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作家の頭の中をのぞいてみよう(5):冬村蜜柑先生

こんにちは、梧桐はクマに食べられましたので、代わりにアライグマのラスカルがお送りいたします。

このマガジンでは作家の皆さんにお話しを伺い、これから作家デビューを目指す方の参考になるような記事を提供したいと考えております。どうぞよろしくお願いします。

第5回:『彼女が魔女に着替える時』作者、冬村蜜柑先生


冬村蜜柑:着席!

――早い(笑)

冬村蜜柑:5分前行動なのです!

■多くの趣味から小説に至るまで

――よろしくおねがいします。それではまず、執筆の経歴から教えてもらえますか?

冬村蜜柑:最初がいつ頃かは正確には思い出せないのですが、小学校中学年頃にはノートに世界設定書いてみたりオリジナルキャラをお絵かきをしてました。クラスのお友達が描いたノートは見せてもらうのが好きでしたが、自分の書いたものは見せてなかった記憶があります。

中高生になって自分のパソコンを持つと、タイピングの練習がてらテキストファイルにキャラ設定とか技名とかアイテム設定をぽちぽちと……ただ、学生時代は小説を書いたことはなくて……設定を書いて満足しちゃってたのと、小説書くなんて自分には無理、となってたんです。

学生時代にザ・スニーカーという雑誌を購読してまして、新ロードス島戦記目当てで購入してたんですが、掲載作品や投稿作品を読んで子供心に「こういうのがかけないといけないのか……」って圧倒されてしまって。自分には無理かな、と。

そこからカクヨムに登録するまで、きちんと小説を書いたことはなかったです。その間は創作というよりは、ハンドメイドを趣味で少々。ドールのお洋服を作ったりポプリを作ってみたりですね。

――中高生からカクヨム時代までやってたTRPGのことなんかも教えてもらえますか。マスターやってたのかとかも含めて。

冬村蜜柑:実際に遊んだことがあるのはソード・ワールド2.0だけです。1.0時代はまだオンラインセッション文化をしらなくて。

ルールブックを所持していたり、一人でキャラメイクをして遊んだことがあるタイトルなら……女神転生、ガープス・ルナル、ガープス妖魔夜行……あたりですね。学生時代とかはあまり潤沢にルールブックが買えなくて。リプレイとかも起こしてないですね。

シナリオは作ったりしていたけど、そんなにどっぷりではないです。GMもしてましたけど、プレイヤーの方が多かったですねー。

――はなみやとかカノ魔女とかは、その時期のシナリオとかと共通する部分とかありました?

冬村蜜柑:最初はなんていうか、どシリアスというか……国家による陰謀もので自キャラの身内が死んだりしてましたね。どうにかして卓の中のプレイヤーキャラたちの努力で回避できなかったのかと、今でも卓の仲間に言われます(笑)。

とはいえ、はなみややカノ魔女に通じるところはありましたね。香水の材料集めするシナリオとかブランドのお洋服を買い漁ってもらってバーゲン会場で精神戦するとか。設定したオリジナル国家が、香料産出国だったりもしましたね。

■小説書き、そして作家への道

――カクヨムに登録したきっかけと、そのころ書いてたものについて教えてもらえますか?

冬村蜜柑:仲良しのオンラインTRPG仲間に教えてもらって、カクヨムに事前登録したんです。
「KADOKAWAさんがオンライン小説投稿サイトを新しく作るんだよ。コンテストの大賞は賞金100万円だよ」って誘惑されて(笑)。

じゃあ一緒にやってみようかということで、登録してまず第一回カクヨムコンのための作品を書こう、と。そこでちゃんと小説を書きました。それが喫茶「のばら」なんですが、初めてでよく10万文字も書いたな、と思いました。ファンタジー世界のほのぼの喫茶店のお話……なんですが、店主とおかみさんは暗い過去を持っているという。

――冬村さんの長編でこれだけ未読なんですよね。力を入れた部分と、反省点とかを教えてもらえますか?

