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百壁ネロの断片

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記事一覧

黙示緑黄色野菜

 一本の人参が、人類を滅亡へと導いた。
 いや、正しくは「ひとりの八百屋と、一本の人参が」と言うべきだろう。

変身(高揚版)

 朝起きたら、あたしはカツカレーになっていた。
 これは面白くなってきやがった……!

変身(最強版)

 朝起きると、コブラになっていた。
 やったー強いじゃん! 最高!

圧倒的全納感

 お金があって仕方がないので、とりあえず五百年分の年金を納めてきた。
 まだまだあるので、同じ市に住む人の分も全部、五百年分納めてきた。
 まだまだある。もう国民の分、全部払っちゃおうかな。

百の人

「……ええっと、それで、夜道を歩いて行ったら、いや、やっぱり行かなかったんですけど、いや、行ったかな、まあそれはともかく、夜道といえば僕が思い出すのは……」
 百物語の百話目をうっかり担当することになってしまった僕は、今、必死に話を伸ばしている。だって百話目を語り終えたら怪異が現れてしまうから。怖いじゃん。

鄒坂さんは嘘がきらい

「えっ、大きなカブって嘘だったの?」
 どういう会話の流れだったかは忘れたけど、そのとき鄒坂さんはたいそう衝撃を受けていた。
「嘘っていうか、童話だよ」
 僕が正すも、
「作り話ってことでしょ? じゃあ嘘じゃん!」
 鄒坂さんはそう言って、怒りに震え始めた。ええー、そんなに?

ごぶごぶ

 生きるか死ぬかは五分五分だった。
 それだけじゃない。進めるか進めないか、解けるか解けないか、壊せるか壊せないか、吸えるか吸えないか、叶うか叶わないか。それらもすべて、五分五分だったのだ。

R父

 山田さんとこの父さんは、キラ仕様らしい。
 しかもデザイナーのサイン入りで、シリアルナンバー入り。
 噂が本当なら世界に数人程度規模のめちゃくちゃレアな父親だ。ショップでの買取価格もかなり高いと思う。
 いいなあ……私の父さん、コモンだもんなあ……。

熟成

 カレーは一晩寝かせると美味いというが、実は死体も同じである。
 僕は彼女の死体を、台所の床で一晩寝かせることにした。じっくりと。

俺でも勝てる将棋入門

 昨年、将棋のルールが大幅に見直され、紆余曲折あった結果、最終的にほぼ腕相撲と同じものになった。
 ……これなら、プロになれるかも知れない。
 俺は勇気を出して、将棋部部室の扉を叩いた。

四季が

 いつの頃からか、季節がひとつずつずれてしまった。夏はあけぼの、秋は夜。正直、さほど違和感はない。

部屋キャン

 目が覚めると、知らない人が僕の部屋でキャンプを始めていた。わざわざテントを張って。
 僕の部屋、六畳一間なのに。もっといい部屋あるだろ絶対。というか外でやれ。

長い雨

「傘いりませんか、傘」
「傘どう? この辺で一番安いよ」
「傘買ってくれない? 一本だけ」
 雨が降り続けるこの街は、どこもかしこも路上傘売りであふれていた。

自伝の男

 島寺くんは自伝を書いている。
 突出した経歴も能力もなく、客観的に見て彼は至極平凡な三十八歳の男性だが、彼がこれまで書き連ねた自伝は原稿用紙にして三万枚に及ぶ。フィクションは交えず、嘘偽りない平凡な事実のみを書いている。
 ちなみに、彼にとっての原稿用紙は実家の自室の壁だ。小学生の頃にはピカピカだった部屋も今は文字で真っ黒で、そろそろ部屋を出て廊下の壁に書かなければと考えている。