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日本にもっと自由で、幅広いコンテンツを。ネットフリックス、5年間の挑戦

9月1日、ネットフリックスが日本でサービスを始めて丸5年が経ちました。おかげさまで5周年の今年、国内のメンバー数は500万人を突破! 今後オリジナル作品にさらに力を入れ、ワクワクするようなコンテンツをもっともっと送り出していきます。

「適応能力を常に求められるとてつもない変化でした」。日本発の実写オリジナル作品を手がける坂本和隆プロデューサーが、5年間の歩み、制作の裏側を語ります。

「認知度ゼロ」からの出発

ネットフリックスが日本でサービスを始めたのは、2015年9月。その当時、全世界のメンバー数は7000万人にも満たないくらいでしたが、現在は約2億人に作品をお届けしています。今年、国内のメンバー数も500万人を突破。急速に拡大した5年間でした。スタート当初、僕たち製作側にとっては、作品が数年後、どのくらいの規模で視聴されるか想像がつきません。作品を手がける立場として、適応能力を常に求められるとてつもない変化でした。

僕が入社したのは、2015年の立ち上げ直後。前職で国際共同制作の作品を多く扱っていて、ネットフリックス作品にも関わっていたことから、声がかかりました。当時、ネットフリックスは創業から20年近く経っていて、ハリウッドのビルボードなどで広告を見かけることも多かったんです。でも、日本では配信サービスというエンターテインメントの楽しみ方すらも、ほとんど知られていない状態でした。

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坂本和隆(Netflix コンテンツ・アクイジション部門 ディレクター)

入社にあたって、当時日本法人の代表を務めていたグレッグ・ピーターズに、どんな展望で日本に進出するのか聞きました。すぐに撤退する場合もあるのでは、と不安がありましたから。すると彼は、日本はアジアのとても重要なマーケットであり、魅力的な漫画もたくさんあって、これほど原作が豊かな国はない、と答えたんです。ビジネスにおいて信頼関係を大事にする国でもあるので、長期的に腰を据えて取り組むと聞いて、入社を決めました。家族がネットフリックスを知っていて、後押しがあったことも大きなきっかけでしたね。

作品は、構想から世に出るまで3年近くかかります。そこで2015年の立ち上げ当初は、「つくる」より「預かる」戦略を取りました。テレビ局などのパートナーさんから配信権を一定期間お預かりする形で、ネットフリックスのサービス上に日本の作品を増やしていき、まずは日本の視聴者の方に喜んでもらう。サービス自体の認知度が低いので、パートナーさんには企業理念などをじっくり説明しなければなりません。日本は新参者に厳しいところがありますし、有料メディアもなじみが薄いので、時間をかけて理解していただきました。結果として各所と信頼関係ができ、『火花』『深夜食堂:Tokyo Stories』『僕だけがいない街』などさまざまな作品が人気を集めました。

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又吉直樹の芥川賞受賞作を原作にした『火花』

いざオリジナル作品の製作に取りかかったのは2年目に入ってからです。やはりここでも、一緒に作品を手がけるパートナーさんと、ゼロから信頼関係を構築していくのが大変でした。ネットフリックスとはどんな会社か、本当に作品をつくれるのか……。クリエイターや芸能事務所、俳優さんなどと直接会って説明し、少しずつチームを形成していきました。実写作品は『全裸監督』を皮切りにして、本格的にスタート。ここ1年の間に複数の作品を世に送り出すことができました。宣伝も含めて、0から1の実績をつくる5年間だったと思います。

全世界規模でクリエイターをサポートする体制

クリエイターにとって、ネットフリックスの魅力とは何なのか。大きな点は、制作環境と、グローバルで視聴されることです。たとえば映画を世界で見てもらおうとしたら、通常、各国の映画祭に持っていき、セールスをかけなくてはなりません。ネットフリックスの場合、配信スタートと同時に190カ国の視聴者に届けることができます。

さらに、スタジオ機能を内製化する動きと並行して、社内に制作をバックアップする体制が整い始めています。VFX、専門的な撮影技術のサポート、予算管理……。制作のあらゆる面のスペシャリストが社内にいるのです。たとえば、「VFXでリアルな動物を表現したい」というクリエイターがいたとします。するとすぐに、「生きた毛並みを表現するにはアメリカのこのCGクリエイターが適しているのでは?」と、社内のコネクションをフル活用することで提案できる。全世界規模で、つくり手の実現したい世界をサポートする体制があります。『全裸監督』の脚本づくりでも、『ナルコス』の脚本家をアメリカから呼んでワークショップを開きました。こういった体制も5年の間に整備し、ようやくスタートラインに立ったという感じです。

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2019年、日本でもっとも観られた作品は『全裸監督』

日本のオリジナリティーとは?

全世界配信だからこそ、日本のオリジナリティーを大切にして作品をつくっています。海外のレビューを見て気づくことは多いですね。たとえば、『深夜食堂: Tokyo Stories』は海外でも人気の作品です。夜12時に開く路地裏の小さな食堂で、食を通した交流が描かれる。舞台は日本独特のものだと、とても新鮮に捉えられています。一方で、お客さんたちが抱えている葛藤は普遍的だと、共感を呼んでいるんですよね。

深夜食堂メイン(トリミング)

1話完結で、思い出の料理と人間模様を描く『深夜食堂: Tokyo Stories』

アメリカチームが製作した『KonMari 〜人生がときめく片づけの魔法〜』は日本でも話題になりました。実は当初、アメリカと日本どちらでつくるのがよいか、社内で話し合ったんです。その結果、大量生産大量消費の問題を抱えるアメリカで日本人が片づけをサポートするほうが、きっと面白いということになった。「物に宿る精霊に感謝して、ときめきを大切に片づけましょう」というのが、アメリカから見ると、日本的な神秘性を感じさせるんですね。日本では気づかない部分を、アメリカチームが独自の視点で拾いあげていると思います。『クィア・アイ』にしても、「日本でやるなら、こういうキャスティングがよいのでは?」など、全世界のオフィスがワンチームで話し合えるんです。

