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時代の追い風は「充実したローカルエリア」に吹いている。

最近読んだ本に『人口減が地方を強くする』(藤波匠 日経プレミアシリーズ)というのがあります。

書影 人口減

ちょっと前(2016年)に出されたものなので認識や状況に若干の古さはありますが、根幹部分は現在でも変わりません。

大きな産業を有するわけでもないローカルエリアが「それぞれの自治体単位で経済を回していく」のには限界がある。
「自治体の行政区分の枠を越えて近隣と交流し、横のつながりを持っていく」ことこそが「これからのローカルエリアの経済振興」の鍵なのである。
「少子高齢化」が「21世紀の日本の重大問題である」と言われだして以降、メディアには「地方消滅」と「東京一極集中」という「ローカルエリアの危機感を煽るワード」が頻出しはじめた。
それらの言葉には「東京が地方の若者を吸い上げてしまうせいで地方が高齢者だらけになって衰退し、やがて消滅に追いやられる」というストーリーが織り込まれているが、しかし「少子高齢化」は「日本全体の問題」であるので「危機的状況にある」現実は東京だって同じなのである。
そもそも「僻地性を嫌って郷里を離れる若者」の全てが「東京」を目指すわけではなく、むしろ「故郷から近い都会(道府県庁所在地や政令指定都市など)に行く」ようなケースの方が多かったりする。
だから「東京こそが地方衰退の元凶」と敵視するのは間違いである。
日本全体で「人口が減り続けている」状況下において「地方同士(東京も含む)で人口を引っぱり合う」ようなことをしても不毛である。
現在行われている「税金を投入して『移住補助制度』を設け、それを目玉にして移住者を力技で呼び込む」ことも同様で、そこに費やす予算が尽きたところで「補助金の切れ目が縁の切れ目」になってしまう可能性も高い。
「定住型移住者」を本気で呼び込みたいのならば「制度で釣る」のではなく、誘致のための予算は「地域の産業新興」に使い、「持続型の雇用」を生んでいかなければならない。
「移住者を呼び込もうとしている地方」には、「呼び込んだ移住者の人生を受け止める覚悟」が必要なのである。
だから最低限、移住者自身の「仕事」と、その子どもたちの「学校」を用意する義務がある。

……とまぁ、このような内容が書かれているわけですが、「衰退必至なローカルの筆頭は『周囲との連帯ができない自治体』である」と考えている私にとっては頷ける部分が多い本でした。

同書が「郷里を離れる若者がみな東京を目指すわけではない」と指摘しているように「『人気の移住地』としてのブランディングがなされている自治体」というのは全国各地に複数ある」わけですが、そういうところと単独で張り合える市町村というのは数少ないのです。
しかし、そういった「現時点では不利な立場の自治体」だって「周囲の自治体と連合軍を組む」ことで地域のパワーを二倍にも三倍にも高めらる可能性がある

「連合軍を組んでブランド性を高める」というやり方は「移住」だけでなく「観光」についても有益で、外部から来たお客様を「自分の街だけで囲い込む」のではなく「近隣自治体とシェアする」と結果的に「自分たちのためになる」のです。
「自分の街へ来てくれたお客様を周辺自治体にも積極的に回していく」と、「周辺自治体へ来たお客様を自分の街へ回してもらえるチャンスが生まれる」からです。

栄えていないローカルというのは大抵「オラが村の繁栄しか考えてない」のですが、そういった「田舎者発想」が捨てきれない限り、過当競争がよりし烈化する21世紀は生き残れません。
「周辺自治体との共存共栄体制がとれるようになるか否か」が今後、「生き残れるローカルとそうでないローカル」の分岐点になるでしょう。

私が「自治体」ではなく「静東エリア(静岡県東部)」という広いくくり振興活動をしているのも、まさに「それぞれの市町の力だけでは牽引力が弱いが、県東部全般がまとまれれば勝機は十分にある」と考えたからです。

静東エリア内には「都会的」「秘境的」「リゾート的」「絶景的」「文化的」etc.……じつに様々な地域が混在しており、駅ごとに異なる表情があって、観光客も移住者も様々な楽しみ方ができます。

