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【翻訳記事】ルトガー・ブレグマンによる、貧困を終わらせるための3つのアイデア

ベストセラー本『隷属なき道』の著者にしてオランダ出身の有名な歴史家、ルトガー・ブレグマンは、根深い貧困を消し去るための3つのユートピア的アイデアについて概説している。ブレグマンによると、ユニバーサルベーシックインカム、週15時間労働、国境開放の3点が、理想的な国際社会を創り出すための主要な解決策である。ブレグマンの著作やインタビュー、そして2019年のダボス国際経済フォーラムで行ったような可燃性の高いスピーチは、ユートピア思想の重要さの一部分を思い知らせてくれる。以下に書くのは、ルトガー・ブレグマンによる、貧困を終わらせるための3つのアイデアの内容だ。

ユニバーサルベーシックインカム

ユニバーサルベーシックインカム(UBI)は、貧困を終わらせるためのブレグマンの最初のアイデアだ。UBIとは、国が市民に無条件で送る現金のことを指す。この概念には、生活に必須な出費をまかなうための一定量の資金を定期的に割り当てることも含まれる。その使い道は受給者の自由だ。この考えは、牧師のマーティン・ルーサー・キングJr.や経済学者のミルトン・フリードマン、Facebook共同創業者のクリス・ヒューズといった信頼のおける広範な思想家たちから支持されている。

もっとも長期にわたるUBIの実証実験は、現在ケニアで行われている。"GiveDirectly"というチャリティ団体により、20000人を超える人々に一日約75セント支払われているのだ。1ドル未満というのは多額には見えないが、この金額はケニアの最貧困層の一日当たりの出費とだいたい同じである。この非営利団体からの金で、受給者の年間収入は実質的に二倍になった。GiveDirectlyの実験は2016年に始まり、12年以上かけて行われる予定だ。今のところ、結果はポジティブな影響を示している。携帯電話を用いた支払いシステムにより、団体は食事の量を20%増やし、子供が一食も食べずに過ごす日を42%減らし、家畜や小規模ビジネスから得る利益を48%増加させた。

また、UBIはアメリカ合衆国にもすぐにやってくるかもしれない。新型コロナウイルスによる健康被害が広がるにつれて、アメリカ政府は国の経済を復活させるためいち早く対応している。党派を超えた奇跡的な努力で、共和党と民主党はアメリカ国民に対する現金の直接給付を含む2兆ドル規模の莫大な経済刺激策に合意したのだ。アメリカの成人に1200ドル、子供に500ドルの現金給付を1回から2回行うことを上院は目指している。これは、米国史上もっとも幅広い緊急経済対策だ。

週15時間労働

『隷属なき道』にてブレグマンが読者に思い出させたのは、かつて週15時間労働の発想は現在ほどありえないとは思われていなかったという事実だ。1930年には、イギリス人経済学者のジョン・メイナード・ケインズが2030年までに週15時間労働となることは避けられないと予測した。彼が考える真の社会問題とは、余暇から生まれる退屈への対応であった。だが悲しいかな、彼の予測は実現しなかった。実際はこれと真逆のケースが起こっており、人々は前世代よりも長時間働いている。

時は金なりの世界では、より短い時間でより多く稼ぐ労働に現実味があるとは思えない。けれど、ブレグマンは「生産性と長時間労働は表裏一体ではない」と主張している。時代を経るにつれ、疲労とストレスで世界中の労働者が燃え尽き症候群に陥ってきた。日本の企業文化においてはこの問題が非常に根深く、過重労働による死を意味して『過労死』と名前が付けられているほどだ。働けば働くほど生産性が下がる時代が来ている。

アメリカ人は日本の労働者よりも年平均で137時間長く働いており、52.3%の人が働いていて不幸せに感じていると報告されている。1950年から生産性は400%も増加したのに、実質賃金(インフレ調整済)は停滞したままだ。70年前よりも長く働いているのに、給料に違いが生まれていないのである。

とはいえ、働く時間を短くして稼ぎを増やせるのか?ニュージーランドを拠点とする相続プランニング企業のPerpetual Guardianはそう考えている。この会社は従業員に週4日勤務を試し、それが大成功を見せたのだ。実験前の調査ではワークライフバランスを取れると感じていた従業員は54%しかいなかった。それが、週4日勤務を行ったあとでは、78%に増加したのである。従業員のストレスレベルは7%低下し、チームに対するエンゲージメントは20%増加した。貧困をなくすためのブレグマンの3つのアイデアのひとつを成すこの考えは、より短い時間でより多くの給料を得ることを可能にするかもしれない。

国境開放

国境開放は、貧困を終わらせるためのブレグマンの3つのアイデアの中でもっともラディカルなものといえるかもしれない。あらゆる国への人々の自由な渡航を認めるための国境開放は、社会の崩壊を招くのではないかという疑念と恐れを多く生むものだ。

開発経済学者のマイケル・クレメンスによると、国境開放は労働者の生産性を高める自由な移動を認めるため、世界全体のGDPは2倍にもなるだろうとのことだ。クレメンスはまた、1862年から1965年にかけてアメリカで施行されていた中国人移民排斥法とそれがどのようにして撤廃されたかを指摘し、国境開放に伴い職を失うことや文化が退廃する恐怖についても否定している。こうした予測が実現することはなかったのだ。

経済学者のブライアン・カプランの主張では、国を分かつ境界線は一種の世界的なアパルトヘイトとしての働きのほうが大きいという。人が経験する経済的不平等の度合いは、生まれた国に概ね左右されるからだ。収入の60%は生まれた国で単純に決定されるとブレグマンは述べている。世界中で国境の管理が厳しくなるにつれ、貧しい人々にとって自分が暮らせる国の選択肢はほとんどなくなっている。

貧困を終わらせるためのブレグマンの3つのアイデアは、大胆で型破りだ。しかし、その可能性を探る研究が一部の人間により世界中で行われている。ブレグマンの思想はユートピア的であるが、それこそが肝心なところだ。奴隷制の撤廃や女性の権利推進、週40時間労働も、かつてはユートピア思想だったのだから。『隷属なき道』が主張しているのは、万人にとってのより良い社会を創り出すために大きな夢を見るのは不可欠であるということだ。


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