電話をかけながら散歩する習慣【4/4】
友人が、昼休みに食事を食べたあと、散歩をしながら電話をくれるようになって数ヶ月が経った。
友人は、健康のために歩くことを習慣化させようとしているという。その試みをはじめてきいたとき、なんと粋なんだと思った。これこそ昭和生まれの私たちに必要な行動だ。
そう思うのなら、私もその時間は一緒に散歩をすればいいんじゃないかと考えたが、結局家にある仕事机に座りながら受話器をとることが大半という状況で今に至る。自宅とはウエストがゴム製のズボンのような存在なのだ。ぬくぬく過ごすことに慣れきってしまった自分を、強制ではなく任意で外に繰り出させるのは、思っていた以上に難しい。
でも、今日こそはと思って出かけた日があった。なんでそう思ったのかは忘れた。近所の公園の桜が満開だったので、コンビニでノンアルコールビールを買って、花見をすることにした。少し先では、中高年のご夫婦が桜の近くでポーズをとっていた。記念撮影をしているようだった。
電話口の友人に「桜がきれいだよ〜」「気持ちいいわ〜」って伝えつつ、ノンアルコールビールを口にしたら、「しまった」という気持ちになった。
「私、ビールの雰囲気だけじゃだめなんだった。味が好きなんだ。アルコールのあの、口の奥のほうがかーってなるような感覚も含めての味が」って気づいて、でも、それはずっともう前からそうだったことも思い出した。
桜の雰囲気に完全にのせられた。
次の日以降、結局また自宅で受話器を取っている。
そろそろまた、受話器を取りながら外に出たい。桜が散った今ならもう、雰囲気にのせられることなく冷静な散歩ができるに違いない。
冷静な散歩ってなんだ。あるのか。
ところで話がまったく変わるのだが、リニューアルしたギネスを飲んだ。ああ、これは確かに違う味がするぞと理解した。
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