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#16 じっくり考えるよりも直感で選ぶ方が正しい選択をしている?【ニューロ横丁6軒目:意思決定①】

 私たちは日々の生活の中で、様々な行動や選択をしています。虫は暗いところに光が宿っていれば、その方向に飛んでいくという単純な行動をしますが、人間の選択を伴う行動は、もっと複雑なものです。同じものがあっても、状況によって判断を変えていかなければいけないなど、一対一の対応はなかなかできません。

 今回は、この意思決定について深掘りしていこうと思います。

右脳と左脳で信じる宗教が違う!?

 意思決定というものは、「これが来たらこう動く」というような、一対一の対応ではなく、脳の中で色々な選択をして決めていくものです。また、日常の選択の中には「なんとなく、これがいいから決めた」という物も多いはずです。この「なんとなく」は、一見しっかりと判断していない、適当な感じがしてしまいますが、実際はそうでもないのです。

 就職活動の面接でも、「私はこういう人間で、このような経験があって、こういうことがしたいから御社を希望します」というような言い回しが、是とされている世界ですが、本当の「正しい意思決定」というものは何なのでしょうか?

 恋愛の回でも、好きだから選んだのではなく、選んだから相手を好きになるという話がありましたが、選んだ本人は意識的に好きになっているのではなく、気づかないうちに相手を好きになっていました。

 みなさんは「スプリットブレイン」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

 昔、癲癇(てんかん)という脳の慢性疾患で、痙攣などの症状を起こしてしまう人たちに対して、右脳と左脳を繋ぐ脳梁(のうりょう)を切る治療法がありました。それにより、癲癇の症状は治るのですが、右脳と左脳が分断されてしまうため、両者の対話・連携が取れなくなってしまいます。

 実際の患者例であったのが、「将来の夢は何ですか?」という質問をして、右手だと「私は大工になりたい」と書くのですが、左手で書くと「私はカーレーサーになりたい」というように、全く異なる職業を書いてしまう人がいたそうです。

 このように意思決定は、同じ脳の中でも、複数の選択肢が存在していることもあるのです。その人が本当になりたい職業は何なのか、どちらが正しい意思決定なのか、どちらも同じ脳の中でその人が確かに持っている意思であるため、その答えはわかりません。

 他にも、右脳は無神論者だけれど、左脳はクリスチャンというような人もいて、ではその人は死後、どこの世界にいくのだろう、という問題にもなってきます。このように、何かを意識して決定することだけが、正しいものである、ということも言い切れないのがわかると思います。

正しい選択肢を選ぶためには直感が大切?

 アメリカの生理学者ベンジャミン・リベット(1916-2007)は、人間は自分の意思が芽生える、ほんの数秒前から脳活動が始まっていて、その結果として意思を感じていると言っています。彼の発言のその後も、色々な脳計測装置が出てきて、人間の行動は10秒前から脳の動きで予測できるということも分かっています。

 しかし、その行動の意思が、10秒の中に収まっているのであれば、必ずしも人間は、意識的に行動しているわけではないことになります。何となくで決めるのが悪く、意識的に熟慮して決めることが正しいと思われがちですが、実はそれほど意識の役割は大きいものではないのかもしれません。 

 15年ほど前に、被験者に4種類ほどの架空のシャンプーを見せ、どれを買うか決めてもらう実験がありました。それらは、値段の安いもの、成分の良いもの、容量の多いものなど、スペックはさまざまに設定されていましたが、その中に必ず、どの商品よりも優れているものが1つ紛れ込んでいました。それを正しく見抜いて選ぶことはできるかという実験なのですが、その情報を読み込んでシャンプーを選ばせる意識条件、数秒だけシャンプーのリストを見せたあとに、一旦他の作業をやらせて、数分後に選ばせる無意識条件の2つの条件下で実験は行われました。

 条件1のように、じっくりと考えた方が、正しい答えを選ぶことができそうですが、実際はそうではなかったのです。考える時間をあまり与えず、直感で選ばせた方が、より正しいシャンプーを選んだ人が多かったそうです。考えすぎてしまうと、正しくない判断をしてしまいがちで、さらにその実験で、その商品を選んだ満足度を聞いてみると、条件1で意識して買った人たちは、満足度が下がりぎみであったという結果が出ています。適当に決めた人たちの方が、正しい選択肢をする、かつ満足度が高いという結果になりました。

 テストでも、何度も見直しをして、答えを書き直した問題が間違っていた、という経験をしたことのある人も多いはずです。

正しい意思決定とは?

 意識に基づいて判断することだけが、正しい結果に至るわけではないようで、それは商品選びだけではなく、カップルのパートナー選びでも同じことがいえるそうです。

 「あなたは今の彼氏をどう思っていて、2人の関係をどのように感じていますか?」というように、意識で評価させるテストと、彼氏の顔の写真が出てきて、そのあと次々に出てくる「ポジティブ」「ネガティブ」というような単語を、素早く選ばせる無意識的なテストがあります。

 そのテストの4年後、テストを受けたカップルを呼び出すと、意識下で評価が高かったカップルよりも、無意識下で評価の高かったカップルの方が、2人の関係性がよく、カップルが長続きしていたことが分かりました。意識で感じる相性よりも、無意識なところで未来の二人の関係性を予測できるという面白い実験です。

まとめ

 人間は動物のように一対一の対応ではなく、状況や選択肢に応じて複雑な計算をして、判断をして、人生を歩んできています。その中で意識的な判断は、正しくてかっこよく見えてしまいますが、実はそれほど意識にのぼるものが「正しい意思決定」というわけではなく、無意識で選択したものが、より優れた結果を招くこともあります。

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