ハーバー

プリン

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三嶋大社茶屋

サントムーン3

柿田川2

古本

ケルン

土地勘のない方に「静岡県東部」と言ってしまうとものすごく広大なイメージを持たれるでしょうが、JR東海道線における静東エリア最東端の「熱海駅」から最西端の「富士川駅」までの移動時間は「わずか43分」で、東京で言うなら「三鷹~浅草橋間の総武線での移動時間と同じ」です。
こう言うと、首都圏の方でも容易にイメージできて「なんだ全然近いんじゃん」と分かっていただけると思います。
近いから観光客は「熱海に宿をとって静東エリア内の名所を見て回る」という物見遊山プランも気軽に立てられますし、移住者だって「バラエティに富んだ余暇を過ごせる」わけですよ。

でも、各自治体が縦割り意識にこだわって手を結べないようならば、そうした強みは十分にはアピールできない。
それぞれがバラバラに「ウチの市(町)はいいですよ! ウチに来てください!」しか言わなければ「エリア全体の魅力」はいつまで経っても外部に知れ渡らないのです。

ここでちょっと『人口減が地方を強くする』の話に戻ります。
「東京=ローカルの敵、ではない」という指摘には私も同感ですが、そうは言っても「物量面で他を圧倒する巨大経済圏」であることは確かなわけですから「いっぺん魅了されてしまうと東京圏からの離脱が困難になる」ことは確かでしょう。
だから「東京ばかりを目の敵にするのは誤り」であるにしても、やはり「東京の引力圏外へ人を引っぱり出す工夫と努力」は必要だと思うんです。

過去のデータを見ると「公共事業で地方に大金が流れた時期」には「東京からの転出者」が増えたことが分かる。

同書内にはこのような意味の記述がありましたが、確かに今までは「東京民を切り崩す手段」はこれくらいしかありませんでした。
だけど、今年からは事情が大きく変わりました。

かつては「移住先が働き口を用意する」「政府が東京外に仕事をばらまく」ことでしか東京民を動かせませんでしたが、現在はコロナ禍によって「テレワーク勤務者」が一気に広まり、「誰かに新しい仕事を用意してもらわなくてもローカルエリアに『自分の意思で』移動できる人」が急増したんです。

それまでの必須項目だった「新天地での仕事探し」の苦労が消え、問題は「東京を出たいと思うか思わないか」だけに絞られた……。
この変化はローカル側に有利に働きます。
今までのように「移住者用の仕事をこしらえる手間がなくなる」うえに「都内企業から支払われる給与を自分の自治体に落としてもらえる」わけですからね。
自治体が用意するのは「移住者の子息を受け入れるための教育施設」くらいです。

とはいえ、「良いことずくめ」なわけではありません。
大きな課題だった「移住後に就ける仕事があるか否か?」がクリアされた結果、「その土地に『外部から人を呼び寄せうる魅力』があるか否か?」という点がこれまで以上に精査されるシビアな時代になったのです。

これによって、ローカル間で「明暗」が明確に分かれることになります。
魅力的なローカル「これまで以上に栄え」そうでないローカルは「それなりに」……いえ「これまで以上に寂れる」という結果になるでしょう。

先に述べたように「国全体で人の数が減っていく」21世紀の日本において「移住者の奪い合いで地域間抗争が起こる」のは「不毛」と呼ぶ以外ないのですが、それはまぁ「時代の趨勢」「自然淘汰」「天の配剤」とも言えます。
大型恐竜が滅んで小型哺乳類の時代になったのと同じ理屈です。

とはいえ「自分の関わるエリアが寂れていく」のを見るのは、やはり気持ちの良いものではありません。
だから私は「クリエイターの手による静東エリアの面白化」という形で、微力ながらも「静東エリアの移住者誘致」に尽力していこうと思っています。
「時代の追い風は『充実したローカルエリア』に吹いている」、そして「静東エリアは『充実したローカル』になれるはずだ」と信じながら……。

【この項おわり】

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