冬村蜜柑:力を入れた部分は、とにかく「幸せ感」を出すことでした。あったかい紅茶と美味しいお菓子ー! って。反省点は……これはもうひとつですね、超長編……30万文字ぐらいの感覚で書き始めてしまったことです。今では無理に10万文字で完結させてますが。もうこのときは書ききるのに必死でした。

で、その約一年後に「花咲く都のドールブティック(以下、はなみや)」を書き始めました。これは今でも大好きな作品です! 自分の好きなドールと、お洋服の要素を詰め込んだ作品で、「のばら」よりもさらにニッチというか、需要は無視してもう自分の為だけに書きました。

――私はこの作品で冬村さんを知って、一気にひきこまれたんですよね。とにかく華やかさと動きがあって、主人公も魅力的で。参考にした作品や資料があると思うんですが、どんなのでしょう?

冬村蜜柑:参考にした作品は、やはり 青木祐子先生の『ヴィクトリアン・ローズ・テーラー』シリーズです。

 こちらは人間の女性もののドレスのお店の店主でありお針子の女の子がヒロインの作品ですね。あちこち描写や言い回しが大好きで。日本でいう1階のことを零階と表現していて、あぁ、イギリスではそういうんだ! ってカルチャーショック受けたりしました。来店したお客様にお菓子や紅茶が振る舞われたりしていたり、なんといっても身分違いの恋が。店の表の華やかさとか、店の裏の感じとかそういうところも影響受けてますし。
それとこの話、ラノベにしては結構街の描写が多かったんで、そこらへんは結構印象に残ってます(笑)。

――私も青木祐子さんは「これは経費で落ちません!」とか読んでましたけど、ヴィクトリアンローズテーラーも評価高いですね。かなり巻数出てるし。それ以外の参考資料としては?

冬村蜜柑:やはりドール雑誌ですね。DollyBird やDolly*Dolly です。あとはロリータ系の雑誌もちょこちょこ所持してたので、参考にしてましたねー。

――知らないからググってみたけど、ブラウザがめちゃめちゃフェミニンになるなこれ(笑)。あとなんか海外のデザインっぽく見えてしまった。

冬村蜜柑:あぁ、表紙にいるのがブライスとかもともとアメリカのドールだったりするので、間違いじゃないかもです。結構高くて、季刊だったり不定期だったりします。ただ雑誌はあくまでいろんなドールやクラフトにつながる沼の入り口感ありますね。

お店の参考にしたのは、若い頃働いたことのあるとあるブランドショップです。あと参考にしたお品は……これ言っていいんでしょうかね……ボークスさんのスーパードルフィーが好きなので、そちらのイメージです。

――はなみやから次回の「和桜国のレディ(以下、和桜国)」に移るにあたって意識したこととかあります? ここで初受賞ですが。

冬村蜜柑:意識したことは……そうですね、第3回カクヨムコン用に、と思ったので……「10万文字ジャストぐらいで書ききる」でした。

たしか、このぐらいの頃に大正時代や昭和初期の資料や本を読んでいたので、そういう影響からかと。もともとドール趣味の影響から、ドールの和服を作りたいと思っていて、そこからアンティーク着物を知って、大正時代に興味を……という流れですねー。

影響を受けてるのは「はいからさんが通る」です。あとは同じ作者さんの作品で、明治初期の横浜を中心にした「ヨコハマ物語」も! こちらにも袴の女の子が出てくるんですよね。あとは主人公の片方が女袴を発明して売り出すエピソードがあったり。袴にブーツとか、袴にパンプスとか、そういう和洋折衷があった時代に惹かれたところはあります。

――そこらへんのつながりがあったから袴なんですね。和桜国、内容のほうですが、当時流行ってたものに合わせていこうとか、そういうのはありました?

冬村蜜柑:当時のライトノベルの流行とかそういうのはあまり気にせず書くようにしてましたね。男性主人公視点で書いたりしてましたし。

――ノベルって基本的に気持ちの変化がかかれることが多くて、ビジュアル的なアプローチってあまり強くしないと思うんですよ。でも冬村さんの作品って「もっとカラーを!」「もっと華やかさを!」って感じるんですよね。コミック的なものを読む層に寄せていたか、もしくは自然とそっちがわになっていったのでは? という推測があるんですが、どうでしょうか?

