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癌腫(がんしゅ)とは

病理医は毎日標本をみる。

病理医が生涯で最も多くみる臓器は何か?
それは、「リンパ節」である。

何故か?

それは、
癌の手術ではリンパ節が系統的に切除されるのが一般的だからである。

がん?ガン?癌?

現代の日本人は大雑把に言って、
2人に1人が「がん」になり、
3人に1人が「がん」で亡くなる

「がん cancer」とは「悪性腫瘍=悪性新生物」全般のことであるが、
その中の多くを
「癌腫(がんしゅ)= 癌(がん) carcinoma」が占めている。

「癌腫 = 癌 carcinoma」とは、
ヒトの表面を外界と隔てる上皮(じょうひ)が悪性化したものである。

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日本人の死因(平成23年)

上皮(じょうひ)とは

上皮とは、ヒトの”本当の体の中”と外界と隔てるものであり、
一番わかりやすいのは皮膚である。
そして、
口から食道、胃、小腸、大腸、肛門まで一続きの管(くだ)になっており、
実はこの管、つまり消化管の中の中空部分も外界なのである。

内胚葉と外胚葉

そして、消化管から分かれた気管や肺肝臓や膵臓
その他に外界と連続する
尿路系(腎臓・尿管・膀胱・尿道)
生殖器系(子宮・卵管・卵巣や前立腺など)
それから、乳腺
”本当の体の中”からすると、外界なのである。

もう少しかみくだくと、
「血が出る」のは「血管」があるからで、
血管があるのが”本当の体の中”であり、
上皮には血管はないのである。

垢が出たり、軽く擦りむいたくらいでは血は出ない。
上皮を突き破って、”本当の体の中”まで傷が及ぶと血が出るのである。

耳掃除をして血が出たときは、皮膚という上皮を破って、
”体の中”まで入り込んでしまったからで、
純粋な耳垢には血は混ざっていない

癌腫(がんしゅ)とは

上皮性悪性腫瘍のことである。
つまり、
”本当の体の中”と外界を隔てている上皮の細胞が腫瘍化し、
周りの組織を壊して増大する「悪性」の性質を持ったものである。

「白血病は血液のがん」という表現がある。
血液は”本当の体の中”のものなので、
「がん」であるが、
「癌腫」ではない。

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これは「がん」の統計であるが、
見て分かる通り、
「がん」の上位は「癌腫」が占めている

大腸がん、胃がん、肺がん、肝臓がん、前立腺がん、乳がん、
これらは全部、主に「上皮」から構成される組織であり、
その臓器の「がん」ということは、
大部分は「上皮性悪性腫瘍」つまり「癌腫」なのである。

「癌腫(がんしゅ)」の性質

がん全般に、体を蝕み、最終的にヒトを死に至らしめる力がある。
その力は、がんの種類のよって大きく異なり、
その種類を診断、確定するのが病理医の仕事である。

そして、
「がん」の中でも、「癌腫」の診断が最も頻度が高い

「がん」には大雑把に3つの能力があり、
その能力によって、
体中に広がり、栄養を吸い尽くし、命を奪う。
その能力とは、

(1)局所浸潤:直接周囲の組織を破壊して広がる
(2)リンパ行性転移:リンパの流れに乗って広がっていく
(3)血行性転移:血液の流れに乗って広がっていく

「がん」の中でも、「癌腫」は全般に、
リンパ節に転移をしやすいという性質を持っている。

だから、
癌腫の手術では、その臓器のリンパの流れに沿って、
近くのリンパ節をごっそり摘出
するのである。

病理医が常駐しているような病院では、
毎日のように「癌腫」の手術が行われている

だから、
病理医は毎日、
ごっそり摘出されたリンパ節を山のようにみるのである

おわりに

今回は比較的一般向けの内容となってしまったが、
次回は毎日山のようにみる「リンパ節の見方」について、
個人的に考えるコツを書こうと思う。

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