Cadre小噺:生命を削る銃撃

主観:リア

ハーネス君が半シャドウになったわけだが、
観察してみると攻防能力が強化され、中でも射撃能力が著しく高い。
だが代わりに敏捷性が大きく低下している。
まあ如何なる弾道も操る力を持つからな、バランス調整か。
なら射撃能力をさらに極めればいい。

今回主に研究するのは『苦悶能力』の性能だ。
「血に飢えた魔弾」と名付けたこの能力。
体力を犠牲に弾を強化、弾数無限にすると分析したが、どこまで強化できるかが気になる。
加減が分かれば後に役立つだろうからな。

ハーネス君が武器の手入れをしている時に
「君の苦悶能力を研究してみたいが、宜しいかね?」と尋ねると、
「ああ…良いよ。この腕での手加減の仕方で困ってたから。」とあっさり答えが返ってきた。
そうかそうか、なら無茶をしてもらうからな。

腕の構造

まず腕の構造から考えてみた。
構造を知れば効率化もしやすい。

一部を切断して調べてみようとしたのだが、
装甲が想像以上に硬くて傷つけられない。
仕方ないので私の槍でスパッと切った。
ハーネス君は「うぐ…」と我慢しているが…痛がり方の反応が鈍い。

そして、綺麗に切った断面は人間のそれではなかった。

※変形した腕のスケッチ

即席で描いたが、彼の腕はこのように筋肉や骨諸々が変形している。
骨は厚さ5mmの甲羅になり、腕骨になる部位は銃身。
筋肉もシャドウ特有の不定形の物質が混じっている。
なぜ力加減が難しいのか、よーく分かった。
分かったので直ぐに戻した。つけ直せば戻る。

試射

ハーネス君を連れて訓練場に行った。
訓練場ならばどれだけ暴れても問題ない。
街中を想定した作りにしてから適当にB級シャドウを設置。

「まずは試しに通常弾。」と片腕をバズーカ砲型に変形させ、
重々しい銃声とともに掌から放たれた弾は、あっという間に的を粉々にしてしまった。
威力は…対戦車ライフル並か。

能力を使用するとチャージ弾になり、体力を使うほど威力も上がるようだ。
威力をあげるには、拳に力を込めるように腕に力を集中させることだ。

で、まずは普段使う力で試してもらった。
変形した腕に浮き出るラインが少し禍々しく光り、
通常の3割増大きく、強い弾が発射された。
的は粉々どころじゃない、消失したし、
その向こうの建造物の壁も貫通した。

もうこの時点で顔が少し苦痛そうだが、余裕そうに「ま、まだ軽い…」と言ってきた。

で、よく観察して効率良く撃つ方法を考えた。
先程の構造からして、掌ではなく前腕に力を集中させた方がより安定するはずだ。

一旦変形を解除させ、前腕に重い副木でもつけて動かしてもらう。
固定させた上で重りをつけると、腕全体に力を入れざるを得ないからだ。

何回か体操してもらってから再び腕を変形させて試射すると、
より姿勢が安定し、かなり余裕そうに3割増の弾を発射した。
連射速度も上がっている。

最高出力

さて、ウォーミングアップも済ませたのでいきなり限界まで引き上げてみる。
「少し休んでから瀕死レベルまで集中させてみたまえ。」と言うと、
ハーネス君はみるみるうちに顔が青ざめていった。
何も喋らずとも分かる。これは危険だからだ。

しかし、それでもやると言うので少し休んでから試してもらった。
徐々に腕に罅が入って隙間から水色の光が漏れだし、
発射する際に黒い波動を発してから、水色の極太の拡散レーザーが放たれた。
その範囲というと…推定160°か。
本人も反動でジリジリと後退していく。
私が抑えつけなかったら見失うだろう。

レーザーが止まると、一瞬で地面が抉られて1面が焼け野原になったのを確認した。
これは…大災害レベルの切り札にするべきか。
破壊系の名に恥じぬ凶悪な性能だな。

で、本人はぐったりして「あ、あが…」と掠れ声をあげ、
そっと手を離すと倒れてしまった。
肩で息をしていて体の前面が大火傷、発射した方の腕の大半が焼失していた。
威力と通常時のリスクがどれ程かは理解した。

せっかくのハンサム顔が火傷のせいで台無しだ。軽く化けの皮が剥がれている。
「あ、ああ、熱い、痛い…」と喘ぐので多少は手当しておいた。
ハーネス君は完全に消滅しない限り、数日経てば綺麗さっぱりに治る。
にしてもこの負傷ですら「痛い」と言える程度とは…。

その数日後。
ハーネス君は何も無かったかのように完治した。
実に便利な体だな。

星恵能力の影響下

こう書いてはいるが、私は彼を兵器扱いしたくはない。
極力、人間として扱いたい。
研究を続けるかどうかを聞くと、
「負担を減らせるなら腕を何本も焼き切ってでも続けて欲しい」
とのことなので続行した。

で、次にルーベン君がいる場合だとどうなるか確かめてみる。
彼、こういう兵器類の試射とかが好きだから。
目をキラキラさせて快く承諾してくれた。

なぜ彼を呼んだかと言うと、ルーベン君の星恵能力は、周囲の者が持つ能力の負担を大きく軽減させるからだ。

苦悶能力、シャドウ因子の作用もその対象に含まれ、そのおかげでハーネス君の発作も最小限に留めてくれる。

で、能力の影響下でハーネス君に先日の最大出力を試してもらった。
流石にルーベン君へのとばっちりが怖いので、今回も体を羽交い締めで抑えておく。

威力を維持して体の負傷、体力の消耗が推定5割軽減されているのを確認した。
両腕を使っての発射となると、大体4回までは連射が可能か。
まあ5回以上もいけるだろうが、腕どころか体が焼死しかけるだろう。
そもそもあの威力で連射したら、焼け野原どころか世界1つを壊しかねないから制限しておく。

この有様を見たルーベン君はしばらく唖然としていたが、我に返ると目をキラキラさせ、
ボロボロになった腕を手当しつつ観察し始めた。
やはりこういうのが好きなのだろう。分からなくもない。
「すげぇ!拡散レーザー砲とか最強じゃん!」

ハーネス君は少し冷や汗を垂らし、苦笑う。
「は、はは…一瞬で、一瞬で全てを消し去るもんな…。」

今回は使わなかったが、変身すればその負担も更に軽減されるだろう。
敵側になれば被害規模からみて間違いなくS級に値する。
その時は何とかして私の手で制御する手段を考えねば。

ところで、ルーベン君はレーザーのデータ化を思いついたのかメモに構造や原理を色々書き込んでいた。
データ化できたらエルバート君に使わせる気か?
腕が吹っ飛ぶだろうが。やめろ。