冬村蜜柑:深い推理をなさってる(笑)。実際はどうなんでしょうね……自分の好きなものや分野を作品に盛り込んで「誰かに刺され!」って槍をぶん投げてる感じで創作してるだけなんですが。

でもそうしたことはいつも思ってます。もっと華やかに、もっと綺麗に鮮明に、解像度を上げて、この作品の世界が読んでいる方に見えるようにって。ノベルはコミックにビジュアルで負けている、とは思ってないですね! 文字だからこそ伝えられる美しさもあるはずなので。

――冬村さんの書くようなスタイルがもっとメジャーになっていったら、やっぱりうれしいですかね?

冬村蜜柑:みんな好きなものを好きなように表現してくれればいいと思うので、どっちでもいいかなと思いますねー。でもそういうのがあったら読みたくは思います。なんせ「こういうのが読みたい」で書いてますからね、私(笑)。

■カノ魔女の完成まで

――続く「彼女が魔女に着替える時(以下、カノ魔女)」もやっぱりカラーははっきり出てますよね。話を思いついたきっかけはどんな感じでしょうか。

冬村蜜柑:カノ魔女はもう盛り込みましたね。和桜国で着物は書いたので次はドレスが書きたいってなったのが最初でしたねぇ。まずあの世界設定ありきで、中心となるキャラや物語が徐々にできていきました。

この世界で人間を人間たらしめる要素は何だ、それは衣服だ! じゃあその衣服次第では人間はもっといろんなことができる、魔法がつかえるぞ! って。で、いろんなドレスを出したいと、舞台や時代設定が決まっていって。

恋愛ものにするなら男女両方の視点が欲しい、って主人公が2人になっていって、ドレスの話だから基本は洋だけど、和要素もほしいと主人公の片方を日本(ぽい国)の出身にしてーって。

学園生活一年目ラストにおけるバトル部分をああいう話にしようというところが、キャラより何より早く決まりましたね。

――資料はどんな感じでしたか?

冬村蜜柑:資料本のほうは、もう新品で売っていないのも多いのですが、カノ魔女のときに見ていたものとしてはこのあたりです。

――いやー、さすがですね。本棚見せてもらってもいいです?

冬村蜜柑:どうぞー。服飾関係はこんな感じですね。

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衣服以外だとこのあたり。

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――まさしく資料に裏打ちされた作品ですね。

冬村蜜柑:だったらうれしいですけど。『カノ魔女』は世界があって、彼らがちょこっとその隅っこに住んでいる、それを私がちまちま観測して皆様にお届けしてる……みたいなイメージです。

――しっかりした軸があると厚みがでますよね。書こうと思えば長く続けられますし。

冬村蜜柑:はい、実際、長編は意識してますね。彼らの何代か後の人々のことも書けますし、過去のことも書けますし、この世界の神代の頃とかも書けそうだとは思ってます。あとは魔法が忘れられた宇宙時代とか。

――国々の文化とか神話とかは意識していた?

冬村蜜柑:そのへんはあまり意識せずにすむようにということで、話の舞台自体は現実の地球上には存在しない「アトランティス諸島」を設定しましたねー。神話もいろいろ盛り込みたい気持ちはありましたが、蒼司郎やクロエの話には直接関係しないので描いてないです。重点を置いたのはそれぞれのキャラクターって感じで、いろいろ縦にも横にも広げられるんですが、今回は彼らの話ってことですね。

――蒼司郎とクロエにはモデル的な存在はあるんですか?

冬村蜜柑:クロエには明確なモデルはないです。蒼司郎には実はあるけどナイショです(笑)。

――じゃあキャラクターの関係性のほうで聞きますけど、本編では彼らって結構素直に自分の立場を受け入れて、自然に近づいていくじゃないですか。そのあたり、こだわりや意図はあるんでしょうか。

冬村蜜柑:お互いに対等なバディになるところからだったので、結構ゆっくりな展開で行きましたね。中性的な男子と、やんちゃな女の子で、最初はお互いにちゃんとコミュできるのかっていう懸念からスタートして。

ドレス作りの話である以上、女の子側の採寸とかするじゃないですか、そういうときにむやみにどきどきさせたくなかったんですよね。お互いに。
それがお話終盤ではある程度意識するようにはなりましたが。

