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明けの愚者

水のない花瓶に
きみを生ける
大振りな滅紫の薔薇に挟まれて
きみは俯いてみせる

愛してるというより
好きだった
たぶん恋だった

きみの少年時代から抽出した
苦い琥珀糖を
齧りつづけて口は汚れた

早く朽ちてくれと
祈りながら冷たい水をそそぐ
きみは溺れ
最期をぼくにくれる
水が溢れ出し
夜を編み込んだ敷布は濡れる

ねえ
きみはぼくのことどう思っていた?
ちゃんと恨んでくれていた?

最初にプレゼントした海松茶のマニキュアを
思い出しながら
ぼくは眠るために
錠剤を数える
意識はゆるやかに浮上し
きみの幻影を紺碧のカーテンに浮かべる

死はいつだってぼくらの後ろにべったりと
張り付いていて
いつでもいける準備をしていた
きみのいない花瓶を
なにで満たそうかなんて
何処までも利己的なんだ
傲慢で身勝手で
だから薄氷のような恋にしかならなかった
あの人のように
大きな重みのある愛を渡せなかった
怖かったからかな

今日もまた自殺には失敗し
眠って起きる
きみはいない
どこにも

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