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ありがとうメヒアまた会う日まで

2014年途中からライオンズでプレーしていたエルネスト・メヒアの退団が発表された。
理由はコロナ禍で家族と離れ離れの状態が続いてしまったこと。他球団でも同じような例があっただけに、全く予想外だったわけではないが、それでも突然の別れには衝撃が走った。

ライオンズとメヒアとの出会いは2014年。
メヒアはブレーブス傘下で20試合時点ながら7HR、OPS1.104と猛打を見せていた。しかしメジャーにはフレディ・フリーマンという強打の一塁手がいたため昇格できない状態。
一方ライオンズは伊原春樹監督が復帰したが若いチームと全く噛み合わない上に、片岡治大・涌井秀章・D.サファテ・E.ヘルマンと主力選手が相次いで移籍。内野の穴を埋めるために補強したC.ランサムは応援歌しかいいところがない。
そんな中でライオンズが緊急補強したのが当時28歳のメヒアだった。

伊原監督の方針に従ってソックス上げ、髭なしのスタイルで5月15日にデビューすると、初打席で上沢直之からいきなりHR。その後もチームが低迷する中で打ちまくり、34HRで中村剛也と共にHRを獲得した。
印象的だったのはシーズン最後の2試合。ホーム最終戦だった10月2日を前にして中村と33HRで並んでいたものの、メヒアはこの試合で34号決勝2ランを放つ。中村は怪我でベンチスタートが続いており、メヒアが単独でタイトルを手にするかと思われた。
しかし中村は翌3日に代打で34号を放ち2人でタイトルを分け合うこととなった。ベンチに戻ってきた中村を満面の笑みで迎えるメヒア。
思えばこの頃からライオンズとライオンズを長年支えてきた選手へのリスペクトを欠かしていなかったのだ。

それ以降も思い出はたくさんある。
2015年に明らかにオーバーウエイトで来日したこと、
それを受けて翌オフには練習の様子を送るように命じられていたこと、
森本稀哲の引退試合で必死に走ってゲッツーを免れたこと、
2016年4月24日イーグルス戦での1試合3HR、
2016年9月に長男アロンソくんが生まれてフロリダに一時帰国したのにわずか1週間で帰ってきたこと、
それでいて復帰初戦でいきなり祝砲を放ったこと、
電車通勤を続けてよくTwitterで写真が回ってきたこと。

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一方で選手が活躍すれば活躍するほど移籍の心配をしてしまうのがライオンズファンの悲しい性。メヒアについても2014年のシーズン中やそれ以降にも他球団の調査報道が出て、その度にライオンズファンは嫌な想像をしてしまった。
それでもメヒアは2016年のシーズン中に3年15億円の契約を結んでくれた。

ホークスにはいいようにやられ、打線はタレント揃いなのに繋がらず、投手陣も冴えない、夕刊紙には色々書かれる。それでいて選手はどんどん移籍する。そんな中でメヒアが残ってくれてどれほど心強かったか、嬉しかったか。

ただ皮肉と言うべきか大型契約を境にメヒアを取り巻く環境は少しずつ変わっていく。
辻発彦が監督に就任した2017年シーズン。6番ファーストで開幕スタメンに名を連ね、前半戦で15HRをマークしていた。
しかし二軍では長打力を見せるものの一軍では力を発揮できていなかった4年目の山川穂高が覚醒。7月8日に「野球人生を賭けた」打席で代打HRを放つと、後半戦にはファーストのレギュラーに定着。8月2日イーグルス戦で1試合3HRを放ち完全にブレイクを果たした。
加えて開幕前の怪我で戦線離脱していた森友哉も復帰してDHの座を掴む。

今になって思えばこの頃に翌年からの2連覇の序章が始まっていたのだが、その中でメヒアはベンチを温める機会が増えていった。7月まで340打席に立っていたのが、8月以降は僅か48打席。
そしてその傾向は翌年以降も変わらず、いやどんどんその傾向が増していった。

