少年と看板

とある休日—

少年は家族でショッピングモールへ行く支度をしていた。
母親、父親、姉はいつものように支度を済ませ、父親は運転席、母親は助手席、姉は助手席の後部座席へと乗り込んでいく。少年は運転席の後部座席が定位置。しかし、この日はその席に乗りたくはなかった。

腹痛—

少年は酷く腹痛に見舞われていたのだ。

しかしどうすることも出来ず、車は定刻通り発車する。
少年は定位置に身を置く。尻からの発車だけを恐れて—


4人と便意を乗せた車は恐ろしいほどゆったりショッピングモールへと進む。少年は押し寄せる波を沈める事だけを集中し流れる雲をじっと見つめていた。
「なぜ、信号は青じゃなければ進んではいけないのか。」こんな疑問を感じる事は初めてだった。しかし、徐々に近づくショッピングモールへ道のりを自身の大腸と見立てると安堵感を得れる事に気づき、少し気持ちが落ち着いた。

そんな矢先の事だった。


渋滞


張り詰めた糸が切れた


漏れる


そう思う0コンマ数秒前には体が勝手に外に飛び出ていた。


草むらに野糞をした。

まるで空気砲のような衝撃を尻の穴から感じる。

母親も慌てて飛び出してきた。
母親は少年の前に立ち必死に盾となった。あのナメック星人のように—

少年は何の感情もなくただただ目の前にある向日葵を見つめていた。


月日は経ち、10年後—

家族全員で外出は久しぶりだった。
父親は張り切って遠出しようとショッピングモールに行こうと車を走らせた。

そういえば、あの日からこの現場を通る事は一度もなかった。


看板が立っていた。


《犬の糞、お断り》


車は素通りした。






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