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【NETFLIX LINER NOTES】 もう見た? 音楽から読み解く『ノット・オーケー』の魅力

「音楽が印象に残るシーン? もうすべてです!」。ネットフリックスオリジナルシリーズ『ノット・オーケー』はもうチェックしましたか? 舞台はアメリカの田舎町、17歳の女子高校生を主人公に描いた青春物語で、イギリスのバンド・ブラーのグラハム・コクソンが音楽を担当していることでも話題です。作品を彩る音楽を紹介する「NETFLIX LINER NOTES」。第1回の解説者は、70年代、80年代の洋楽専門番組「洋楽グロリアス デイズ」のDJとしてもおなじみ、ミュージシャン・音楽プロデューサーの片寄明人さん。片寄さんがどっぷりハマってしまったという『ノット・オーケー』の選曲の魅力とは? プレイリストもあわせてお楽しみください。(イラスト:中島ミドリ)

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70’s 80’sの音楽を愛する少年少女たち

いまから5年前の2015年、僕と妻はアメリカ・カリフォルニアでレコーディングするため、オークランドにある友人宅にホームステイしました。

その家には当時10歳くらいの男の子がいて、「いちばん好きなバンド? イマジン・ドラゴンズかな〜」なんて言いながら、ドライブ中にカーラジオから流れてくる70’s 80’sのヒット曲、例えばビージーズやホール&オーツを熱唱するんです。

ホームパーティーでは子どもたちが集まって、エルトン・ジョンの「I’m Still Standing」を大合唱する場面に遭遇したり、レコードショップでカルチャー・クラブのTシャツを着て、古いレコードを小脇に抱えた女の子を見かけたり。

あくまで自分の知る範囲ですが、70’s 80’sの音楽をいまの音と同じくらい愛する若者たちが、メインストリームな存在ではないにせよ、たくさんいることに驚かされました。

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2015年、カリフォルニアのレコーディングスタジオで。
左から2人目が片寄さん(photo by Terri Loewenthal)

世界中で大人気となったネットフリックスオリジナルシリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』も舞台は80’s。音楽はもちろん、当時の映画『エイリアン』『ゴーストバスターズ』などのオマージュがちりばめられています。でも懐古的にならず、若い世代から支持されていると知って思い出したのが、カリフォルニアで出会った少年少女たちでした。

そして最近、友人に「ブラーのグラハム・コクソンが音楽担当で、サントラにプリファブ・スプラウトやアズテック・カメラなどを使っているドラマがあるんですよ!」と薦められ、どっぷりハマってしまったのが、『ノット・オーケー』です。

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監督はネットフリックスオリジナルシリーズ『このサイテーな世界の終わり』(ここでもブラーのグラハム・コクソンが音楽を担当しています)のジョナサン・エントウィッスル。製作総指揮は『ストレンジャー・シングス』のショーン・レヴィ。そしてこの作品が描いているのが、まさにそんな現代のティーンエージャーたちなのです。

主人公はアメリカの田舎町で暮らす17歳の女子高校生シドニー。周囲になじめない不安定な彼女が、自らの超常能力に気づくストーリーは、70’sの『キャリー』や、80’sの『炎の少女チャーリー』といった名作映画を彷彿とさせます。しかし『ノット・オーケー』がそれらと違うのは、作品全体をシリアスなサスペンスではなく、青春映画のトーンで描いているところです。

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右から、主人公のシドニー、ボーイフレンドのスタン、親友のディナ

そのムードには80’s青春映画の巨匠、ジョン・ヒューズが残した一連の傑作『ブレックファスト・クラブ』『プリティ・イン・ピンク』『恋しくて』を思わせる、ほろ苦いスイート感があります。サイケデリック・ファーズやジーザス&メリー・チェインを使い、いまもマスターピースとして愛されているジョン・ヒューズ作品。それらの名作に負けないほど、サウンドトラックがすばらしいのが、この『ノット・オーケー』です。

