相談室ノート#004:健康を測定する


こころと身体の結びつき

 食欲や睡眠は日常生活の基本であり,大変重要なものであります。また,食欲不振,不眠,疲労,かゆみ,痛み,発熱などの症状は日常の中でよく見られたりもします。これらの症状は心理的要因を主としたストレス障害ないしは心身症といわれるさまざまな病気の発病前にも,発病後にも見られるものであります。最近の分子生物学的手法や脳画像の進歩によって,これらの症状がこころと身体の結びつき(心身相関)が非常に強いことが明らかにされてきています。

心身の健康を測定する

 心と身体の健康状態を測定しようと,これまでいくつもの健康尺度が作成されてきました。イギリスのモーズレー精神医学研究所のデビッド・ゴールドバーク博士(1972)が心理障害のスクリーニングツールとして60項目からなる一般健康質問票(The General Health Questionnaire- 60 : GHQ-60)を開発し,その後短縮版として30項目のGHQ30,28項目のGHQ28,12項目のGHQ12が作成されています。日本では1985年に「日本版GHQ精神健康調査票」として公刊されました。

 GHQは自己記入式の質問票で,世界的に最も多用されているGHQ28は,身体的症状,不安と不眠,社会的活動障害,うつ傾向の4因子各7項目計28項目からなっており,「気分や健康状態は」といった質問文に対して「よかった,いつもと変わらなかった,悪かった,非常に悪かった」の4つの選択肢から1つ回答を選ぶというものであります。採点はそれらの回答に「0,0,1,1」の得点が与えられ,GHQ合計得点を算出し,健康状態が最も良好な0点から,最も不良な28点の範囲で評価されることになります。そして,カットオフ値(正常とみなされる範囲を区切る値)が設けられており,7点以上は何らかの医療サービスを受けた方がよいとされています。


 
BPSS健康モデル(Bio-Psycho-Social-Spiritual Model)とその健康測定尺度

 1998年,世界保健機関(WHO)は,「健康とは,単に病気ではないとか,弱っていないということではなく,肉体的にも,精神的にも,スピリチュアル的にも,そして社会的にも,すべてが満たされたダイナミックな状態にある」という新しい概念を提案しました。(スピリチュアルの適訳はいまのところ見当たりません。ここではスピリチュアルを,人間の尊厳,ないしは自身の存在意義や生きる意味を見いださせる人間存在の根源にかかわる活力と定義します)

 上越教育大学大学院臨床心理学コース内田研究室(2011)では,主成分分析という統計解析法を使用して,身体的健康5項目,心理的健康10項目,社会的健康9項目,ならびにスピリチュアル健康8項目の計32項目について4件法(4:よくあてはまる,3:少しあてはまる,2:あまりあてはまらない,1:まったくあてはまらない)で回答する自己記入式のBPSS 健康調査票(BPSS Health Questionnaire)を作成しました。得点可能範囲は32点〜128点で,GHQと逆に,高得点ほど健康が良好な状態になります。BPSSの合計得点は正規分布し,男女による差もほとんど(99.6%)ありませんでした。

 GHQ28は4因子の構造を示しましたので,個人の健康を4つの側面から見られるという利点があります。しかしBPSS健康尺度は4つの側面の項目群に基づいて分析したわけですが,1因子の構造を示していました。このことは4つの側面が統一体となってはじめてその個人が健康か否かを判断できると言うことで,文字通りWHOの1998年の健康概念に合致した測定尺度が開発されたと考えられます。

 BPSS健康尺度では,健康群と罹患群との比較によるカットオフ値の設定は今後なされる必要がありますが,正規分布の中心からのズレで判断すると,おおむね以下のようになります。

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