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【映画随筆#5 ピエロがお前を嘲笑う】

今回は、バラン・ボー・オダ―監督の ”Who Am I - Kein System ist sicher”を鑑賞し、感じたことを記事にしていきます。(注)本稿はネタバレを含みます。

作品名:ピエロがお前を嘲笑う
公開日:2014年9月25日(ドイツ)(日本では2015年9月12日)
出演:トム・シリング、エリアス・ムバレク等

ドイツの映画は見たことがなかったのですが、一気にほかのドイツ映画も観たくなるくらい、面白かったです。実は私はアメリカに住んでいた時期があるので、洋画も大体はセリフが分かるのですが、今回は発言のどれ一つもわからなくても、思いっきり楽しめた作品でした。
今回私が一番感じたのは、先入観がもたらす視野の狭さ、という部分です。私の映画体験が浅いからかもしれませんが、今作は”大どんでん返し”が魅力と事前情報が与えられた中で私は視聴しました。正直に告げますが、全くニュートラルな目で映画を見れたか、といえばそうではなかったといわざるを得ません。いつもより伏線みたいな部分に注視してみたり、変にセリフの意味を深読みしてみたりと、自分から大どんでん返しを食らわない保険を見つけようとしていました。意味ないなと思いつつも、何かと宣伝文句に負けたくない本能が映画のプロットと同じくらいに、描写の粗探しに注視させたのです。しかしその姿勢こそが、引っかかるための伏線であった、といってもよいかもしれません。その証左として、ヒロインとして今作登場したマリが、ベンヤミンと中学以来あっていないといったときに、そこか!とやられたような感じで驚いたのです。そこから、クビとなった刑事さんと同じロジックをたどることで、私自身、ベンヤミンが多重人格者であったことを信じて疑いませんでした。これが大どんでん返しの肝か、とまるで答え合わせかのように安心して、事前に持っていた先入観が解消されたと感じてしまい粗探しをすることをそこでやめてしまいました。そして最後のシーンで、実は登場人物はきちんといて、多重人格という設定こそ、ベンヤミンが仕掛けた罠であることを知り、刑事と私、ともにハッキングされたというわけになります。あれは見事な引っ掛かりっぷりであると自分でも思います。勿論どんでん返しと知っていなかったとしても、おそらく私であれば同様に二度驚いたと思いますが、一度目の驚きと二度目の驚きの質が、先入観の有無で変わってきたと思います。事前知識などが何もなかった場合、多重人格の理屈を理解しようとする姿勢になった中で、その想定が裏切られるので、あくまで映画のストーリーの内部で完結する感情の起伏体験を得られたと思います。しかし、今回の私の場合、ある意味では自分との対話に近い形で映画を鑑賞していたので、驚きが立体的でした。より詳細に言うならば、自分がこの映画のどんでん返しを見破るぞ、みたいな気分で見ていたため、そこには映画のプロットに完全服従の自分がいたわけではなく、閲覧者としての自分のエゴも映画を見る視点に反映されていたわけです。先ほどにも記載した通り一度目の驚きはそのために、いわば答え合わせ、自分の想定を裏切られた照合作業に近いものであったのです。だからこそ、自分の推理が間違っていた後に、その正解と思われた推理ですら違うことに気付かされた私は、逆に一番映画に登場する人物かのように驚いたという体験をしました。最後に登場人物がこっちを眺めて船に乗っていたことからも、その驚き方ですら、制作側の思うつぼと言わんばかりなのかなとも思いました。
後はわずかばかりの感想ですが、MRXがあんなに知らない人だとは思いませんでした。何か知っている人物がMRXの正体みたいな落ちを勝手に予想していたので、それは驚かされる人の考察だな、と自ら反省していますが。

いずれにせよ、久しぶりに振り回されるような映画体験ができたので、非常に有益で楽しかったです。次からは偶発的にこのような類に出会えるように、恣意的に映画鑑賞をするのもありかなと思いました。また次回の記事で。

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