amazonはこの両者を利用して自らの損益を埋め合わせられる。

EUを拠点とする800,000の小売業者がAmazonには存在し、Amazonが科すぼったくり手数料ジャンク・フィーの暴騰のせいで、彼らは売値を引き上げるかセールのたびに損をするかというところまで来ている。こうした価格高騰を隠蔽するために、Amazonは暗黙と明示の両面で"最恵国待遇"の取引を持ちかけている。この最恵国待遇取引のもとでは、販売業者はAmazonより安値で商品を売ることはできない──そのため、Amazonがつりあげた手数料を補填するために売値を上げる場合は実店舗でも売値を上げなければならなくなる。(訳注:このようなインフレに見せかけた価格つりあげをグリードフレーションという)

Amazonが手数料を引き上げる理由を理解するのは難しくない。なにしろ、この会社はeコマース業界を効率的に独占モノポリーしているのだから。アレキサンダー大王のごとく、Amazonには征服すべき場所がもはやなくなってしまったために、この会社は新規顧客の流入ではなくサプライヤーからの搾取と価格のつりあげで成長するほかないのだ。これと同じことが、AppleやGoogleといったモバイル端末企業にもいえる。モバイル機器がもたらす豊かさに興奮して毎年携帯電話を買い替えるような人がもはやいなくなってしまったため、これらの企業はアプリ開発者からの搾取で利益を上げるしかない。

サブスク配信サービス企業にも同じことがいえる。だからこそNetflixはパスワード共有を取り締まろうとしているのだ。

ハリウッドも同様だ。だからこそ、彼らは脚本家をそれらしい文章を自動で吐き出す機械(訳注:脚本家の過去の功績を利用した生成AIのこと)に置き換えることで人件費をなくそうとしているのだ。この機械が脚本を書く映画はバカバカしいものになるだろうが、ハリウッドはそれでも皆が金を払って観に来ると思っている。なにしろ、「ほかにハリウッド映画を観る選択肢はない」のだから。

Uberにも当然同じことがいえる。タクシー運賃を二倍にしてドライバーへの報酬を半分にしたのはそのためだ。

独占企業は、自らの消費者とサプライヤーの状況を悪化させることで"成長"する。だが、それは慎重に行わなければならない。市場の権力を使って買い手を絞り上げているのがあからさまだと、競争に関する規制当局と揉めるかもしれないからだ。反トラスト法に関して、新自由主義的政策が"消費者利益"を無傷のまま残した理由のひとつはそのためである──独占企業が強制力の執行を受けるべきなのは、彼らが価格をつりあげている、または品質を引き下げているときのみという考えによるものだ。

人々が価格上昇にだけ注意したせいで、独占企業はサプライヤーと労働者から自由気ままに搾取できるようになった。なぜなら、独占企業が──ウォルマートからAmazonにいたるまで──サプライヤーと労働者を締めあげるのは消費者の福利厚生のためだと主張できるようになるからだ。生産にかかる金が少なくなれば、値段も安くできるというわけだ。

ひとつの会社が多くの販売力を持つ場合、それは独占販売者モノポリストと呼ばれる。その一方で、ベストセラーの友情破壊ボードゲーム『モノプソニー独占購買』など作られた試しがないため、ほとんどの人はこの概念について聞いたこともない。だが、モノプソニーはあらゆる面でモノポリーと同じくらい危険であり、独占購買者モノプソニストはモノポリストよりはるかに容易に市場権力を得ることができるとわかっている。一夜で10%の売り上げがなくなることすら耐えられないサプライヤーがほとんどなのだから、売り上げの10%を支えてくれる購買者なら大幅な値引きや有利な条件を要求できるというものだ。

Amazonはモノポリストであるが、同時にとても強力で容赦ないモノプソニストでもある。たとえば、Amazonのオーディオブック部門であるAudibleは90%を超える市場シェアを誇っており、市場権力を用いてオーディオブックの制作者から少なくとも1億ドルを搾り取っているとされる。これはオーディブルゲートと呼ばれるスキャンダルとなった。

