cadre小噺:再生と延命
主観:リア
実験を始めるきっかけは
我が師匠であったテルマさんとスピサさんだった。
20年前にA級捕食系シャドウ「アピアン」と戦っていたが、その際、二人が奴に取り込まれた。
迅速に彼等を救出したかった。
しかし、その頃の私はまだ未熟だったので時間がかかってしまった。
やっとの思いで救出したが、数時間後に体が液状化して黒い液体になってしまった。
気持ち悪い光景だった。
多分ジェームズ君もこんな感じだったんだろう。
溶けた二人は各々アンプルに保管し、確実に復活させる方法を調べている内に、
何者かに盗まれて行方不明になった。
後にスピサさんの子孫達の中に宿って、
精神体として復活したらしい。
Case1:ラーヴァ・ウェスリー
師匠が行方不明になってから1年後。
大衆食堂で働いているジード君が弟のラーヴァ君を何とかしてほしいと遺体を持ち込まれた。
流石にこの時は私を何だと思ってるんだと…。
でも同時に再生研究に役立てるはずだと思った。
ラーヴァ君の遺体はシャドウに取り込まれてから爆散しただろうか、バラバラだった。
半シャドウ化したせいか黒い半ゲル化した内臓が飛び出してもいた。
私は全く嫌悪感がないが、普通の感性ならばトラウマになる。目を逸らして嘔吐するだろうね。
死体にしては熱はあったし、脈があるので調べたら生命反応があった。
バラバラ死体はよく見るが、その状態で生きているのは流石に少し引く…人のことは言えないけど。
蘇生させたいなら、生きたその姿で再生したいだろう。
少しふざけて「魂を取り出してゴーレムにでもするかい?」とジョーク交じりにいったよ。当然、怒られた。
まずはバラバラなのでパズルのように揃え、
綺麗に整える。遺体の修繕みたいにね。
半死体に普通の回復魔法を使うと、死んだ細胞が急激な再生で腐敗崩壊して、酷い時は本当に死ぬ可能性がある。
半シャドウならば穢れで癒えると考え、穢れを発する魔石「モリオン」を入れ、数時間くらい浸け置きした。
それで実際上手く治った。
しかし、半シャドウとしての能力かね…これは。
体温が超高温、腕が溶岩のように変異した。
更には溶岩のような不定形の腕を生やすようになった。
それでもジード君は喜んでいた。
化け物になるより生き返った事が一番なんだろうけど。
「いいのかい、それで」と突っ込んだよ。
今後も半シャドウの治療に生かせそうだ。
Case2:エルバート・ノワール
今から15年前くらいか、ティモリア関係の事件があってね。
人々を拉致しては改造して、破壊活動に利用していたんだ。
エルバート君とジェンナー君はその被害者だった。
被害者には洗脳しやすくするために、違法薬物である精神毒の一種と穢れのカクテルを点滴注射していたそうだ。
しかしエルバート君は洗脳が全く効かず、カクテルをより濃くして連日注射されていたらしい。
糸の切れた人形のようにぐったりとして廃人寸前だった。
更に調べると毒はウィルス化して脳に潜伏。完全な治療は不可能だった。
それで再生実験に使おうかなと思った。
でもレヴィアタンの眷属は特殊でね、生体生成では完全に再現できない。
それは彼の兄弟も同様だよ。彼の弟であるロジック君が蘇生できないのも、そういう理由からだ。
なので今回だけは路線を変えて魔導器の技術を使用した。
別の媒体を用いて魂を納める方法はメジャーだけど、魔導器の技術は百年前から封印されていたが…今はズィロープ君がその技術をノルウェアに広めた。
『私達』の技術者の中にこの技術を知る人が少ないし、
増してやこういった魂の器の設計図は殆どない。
試行錯誤の日々だった。
次いでに天然魔石や魔導合金等の素材のコストの高さもあって
完成まで3年かかってしまった。
ついでに日常生活用に人間に似た体も作ろうかと提案したが、彼はロボットの体である方がしっくりくると言いだした。
確かに、当たり前のように完璧に使いこなしている。
並行世界に関連する事なのだろうか…。
Case3:ティダル・カティス
エルバート君の件から5年後か。
フェアダンプでの現地調査をしている際に損傷が無い死体を密かに回収した。
