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どうぶつしょうぎ定跡研究(その1)

 前書き 『どうぶつしょうぎ』とは

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 どうぶつしょうぎとは、女流棋士の北尾まどか氏と藤田麻衣子氏が将棋普及のために共同開発した入門者向け12マス将棋です。現在は東京大学情報基盤センター情報メディア教育研究部門所属の田中哲朗氏によって完全解析がなされ、78手で『後手必勝』と結論付けられています。
 後手必勝と結論付けられようとも、どうぶつしょうぎは将棋入門の子ども向きとは思えない奥深さがあります。その2億を超える局面数を全て把握して対処するのは大人であってもほぼ不可能です。

 そこで、少しでも体系的に多くの局面・変化を覚え、どうぶつしょうぎで強くなる心強い味方となる「定跡」を研究するに至りました。
 この記事では、どうぶつしょうぎにおいて主に『詰みが発生するまでに50手近くかかるような長大な変化』を中心に名前を付けて定跡としました。
これからどうぶつしょうぎを始める方、どうぶつしょうぎを極めたい方の一助となれば幸いです。
 なお、当記事はどうぶつしょうぎ初級者~中級者向けとなっております。初心者の方は駒の動かし方とか基本ルールなどをどうぶつしょうぎウォーズアプリ内の「あそびかた」、あるいはどうぶつしょうぎのWikipediaなどを参照してからご覧くださいませ。


 この記事は以下の全4章構成となっています。

第1章 4つの初手
第2章 2大戦法 『ゾウ冠』と『キリンの翼』
第3章 どうぶつしょうぎ七大定跡
第4章 どうぶつしょうぎウォーズ攻略

 本記事では『どうぶつしょうぎ定跡研究(その1)』として、第1章と第2章を掲載します。『どうぶつしょうぎ定跡研究(その2)』は後日公開予定です。(※公開しました。2019/4/19

 そしてこの記事の作成にあたり、『あにはい』様を参考にさせて頂いております。日頃からお世話になっております。ありがとうございます。



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 第1章 4つの初手

 定跡を紹介する前にどうぶつしょうぎにおける、先手が取りうる4つの初手についてご紹介します。


 『B2ヒヨコ』

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 まずひと目で考えうる初手として挙がるのがB2ヒヨコと後手のヒヨコを取りつつ王手をかけるこの一手。ヒヨコを手持ちにして先手が得をしているようですが、実際はこの次に後手はヒヨコを取りつつゾウが前進するため先手優勢で盤面が進みます。
 定跡については後述するが、おおむね「ゾウ冠」というどうぶつしょうぎにおいて基本的な戦法に推移する。比較的穏やかな変化となります。


 『C3キリン』

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 次に考えうるのがC3キリンと大駒を上げて上部制圧を狙う一手。これも一見して先手が先にキリンを動かして優勢のようですが、この後ニ手目で後手もA2キリンと大駒を上げてきて、やはり先手が先にB2ヒヨコとヒヨコを動かすことになるので後手の方が優勢になります。
なおC4キリンとキリンを引く手もありますが、その場合は後手からB3ヒヨコと交換を迫られ、基本的に初手B2ヒヨコと同じ変化に合流します。
 定跡については後述しますがおおむね「キリンの翼」という、「ゾウ冠」と同じくらい基本的な戦法に推移します。ただし変化や派生も多く、「ゾウ冠」と比べると少し複雑な変化になりやすいです。


 『C3ライオン』

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 3つ目はライオンが右上に上がるこの一手。B2ヒヨコやC3キリンが先手不利ならこれはどうかという手ですが、この後冷静にA2キリンとされるといきなり手に困る。B4ライオンと戻れば初手C3キリンとほぼ同じ変化に、ツッパってB2ヒヨコとすると大きく不利(短い手数で詰まされる)になってしまいます。

 

『A3ライオン』

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 残る最後の1つ、4つ目はA3ライオンという一手。この手ばかりは次の後手A2キリンに対してB4ライオンと強制的に退けられてしまうので有効な一手とは言い難い。C3ライオンと同じようにやはりC3キリンと同じような変化に合流します。


 4つの初手まとめ

 どうぶつしょうぎで先手が取りうる4つの初手は、以下の通り。

『B2ヒヨコ』……素直な変化になりやすい。「ゾウ冠」系定跡へ。
『C3キリン』……複雑な変化になりやすい。「キリンの翼」系定跡へ。
『C3ライオン』…戻るのが最善の弱い変化。微妙。
『A3ライオン』…戻るだけの退屈な変化。微妙。