――終盤は当然そうなるだろうなと思ってましたけど、序盤から恋愛だと違うテーマになっちゃいますもんね。

冬村蜜柑:女性向け恋愛小説ということもあってそういうところはあっさりさせたくはありましたからね。

あれですよね、男性が女性に服を贈るのはそれを脱がせたいから、みたいな俗な名言がでてきちゃう(笑)。

――それだと、見せたい部分に行かなくなっちゃいますよね。

冬村蜜柑:そう言う意味では、女の子が仕立てをするのもやはり捨てがたかったので、女子女子ペアもありでした。今回はいわゆる「脇カプ」的な存在ですが、彼女たちを書くのも楽しかったですね。

――各ペアごとにそれぞれ個性があるじゃないですか。それぞれ、考えるときに苦労した部分とかはありますか?

冬村蜜柑:蒼司郎たちよりも成績が上の同級生ペアを友人として出したのですが、彼らの学力や実力をどう表現するかが大変でしたね。数字やなんかで出せるものじゃないので……あと、席次一位のペアの「凄み」を出すのが大変でしたね。

――どうやって解決しました?

冬村蜜柑:どっちかというとキャラクターの人間性の描写がたよりでしたね。できるやつだからこそ、人ができなくても馬鹿にしたりしない、尊重する。席次一位ペアはどっちも努力をする天才なんです。

――嫌味のないタイプですよね。上にいる人にはそういう風格があってほしい。

冬村蜜柑:実は嫌味なやつも、成績上位者に入れようかと思ってはいたんですが……『できるやつほど人間性もできる』ということで、この学園に基本的に嫌なやつはいないことになりました(笑)。

レベッカが『イギリス嫌い』でパートナーのリオルドにぶつかるとかはありますけど、なんだかんだ言って仲よしですからねあのペアも。

――主役二人は期待通りだんだん近づいてはいるわけですが、カノ魔女は完結させる予定とかはどうでしょうか?

冬村蜜柑:とりあえずは、Web版で彼ら二人の物語は完結です。カノ魔女の世界自体はいろいろまだ書きたいこともありますが、どこから手を付けるか決めきれてないですね―

■今後のこと

――追いかけている目標とか、周囲の人の影響とかを教えてもらえますか?

冬村蜜柑:外国の作家さんなら『赤毛のアン』シリーズのモンゴメリや『小公女』のバーネットが憧れです。とりあえず楽しく自分の好きなものを執筆していたいですね。自分の『好き』を表現できていたらな、と。

今はのんびりぽちぽち文字で創作をしていますが、他にもやりたいことがあるのでいろいろ勉強していきたいです。いつかは、ちゃんと洋裁・和裁や、ファッションのことを学んで本格的なドール服作りと販売もしてみたいですね。

――ジャンルとかで、新たに目指してみたいものとかは?

冬村蜜柑:MMOモノとか書いてみたいと思っています。ゲームの世界で群像劇みたいなの書いてみたいですね。

――カノ魔女も雰囲気的にそういうところはありましたしね。では最後にメッセージというか、読者やデビューを目指している方に向けてなにか一言。

冬村蜜柑:とにかく書いて。書いてみて。書けばデビューできることはあるけど、書かないと出来ない。

月並みですが、まずは書きはじめること、書き終わることが大事だと思います。あとは、難しいこと考えずに自分の好きなことを圧縮して研ぎ澄ましてどこかの誰かのハートに突き刺す! って気持ちで執筆を続ければ、いつか誰かに届くはずです。多分ね。

――ありがとうございました!

冬村蜜柑:ありがとうございましたー!

【梧桐のあとがき】
文中にもありますが、冬村さんを知ったのははなみやを連載していたのころでした。鮮やかな世界が魅力的に感じて追っかけはじめ、出てくるもの出てくるものがどれも面白くてあっというまにファンになり、その後はお互いに下読みをしていた作品がどちらも書籍化するなどもあったり。
作風の共通点は少ないですが、創作へのスタンスが似ていると私が勝手に思っている方でもあります(笑)。今後も多方面への活動を予定していると聞いており、今から楽しみです。引き続き応援しています。

それではまた。梧桐でした。




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