顧客へのリーチをAmazonに依存しているEU圏内80万の販売業者にとって、このモノプソニー状態は露骨であつかましいものだ。出品手数料の例をとってみよう。Amazonの"フライホイール"は、会社は成長するにつれて"規模の経済"を獲得し、そのおかげで原価基準を引き下げることができるという主張を投げかけている。だが、EUでAmazonが爆発的な成長を遂げても出品手数料が低下したためしはない(思い出してほしいのだが、Amazonに払う手数料が自身の利益マージンを超える出品者は、その手数料分を消費者に転嫁したうえで、最恵国待遇を満たすために他の場所での価格設定も引き上げなくてはならない)。

これらの手数料──そして販売業者から巻き上げたぼったくり手数料ジャンク・フィー──をAmazonはルクセンブルクで記帳している。ルクセンブルクは、その小さな公爵領でビジネスを運営しているというフィクションを保ちたい多国籍企業にタックスヘイブンを提供する、EU加盟国である。EUでは、多国籍企業に対してどの国がもっとも卑屈で腐敗した環境を提供できるかを巡る厳しい競争が繰り広げられており、ルクセンブルクはキプロス、マルタ、そしてもちろんアイルランドと並び、その先頭に立っている。

急上昇した他の手数料と違って、すくなくとも出品手数料は据え置きのままだ。Amazonの虚偽の主張によると、手数料から得られる追加利益は独立販売業者が成長したことによるものであり、Amazonはこの成長率を66%だと見積もっていた。その後、Amazonは本当の成長率が22%であることを認めている。一方で、手数料の値上がり幅は85%にものぼる。

実際の成長率はこれよりさらに低いかもしれない。というのも、Amazonはこの成長率がどのように計算され、どの販売業者のどの売上が含まれているのかを明らかにしていないからだ。

SOMOの報告は、eコマース調査企業であるMarket Pulseに所属するユオザス・カツィウケナスの研究を参照している。ユオザスの発見によると、小売業者はいまや売上高の50%をAmazonに与えており、EU全体では過去5年で10%も上昇しているという。だがしかし、個別のEU加盟国(そして旧EU諸国)は、さらに強烈な手数料の増加を目の当たりにした──イギリスでは手数料がほぼ二倍(98%増)に、フランスでは二倍以上(115%増)になったのだ。

こうした手数料増加の多くは、商品の梱包から発送、決済まですべてAmazonが代行するサービス、フルフィルメント・バイ・アマゾン(FBA)によるものだ。FBAはオプションとして勧められるが、実際には義務的なものになっている。詳細な研究が示すところでは、製品の在庫、梱包、発送を自身で行う小売業者は、たとえユーザー評価やコストや発送時間などの点でFBAに劣らなくても、検索結果から除外されてしまう。これが特に当てはまるのは、検索結果のトップに表示されるカートボックス(訳注:「カートに入れる」ボタン周辺のエリアのことを指し、ここへの配置を巡って小売業者が競争する)についてだ。Amazonはカートボックスの配置がどのように決められるか明らかにするのを拒否しているが、カートボックスの90%はFBA加入業者によるものとなっている。

Amazonは言い訳値上げエクスキューズフレーションでFBAの料金を上げてきた。エネルギー価格高騰を理由にしたのはロシアによるウクライナ侵攻より前のことだったし、コロナを理由に値上げしたのはパンデミックになる前のことだった。

イタリアの規制当局はFBAの腐敗を暴くために忠実な仕事をした。プライムとカートボックスは、名目上「任意」になっているFBAの加入を業者にとって必須条件にしており、そのためAmazonは経営上のリスクを負わずにFBAの料金をつり上げられるということを示す調査報告を公表したのだ。