ミュージック・スーパーバイザーを担当するのはノラ・フェルダー。彼女は『ストレンジャー・シングス』の選曲も手がけ、トトやコリー・ハート、ザ・カーズといった80’sヒットに、ジョイ・ディヴィジョンやエコー&ザ・バニーメンなどのUKニューウェーブを絡めてみせた、その絶妙なセンスが絶賛されました。『ノット・オーケー』では、さらにマニアックな選曲が魅力です。印象に残ったシーン、曲をいくつか紹介していきましょう。

架空のバンド「ブラッドウィッチ」に注目

冒頭、主人公のシドニーが日記に向かって「Go fu*k Yourselfくたばれ」と言い放った瞬間に流れるのは、1966年にイギリスのバンド、ザ・キンクスがリリースした名曲「Sunny Afternoon」のシングルB面曲「I’m Not Like Everybody Else」。

「ほかのみんなのような人生を生きるのはゴメンだ」と歌うこの一曲。シドニーがどのクラスにも必ずひとりはいた「自分はみんなと違う」多感な少女だと簡潔に伝える、見事なオープニングです。

そして、町の景観を描いた壁画の前で、ボーイフレンドのスタンと初めてのマリファナを吸う、美しく忘れがたいシーンで流れるのは、2枚のアルバムを残して忽然と姿を消したアメリカのフォークシンガー、カレン・ダルトン。2006年にニック・ケイヴやデヴェンドラ・バンハートらによるライナーノーツを添えて初CD化された1971年のラストアルバムから「Something on Your Mind」です。

「人生とは暗いものだ」と心に不安を抱えながら生き、人知れず天に召されたといわれる彼女のしわがれた歌声。悩みからひとときだけ解放されたシドニーの心を音で彩る名場面です。

そしてちょっとナードなボーイフレンドのスタン。VHSビデオと古いレコードを愛し、古着のスーツにエンヤのTシャツを合わせるスタイリッシュな彼こそ、前述したカリフォルニアで出会ったキッズたちに最も近いキャラクターです。

そのスタンがシャワーを浴び、パーティーの服を選ぼうと次々着替えるシーン。レコードに合わせて口ずさむのが、80’sのイギリスが生んだ旋律の魔術師、パディ・マクアルーン率いるプリファブ・スプラウトの「The King of Rock ‘n’ Roll」です。

そのほか、2度目のトリップシーンで流れるキャプテン・ビーフハート&ヒズ・マジック・バンド「I’m Grad」や、ザ・ビーチ・ボーイズの初期メンバーによるデヴィッド・マークス&ザ・マークスメン「That’s Why」など、60’sのUSナンバー。

かわいい弟が飼っていたハリネズミの埋葬シーンでのポール・ヤング「Every Time You Go Away」、パーティーでイントロが流れると親友のディナが「この曲大好き」と立ち上がって踊りに行くリック・スプリングフィールド「Jessie’s Girl」といった80’sヒットの数々。

さらに、アズテック・カメラ「Somewhere In My Heart」、ピクシーズ「Here Comes Your Man」、エコー&ザ・バニーメン「The Killing Moon」といった80’sオルタナティブな名曲群から、ザ・レモン・ツイッグス「As Long As We’re Together」をはじめとする現代の曲まで。

「音楽が印象に残るシーンを挙げたらもうすべて!」と言いたくなるほど、歌詞のワードをストーリーと絡めながら実に効果的な使い方をしています。

そして、スタンのお気に入りバンドとして劇中に何度も登場するブラッドウィッチ。これはグラハム・コクソンが『ノット・オーケー』のためにつくった架空のバンド。こちらもドリームポップな名曲ぞろいで最高です。

あらゆる世代を惹きつける魅力があり、音楽ファンにも必見のドラマシリーズ『ノット・オーケー』。1話30分弱と短く、テンポがよいのもうれしいところ。その衝撃的なラストを体験して、続くシーズン2を共に待ち焦がれましょう。

『ノット・オーケー』プレイリスト

片寄明人(かたよせ・あきと)
ミュージシャン、GREAT3、Chocolat & Akito
音楽プロデューサーとして、DAOKO、TENDOUJI、など多くのアーティストを手がけている。NHK-FMで日曜16時から放送中の、70’s 80’s洋楽専門番組「洋楽グロリアス デイズ」DJも担当。


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