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【未完】くだるふたり

長い下り坂をFと歩いた。Fは学生時代からの友人で、何度か寝たこともある。最近は寝ない。私には恋人がいる。Fには寝るだけの友人がいる。また寝ることもあるかもしれないが、わからない。寝るか寝ないかはあまり重要ではない。かと言って他に重要なこともない。
坂の途中の自販機で、Fはいちばん甘そうなジュースを買った。果汁は入っていない。ふた口ほど飲んで「あげる」と缶を差し出される。「嫌だよ」と言う。Fはしぶしぶ飲み続ける。
「だんだん好きになってきた」
これは私の憶測であり偏見だが、Fはこうして試して、嫌いだとしても関係なく続けてみて好きになっていくようなことが多い。絵も続けているようだ。上手くなっているのかは知らないが。私のこともそうで、最初はあんまり好きではなかったのだと思う。読んでいる本や観る映画もまったく違っていたし。でも私はそこそこ惹かれていたから一緒にいて、そうしたらFも私のことを「まあまあ好き」くらいになった。そして寝た。寝たらわりと相性がよかった。寝た後に行った中華屋で、食の好みが似ていることを知った。雑な回鍋肉や青椒肉絲を食べた。大学近くのボロい中華屋は、私たちが卒業した直後に潰れた。
坂はまだ続いている。
「ここなにく」
「え?」
「ここって、なに区?」
「ああ、区ね、知らない。まだN区なのかな」
「区ってよくわかんないよな」
どうでもいい話しかしない。坂はダラダラと続く。周りには几帳面に庭木の手入れされた大きな家、大小の自転車が並べられた同じ形の三軒の家、カバーの剥がれたソファが放置されている古びたアパートなどがあった。
やがて巨大な岩が出現する。迂回して通れないようなので、しかたなく私とFは岩を登る。慣れたスニーカーで来てよかったと思う。岩の表面は午後の日差しによって、柔らかく温められていた。硬い岩肌を触り、踏む。自然のものに接触するのはいつぶりだろう。なんだか心が昂った。Fは私の少し後ろで岩に張り付いている。
「大丈夫?」
「だいじょばないー」
Fの腕を掴んで、自分の脇まで引き上げてやる。細く長い肢体が軸を探しながら私に近づく。Fの体温の低さと自分の肉体の熱さが、同時に手のひらに伝わってくる。
「あ」
私の腕を掴んだFが、遥か遠くの頂上を見つめ目を見開いている。見上げると白い見たこともない獣がいた。鹿のような、狼のような、艶やかな毛並みの獣。静かな叡智が息づく緑黄の瞳。古木の枝のような二本の角。獣は私たちをじっと見つめ、朗々と言葉を発する。
「向こうに行くのか」
ぞっと首筋の汗が冷えるのを感じた。「向こう」。私たちは、私とFは、どこに向かっているのか。



小説を書き上げる脳の隙間がな〜〜〜〜〜〜い!!!!
断捨離成功したらまた書きます。

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