暴利行為を示すもうひとつの注目すべき証拠は、イギリスとフランスがデジタルサービス税を導入しようとしたのに応じて明らかになった。デジタルサービス税とは、ルクセンブルクがEUの税法を無視していることによって失われた税収を補填するためのものだ。Amazonはデジタルサービス税の負担を小売業者に転嫁したが、Amazonに出店する業者の数がその分減るということはなかった──市場支配力を示す明白なサインだ。顧客を失わずに価格を上げられる場合、定義通りに考えれば、それは顧客に他の行き場がないことを意味する。

以前、Amazonによる年間3,100億ドルの「広告」市場は実のところ広告などではないと書いたことがある。これはむしろ、一番多く金を払った業者を検索リストのトップに表示させる権利を競り落とすという、ワイロ的なスキームだ。

このため、「猫用ベッド」といった単純な検索をしても最初に画面に表示される結果は広告活動によるものが100%の確率で、次に表示される5件は50%の確率で広告になる──犬用グッズの広告に。

Perspective | How Amazon shopping ads are disguised as real results - Washington Post

検索結果を競り落とせるということは、なにか欲しいものを検索したら、検索結果の後の方へ通り抜けなければならないということだ。先に表示されるのは、質のいいものづくりより広告活動多くの金を使う業者の製品一覧である。

こうした状況はアメリカだけでなくEUでも同じことがいえる。SOMOの調査報告によると、検索条件にあう商品を結果に表示してもらうためにヨーロッパの小売業者が支払う手数料はますます膨れ上がっており、残された選択肢は売り上げを減らすか、価格を上げるか、あるいは品質を落とすかだ。

しかし、Amazonが開催し小売業者が競り合うコロッセオめいた戦いの勝者でさえ、敗北に終わりかねない。Amazonは自動化された商品削除プロセスを用いて、一切の警告や説明もなく出品を一部あるいは全部削除してしまうのだ。Amazonの誰に聞いても、その業者が何を誤ったのかは教えてくれない。Amazonの「マーケットプレイスコンサルタント」に金を払っている業者にすらこれは起こる──どうしてAmazonのドツボにハマってしまったのかを彼らに聞いても、コンサルはただ首を振るだけだ(そして料金を請求する)。

ぼったくり手数料にカフカ的サービスによる商品削除、検索トップを巡る全業者の全業者に対する闘争をすべて乗り越えて、それでもなお……敗北の可能性はある。小売業者がSOMOに伝えた内容によると、Amazonの試練を生き延びた商品はAmazonベーシックやその他の自社ブランド製品といったクローンを作られやすいという。Amazonが自身に50%の手数料をかけるようなことはないため、先行の業者を常に価格面で下回ることができ、自社の製品を検索結果のトップに置くこともできる。

Amazon創業者のジェフ・ベゾスは以前、そんなことは起こっていないと議会での誓いのもと証言した──その後、複数の業者が彼の嘘を示す証拠を出すと、彼は議会でもう一度証言するのを拒んだ。

Lawmakers: Amazon ‘may have lied to Congress’ about its business practices - The Washington Post

ベゾスは間違いなく・・・・・嘘をついていた。

この件を巡りAmazonはEUで調査と法執行を受け、「民間の小売業者のデータを用いて業者同士を競争させないこと」を約束してこの訴えを収めた。しかし、Amazonがこの点に関してこれまで破ってきた約束の数々やAmazonの不正を発見する難しさを考えると、彼らがこの約束を果たしてくれると考えるのはナイーブすぎるというものだ。

SOMOの報告では、Amazonに締め上げられてきた中小企業を代弁する弁護士、トーマス・ヘップナーの言葉が引用されている。ヘップナーが言うには、EUがAmazonの悪行を「ケースバイケース」を基本に評価し、全体像を見失っているのが問題である。「ひとつの問題が特定され、それが解決されたかのように見えても、Amazonは別の場所でその損失を補い、同じ結果を引き起こすのです。Amazonの生態系エコシステムのすべてと、その内にある様々な相互依存性を考慮した、より全体的なアプローチを我々は求めているのです」

とはいえ、EUの法執行のやり方も大きく変化しつつある。つい先日にも、EUはAmazonに多数の義務を課すデジタルマーケット法(DMA)を可決した。この法律によりAmazonは、