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『KonMari 〜人生がときめく片づけの魔法〜』。
片づけコンサルタントの近藤麻理恵さんがアメリカの家庭を訪問する

チームが世界各地に散っているために、大変なこともあります。直属の上司が国をまたいで頻繁に代わり、日本の制作スタイルやカルチャーなど、説明するのに労を要しました。時差もありますから、なかなか寝られない時期もあります。ただ、ネットフリックスのよいところは、上司が細かく管理するよりも部下に任せ、決定権を委ねるところ。理解度が高く、不要な議論を省くカルチャーで助かっています。

日本とアメリカを比べても、製作のプロセスにはさまざまな違いがありますし、どちらが正しいということはありません。現在100カ国以上で作品を手がけていますから、それぞれの国や地域のプロが互いをリスペクトしながら、ネットフリックスにとっていいことは何なのか、選択するのが僕の重要な仕事ですね。

新たな表現の場を求める空気を感じた

この5年間、日本の映像業界で、クリエイターが新たな表現の場や表現方法を探している空気を肌で感じていました。配信ビジネスの広がり、ネットフリックスの成長は、それと重なったように思います。

僕自身が心がけているのは、クリエイターの方々に制作過程を楽しんでもらうこと。誰かが楽しそうにしていると「自分も入れてほしいな」と輪が広がっていくものですよね。現場も同じで、僕たちの作品づくりを通して、業界をより盛り上げていけたらいいなと思います。

新たな才能をどんどん発掘したいですし、ベテランのクリエイターの方々にも、実力を全世界に向けてぶつけられる機会をつくりたい。そのために重要なのは、やはり制作予算の組み方です。各作品にとって、物語のスケールなどに応じた適正な予算があります。予算は脚本と監督の演出に合わせて変わりますから、必ず撮影前に脚本を全部つくり、十分な準備期間のもとで、クオリティーを担保できる予算を用意します。

韓国でいえば、『パラサイト 半地下の家族』という企画に対し、クオリティーを最大限担保できる潤沢な予算を用意して、ポン・ジュノ監督という才能に託したわけです。そういうスタートラインを用意することが、プロデューサーに求められていると思います。

目下、『全裸監督』シーズン2の撮影中です。先日、撮影の一部があがってきたものを見たんですが、脚本に「銀行のオフィスで電話をかけるキャラクター」とあるシーンで、クレーンを使って、めちゃくちゃ高い位置からオフィス内を撮っていたんです。30人ほどの従業員がいて、だんだんカメラが寄っていき、電話中のキャラクターにフォーカスする。ロケーション、美術、衣装など、いろんな要素がそろえられないと、この画角の発想は実現できません。こういった豊かな撮り方をすると、おのずと現場の士気も上がるんですよね。脚本のト書きに記載されている以上の、僕の想像をこえたスケールに、あっと驚かされました。さらにスケールアップした『全裸監督』を来年お届けしますので、お楽しみに。

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『全裸監督』シーズン2のセットから。 
小道具もこだわり抜いたものばかり

2022年までに日本から15以上の実写オリジナル作品を

ネットフリックスの強みは、作品の幅広さ。これまでストリーミングサービスは40代以下が多い印象でしたが、視聴者の増加に伴い、年齢層も広がってくるでしょう。拡大するなかで、作品の多様性とはどういうことなのか、日々考えています。

2022年までに、15以上の実写オリジナル作品を日本発で配信する予定です。フィクションに加え、ドキュメンタリーにも関心があります。『タイガーキング:ブリーダーは虎より強者?!』のようなユニークなドキュメンタリーが世界的に話題になるなんて、誰が予想したでしょう(笑)。日本発でも、嵐さんが活動休止なさるまでの日々を切り取ったドキュメンタリー『ARASHI's Diary -Voyage-』を配信し、大きな反響をいただいています。

企画を開発する際に、ネットフリックスが誇る世界のドキュメンタリーチームと連携して、題材を練っているとワクワクします。つくり方も含めて斬新なアプローチをしていきたいと思っているので、楽しみにしていてください。

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5人の思いと活動を追いかける『ARASHI's Diary -Voyage-』

この5年をふり返って思うことは、作品づくりは「人」がすべて。同じビジョンを持ったパートナー、クリエイターの方々と出会えるかどうかです。僕はいつも「お互いが見る窓を合わせる作業」を大切にしています。作品に取りかかるとき、それぞれの人がイメージするゴールがずれていることもあるわけです。クリエイターがつくりたいものとネットフリックスが求めるものを合わせていきます。世界中の視聴者から何が求められていて、どんな時代性が背景にあるのか、思いきり議論する。そのうえで、尺の制限やコマーシャルブレイクの必要がないことは、表現の幅を広げる大きな要素だと思います。

これからの個人的な願いは、日本の優秀な才能と全世界の視聴者、つくり手が、一人でも多く出会うことです。すでに『全裸監督』の出演者にハリウッドからオファーがあるなど、さまざまな出会いがボーダーレスで加速しています。作品を通して心のつながりが生まれ、出会いが広がっていったら、これほど嬉しいことはありません。

坂本和隆(Netflix コンテンツ・アクイジション部門 ディレクター)
日本発の実写オリジナル作品のクリエイティブを統括。『DEVILMAN crybaby』『アグレッシブ烈子』『僕だけがいない街』『リラックマとカオルさん』『全裸監督』『FOLLOWERS』などさまざまな作品を手がける。
イラスト:山代エンナ

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