 初手でライオンを動かす手はほとんどC3キリンの変化に合流するだけであまり有力な手ではありません。
『B2ヒヨコ』と『C3キリン』はどちらも変化が多く、後手優勢ながら先手も善戦(詰みまでに長手数かけさせる)することができます。

 次からはどうぶつしょうぎにおける「2大戦法」ついて説明していきます。



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 第2章 2大戦法 『ゾウ冠』と『キリンの翼』

 どうぶつしょうぎをオンラインで遊べるアプリに『どうぶつしょうぎウォーズ』(HEROZ,inc.)があります。
同アプリには以下の画像のような「コレクション」と呼ばれる、対局中に表示される戦法・囲い・手筋などのエフェクトを集める要素があります。

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Google Play版『どうぶつしょうぎウォーズ』マイページより

 盤が狭く駒の交換が激しいどうぶつしょうぎにおいて戦法・囲いに該当するコレクションは少なく、ほとんどは手筋にあたるようなものが多いです。
 しかし、これらコレクションの中でもとりわけ1番目と2番目の『ゾウ冠』『キリンの翼』は2大戦法とも呼べるほど重要です。
どうぶつしょうぎにおける変化のほとんどはこの『ゾウ冠』戦法か『キリンの翼』戦法から派生していきます。

 具体的な定跡について説明する前にこの章では『ゾウ冠』と『キリンの翼』について説明します。


 『ゾウ冠』

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初手より
▲B2ひよこ△B2ぞう▲B3ぞう(上図)

 ゾウ冠とは、図のようにライオンの頭に冠のようにゾウを配置する出だしから始まる戦法のことです。初手はB2ヒヨコに限らず様々な序盤からこの戦法に合流します。
ゾウ冠は最も長手数の定跡でもあり、解析によると78手で後手必勝となるようです。(※初手より▲C3キリン△A2キリン▲C4キリン△B3ヒヨコ▲B3ゾウ△B2ゾウ~の場合)

 長手数の定跡ということもあり、途中で分岐するように別れるいくつかの有力な変化があります。
因みにこの場合の「有力」とは、派生しても後手優勢なのは揺るぎませんが、詰みまでに長い手数がかかることで後手のミスを誘いやすいという意味です。

 ゾウ冠はキリンの翼から派生する変化と比べて比較的激しい変化が少なく、色んな序盤から合流する可能性の高い定跡であるため、入門者向けの戦法(定跡)といえるかもしれません。


 『キリンの翼』

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初手より
▲C2キリン△A2キリン(上図)

 キリンの翼とは、上図のようにゾウを動かすより先にキリンを翼のように配置する出だしから始まる戦法のことです。先にヒヨコを交換するとこうなりませんので、キリンの翼からゾウ冠に合流することはできますが、ゾウ冠からキリンの翼に合流するのは基本的にはできません。

 どうぶつしょうぎの面白いところは、あにはいによると上図の形から先手の最善手が▲C4キリンとキリンを初期位置に戻す手だということです。
 そこで後手が△A1キリンと付き合ってくれれば千日手もあるかもしれませんが、後手は△B3ヒヨコとヒヨコの交換を強制されて結局はゾウ冠定跡に合流します。
なお、初手▲C3キリン△A2キリン▲C1キリン△B3ヒヨコから、ゾウ冠定跡に合流するのがどうぶつしょうぎにおける最長手数の定跡。いわゆる『必勝定跡』です。

 ではキリンの翼戦法はただ無駄に手数が増えるだけの意味のない戦法なのかといえばそうではありません。次の章(次の記事)で紹介しますが先手側にゾウ冠に合流する以外に有力な派生・変化があります。
それぞれが大きく異なった定跡に派生するため、ゾウ冠よりも激しい変化が多いのが特徴です。


 『ゾウ冠』と『キリンの翼』のまとめ

・ゾウ冠とキリンの翼はどうぶつしょうぎにおける2大戦法
・ゾウ冠は長手数だが比較的穏やかな変化に派生する
・キリンの翼はゾウ冠と比べると激しい変化に派生する可能性がある
・キリンの翼からゾウ冠に合流することがあるが、逆はない


 本記事はここまでとなります。次の記事『どうぶつしょうぎ定跡研究(その2)』では第1章と第2章を踏まえ、より実践的な定跡の紹介に入ります。お楽しみに。


その2を投稿しました!
 →『どうぶつしょうぎ定跡研究(その2)』

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