Cadre小噺:生命を削る銃撃
主観:リア
ハーネス君が半シャドウになったわけだが、
観察してみると攻防能力が強化され、中でも射撃能力が著しく高い。
だが代わりに敏捷性が大きく低下している。
まあ如何なる弾道も操る力を持つからな、バランス調整か。
なら射撃能力をさらに極めればいい。
今回主に研究するのは『苦悶能力』の性能だ。
「血に飢えた魔弾」と名付けたこの能力。
体力を犠牲に弾を強化、弾数無限にすると分析したが、どこまで強化できるかが気になる。
加減が分かれば後に役立つだろうからな。
ハーネス君が武器の手入れをしている時に
「君の苦悶能力を研究してみたいが、宜しいかね?」と尋ねると、
「ああ…良いよ。この腕での手加減の仕方で困ってたから。」とあっさり答えが返ってきた。
そうかそうか、なら無茶をしてもらうからな。
腕の構造
まず腕の構造から考えてみた。
構造を知れば効率化もしやすい。
一部を切断して調べてみようとしたのだが、
装甲が想像以上に硬くて傷つけられない。
仕方ないので私の槍でスパッと切った。
ハーネス君は「うぐ…」と我慢しているが…痛がり方の反応が鈍い。
そして、綺麗に切った断面は人間のそれではなかった。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/63157508/picture_pc_e084856f675080d6906401c389b88ab4.png?width=800)
即席で描いたが、彼の腕はこのように筋肉や骨諸々が変形している。
骨は厚さ5mmの甲羅になり、腕骨になる部位は銃身。
筋肉もシャドウ特有の不定形の物質が混じっている。
なぜ力加減が難しいのか、よーく分かった。
分かったので直ぐに戻した。つけ直せば戻る。
試射
ハーネス君を連れて訓練場に行った。
訓練場ならばどれだけ暴れても問題ない。
街中を想定した作りにしてから適当にB級シャドウを設置。
「まずは試しに通常弾。」と片腕をバズーカ砲型に変形させ、
重々しい銃声とともに掌から放たれた弾は、あっという間に的を粉々にしてしまった。
威力は…対戦車ライフル並か。
能力を使用するとチャージ弾になり、体力を使うほど威力も上がるようだ。
威力をあげるには、拳に力を込めるように腕に力を集中させることだ。
で、まずは普段使う力で試してもらった。
変形した腕に浮き出るラインが少し禍々しく光り、
通常の3割増大きく、強い弾が発射された。
的は粉々どころじゃない、消失したし、
その向こうの建造物の壁も貫通した。
もうこの時点で顔が少し苦痛そうだが、余裕そうに「ま、まだ軽い…」と言ってきた。
で、よく観察して効率良く撃つ方法を考えた。
先程の構造からして、掌ではなく前腕に力を集中させた方がより安定するはずだ。
一旦変形を解除させ、前腕に重い副木でもつけて動かしてもらう。
固定させた上で重りをつけると、腕全体に力を入れざるを得ないからだ。
何回か体操してもらってから再び腕を変形させて試射すると、
より姿勢が安定し、かなり余裕そうに3割増の弾を発射した。
連射速度も上がっている。
最高出力
さて、ウォーミングアップも済ませたのでいきなり限界まで引き上げてみる。
「少し休んでから瀕死レベルまで集中させてみたまえ。」と言うと、
ハーネス君はみるみるうちに顔が青ざめていった。
何も喋らずとも分かる。これは危険だからだ。
しかし、それでもやると言うので少し休んでから試してもらった。
徐々に腕に罅が入って隙間から水色の光が漏れだし、
発射する際に黒い波動を発してから、水色の極太の拡散レーザーが放たれた。
その範囲というと…推定160°か。
本人も反動でジリジリと後退していく。
私が抑えつけなかったら見失うだろう。
レーザーが止まると、一瞬で地面が抉られて1面が焼け野原になったのを確認した。
これは…大災害レベルの切り札にするべきか。
破壊系の名に恥じぬ凶悪な性能だな。
で、本人はぐったりして「あ、あが…」と掠れ声をあげ、
そっと手を離すと倒れてしまった。
肩で息をしていて体の前面が大火傷、発射した方の腕の大半が焼失していた。
威力と通常時のリスクがどれ程かは理解した。
せっかくのハンサム顔が火傷のせいで台無しだ。軽く化けの皮が剥がれている。
「あ、ああ、熱い、痛い…」と喘ぐので多少は手当しておいた。
ハーネス君は完全に消滅しない限り、数日経てば綺麗さっぱりに治る。
にしてもこの負傷ですら「痛い」と言える程度とは…。
その数日後。
ハーネス君は何も無かったかのように完治した。
実に便利な体だな。
星恵能力の影響下
こう書いてはいるが、私は彼を兵器扱いしたくはない。
極力、人間として扱いたい。
研究を続けるかどうかを聞くと、
「負担を減らせるなら腕を何本も焼き切ってでも続けて欲しい」
とのことなので続行した。
で、次にルーベン君がいる場合だとどうなるか確かめてみる。
彼、こういう兵器類の試射とかが好きだから。
目をキラキラさせて快く承諾してくれた。
なぜ彼を呼んだかと言うと、ルーベン君の星恵能力は、周囲の者が持つ能力の負担を大きく軽減させるからだ。
苦悶能力、シャドウ因子の作用もその対象に含まれ、そのおかげでハーネス君の発作も最小限に留めてくれる。
で、能力の影響下でハーネス君に先日の最大出力を試してもらった。
流石にルーベン君へのとばっちりが怖いので、今回も体を羽交い締めで抑えておく。
威力を維持して体の負傷、体力の消耗が推定5割軽減されているのを確認した。
両腕を使っての発射となると、大体4回までは連射が可能か。
まあ5回以上もいけるだろうが、腕どころか体が焼死しかけるだろう。
そもそもあの威力で連射したら、焼け野原どころか世界1つを壊しかねないから制限しておく。
この有様を見たルーベン君はしばらく唖然としていたが、我に返ると目をキラキラさせ、
ボロボロになった腕を手当しつつ観察し始めた。
やはりこういうのが好きなのだろう。分からなくもない。
「すげぇ!拡散レーザー砲とか最強じゃん!」
ハーネス君は少し冷や汗を垂らし、苦笑う。
「は、はは…一瞬で、一瞬で全てを消し去るもんな…。」
今回は使わなかったが、変身すればその負担も更に軽減されるだろう。
敵側になれば被害規模からみて間違いなくS級に値する。
その時は何とかして私の手で制御する手段を考えねば。
ところで、ルーベン君はレーザーのデータ化を思いついたのかメモに構造や原理を色々書き込んでいた。
データ化できたらエルバート君に使わせる気か?
腕が吹っ飛ぶだろうが。やめろ。