祖国から遠く離れた国に来て、契約はあるもののベンチで過ごす日々。チームは絶好調で代打もめったに必要ない。不貞腐れる態度を取ってもおかしくないし、そういう外国人選手の話もよく聞く。
それでもメヒアは真面目だった。口を開けばチームへの愛着、そしてファンへの感謝を述べてくれた。
現実問題として3年契約の間に彼の「商品価値」は下がってしまい、他にいいオファーをくれるチームはないという面はあっただろう。
それでもそんなことを感じさせないくらい、真摯にチームのためにプレーし、ベンチを岡田雅利や熊代聖人と一緒に盛り上げていた。

2017年以降も印象深い活躍はたくさんある。
2017年4月14日土壇場で逆転弾を打ったこと、
福岡で通算100号を達成したこと、
球団通算9000号を記録したこと、
松井裕樹にやたら強かったこと、
松井じゃなくブセニッツからも9回逆転弾を打ったこと、
山川より安心してファースト守備を見ていられたこと、
居酒屋一休のCMで名演技を披露していたこと。


そんな中でも最大の思い出は2019年9月23日。
その前の20日のホーム最終戦で松井からサヨナラHRを放って優勝M4としたことも思い出深い。
それでもライオンズは翌日からイーグルスに連敗。2位ホークスも1敗してくれたため、優勝M3となったものの、23日にホークスが勝ってライオンズが敗れるとマジックが消える状況だった。
ライオンズは2点を先行し、その後もチャンスを作るものの追加点が奪えない。先発の本田圭佑が頑張っていたものの、7回に2ランを浴びて追い付かれ、ビジター席には重苦しい雰囲気が漂う。
この日敗れると残り2試合を必ず勝たなければいけない上に、対戦するマリーンズもイーグルスもCSが懸かっており、話が更にややこしくなる。
加えて何人もの主力選手が移籍していったイーグルスに優勝を阻まれるのは本当に悔しい。

8回もブセニッツの前にあっさり2死を献上するが、そこから3者連続四球で満塁のチャンス。代走で出場していた水口大地に代わって登場したのがメヒアだった。
打ってくれ、ここで打たなきゃ優勝が遠退く。
ビジター席がそんな雰囲気でいっぱい。ファンは気持ちを全てメヒアの応援歌へとぶつけていた。
その想いはメヒアにも届いていた。
振り抜いた打球は高々と上がり左中間へポトリ。
ランナーが全員返ってきて試合の行方は決した。
その時のスタンドの様子と言ったらもう。誰彼なく手を叩き合い、抱き合い、力の限りフラッグを振った。
ライオンズファンは皆思っただろう「救世主はここにいた」と。
試合後のメヒアのコメントも最高だった。「チームを救うために地球の反対側から違う国に飛んできている。チームを助けることができて嬉しい」



成績だけで評価したら3年15億円の大型契約にメヒアが応えられたとは言えないだろう。
19年オフに契約が切れた後、今季まで契約したのも正解だったのかは分からない。
もっと安くて若い外国人選手を連れてくる選択肢もあった。
それでもライオンズとファンを愛してくれたメヒアがいてれくれて嬉しかった。
優勝に繋がる一打を打ってくれたとか、たくさんの選手が移籍していった中でチームへの愛着を口にしてくれるたとか、ファンが色んな感情を抱いてしまうイーグルスに強いとか、一休のCMが見たいとか理由はたくさんある。

一方でメヒアが家族をどれほど家族を愛しているかも分かっていた。
遠征帰りにアロンソくんをあやしているところも見たことがある。
それだけに今回の決断は仕方ないという気持ちしかない。

それでも「相思相愛」だったメヒアとまたどこかで会いたい。
あなたが愛してくれたライオンズのことはしっかり応援しておくから、あなたもまた会える日までどうか元気で。

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