  • 小売業者が別のマーケットプレイスで違う値付けをすることを認める(第5条第3項)

  • ビジネスユーザーがAmazonのプラットフォームを利用するためにサービスに課金させるのを義務にしてはならない(第5条第8項)

  • 民間の小売業者同士を競争させるためにAmazonが用いてきた手法は制限される(第6条第2項)

  • 検索結果の最上位に自社の製品を表示したり、Amazonのサービスを多く利用する業者を表示することは制限される(第6条第5項)

SOMOの報告は、EUの法執行を改善するための一連の助言で締めくくられている。そこで第一に論じられているのは伝統的な独占禁止法への回帰、そして、モノプソニーとそれによるサプライヤーと労働者の弾圧と非常に相性がいい「消費者厚生基準」の撤廃である。

SOMOはAmazonの最恵国待遇契約(「公正価格ポリシー」と呼ばれている)を調査するように要請している。すなわち、検索結果を支援したり手数料を吊り上げたりといった行為のことだ。また、SOMOはEUに対してデジタルマーケット法の執行に十分な予算を「規制の虜にならないための方策」と併せて求めている。そしてAmazonに対しては、検索結果やカートボックスの配分、そして秘匿されていた他の行為についてハッキリとした説明を行うことを望んでいる。

これらのシステムがどのように動いているかを公表すると、スパムや詐欺業者が検索結果の上位を手に入れるのが容易になってしまうとAmazonは間違いなく主張することだろう。だがこの主張は疑ってかかるべきだ──コンテンツモデレーションとは、「隠蔽オブスキュリティを通じたセキュリティ」という破綻したアイデアを真剣に検討するような唯一の領域なのだから。

最後に、SOMOの報告はAmazonの解体を求めている。Amazonはプラットフォームを売る側か使う側のどちらかを選ばなければならないというかたちでだ。SOMOはこれが「プラットフォームの仲介者、小売業者、サービス提供者にまたがる役割を持つAmazonの利益相反行為を防ぐ」唯一の方法であると述べている。

この手法を指す専門用語は「構造分離」である──プラットフォーム企業が顧客同士を競争させることを禁じる規則のことだ。これはアメリカの超党派による法案「AMERICA法」の原則としても機能しており、利益相反をもたらしているアドテクノロジー部門を切り離すようGoogleやMeta(旧Facebook)に強制するものとなるだろう。今のところ、GoogleとMetaグーグブックは広告の売主と買主の双方を兼ねている。売られる広告に値段がつけられる市場を運営しつつ、広告から得られる金の51%を取り上げていくのだ。

1世紀ものあいだ、アメリカで構造分離の原則が実際に適用されることはなかったが、ここ数年で広く受け入れられるようになっている。理由は明白で、「審判が自分のチームを持ってはいけない」からだ。私が先週ドイツに行き、規制当局や政治家たちと話したところ、EUが近いうちに構造分離を導入できるようになるかは懐疑的であるという見方を彼らは支持した。

だが、彼らは間違っていた!欧州委員会はGoogleとMetaに利益相反となるアドテク部門を売却してビジネスから切り離すように強制するプランを発表した。これは合衆国のAMERICA法を反映したものである。

実のところ、構造分離は我々が要求すべき方針ではない。原告側とベッタリな判事を目の前に仕事をしてこなかった弁護士たちが踵を返し、他の小売業者たちと競合する市場をAmazonが公正に運営できるという考えを擁護しているのは驚くべきことだ。

ネット通販を牛耳り、対面販売を縮小することで、Amazonの決断はヨーロッパ経済のすべてがどう転ぶかを決定づける力を持つようになる。これこそ、EUが忌み嫌い、防ごうと試みる「計画経済」である──これは遠くシアトルの役員室に居座る専制君主により計画された経済であり、無限に連なったペニス型ロケット(訳注:ブルーオリジンのこと)を打ち上げるために余剰を搾り取ることを目的とするものなのだ。


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