その身なりからして凄腕の戦闘員だろうし。
うまく再生できれば、引き込める可能性はある。
しかし人を道具扱いするのは好ましくない…。
ペレー君の兄、リト君から教わった死霊術の応用で
蘇生させることには成功した。
だがフェアダンプは自然の循環が激しいことを見落とし、
時間をかけすぎて一部が腐敗して損壊した。
言っておくがそれでも体は生きている。
肉塊で構成したフレッシュゴーレムではない。
腐敗の進行を考慮して、氷の魔石「クリオライト」を埋め込んで体を冷凍。
腐敗を阻止して修繕した。
後で腐敗する体質を改善したが、彼の周囲2m以内の水魔法が氷属性になるという面白い現象が起きた。
なので敢えてそのままにしている。
彼の水魔法はやけに塩辛かったので、潮水の魔導士なのだろうか。
魂を繋げて動く事ができるようにはなったが、脳が一部損壊したために不具合が生じた。
命令には従順だが自分の意思では動かず、体の経験を基にした行動を取る。
パッと見では正常だが、内面は虚ろ。
だからといって脳は弄れない。脳は複雑で難解な構造だからね…さらに壊れる可能性がある。
リト君の協力の下、死霊術を駆使して少しずつ楔を修復することにした。
リト君からは「長年アンデッドを扱うけどこんなの初めてだ」と言われた。
現在はちゃんと自分の意志で動くまでに回復している。
元々生き物の体は残された部位を用いて、欠けた機能を補うようになっているからね。
時間をかけて少しずつ直せばいい。
ちなみにフェアダンプ出身である彼は、体の水分量がほぼ飽和状態にある。
水分補給は気にしなくてよさそうだ。
飲み物が飲めないのは可哀想ではあるけど。
Case4:ジェームズ・ロナウド
水飲み鳥の形をしたA級シャドウ「ジクロン」による
人間の液状化事件があり、救援要請で駆けつけた。
私が来た頃には討伐は終わっていて、ジェームズ君が液状化されていた。
濁った血清が人の形をしている感じでドロドロだった。
声帯がないので鮮明な声が出ず、対話が難しい状態だった。
予め作成していたカプセルに容れておいた。
別に彼でなくても、溶けた彼らを使おうかなと思っていたからね。
小さいながらも丸々入る特殊な構造にしてあるし、簡易通訳機を取り付けているので対話が可能だ。
さて、肝心な器はエルバート君と違って再現しやすいので。
少しは体液を採取しても平気らしい。
なら体液を元にクローンが作れるだろう。
さて、この液体人間を体に容れるのは良いとしても、クローンは脆くて寿命が短い。
交換しやすい単純な作りにすることにした。
モノ扱いするのは気が引けるが、体の量産は可能だからね。
すぐ死ぬのももったいないので、少し遺伝子構造をいじって普通の人間より丈夫な体にしておく。
次にクローン体の脳の部位をカプセルスロットに改造。
で、本体の一部を血液の代わりに流れるようにする。
こうしてカプセルスロットに本体を嵌め込めば稼働する。
Case5:レガーナ・シェイド
A級破壊系シャドウの「ポルボル」の討伐で、入隊試験を兼ねて参加させていた。
ポルボルは手当り次第に爆破させたり、機雷をばら撒くシャドウで、なるべく急いで討伐を済ませたかった。
奴は異常に硬い装甲で苦戦したね。
だが装甲を破壊さえすれば中身は脆いものだ。
レガーナ君は白影を使って機雷を運び、至近距離で自爆することで装甲を剥がすという無茶な作戦を実行した。
だが彼女は普通の人間だ。死ぬに決まっているだろう。
怯んだ隙を狙って私がとどめを刺した。
勿論彼女は死んだし、体が爆発で消失した。
だが白影が魂を咥えて維持していた。
私はこんな可愛い弟子を失いたくは無いからね。
「なあリンドヴルム、主人を生かしたいかい?」と聞いた。
白影はコクリと頷き、
「ええ、この私をこの世に呼び戻した恩人ですので。」
と言ったのでYESと認識し、
魂を妖魔の一部と結びつけて人工妖魔として再生する方法を提案した。
すると白影は驚いた。
まあ、無理もない。
こんな技術は100年以上前から失われている。
その上、彼女を白影の眷属にするということでもある。
なんとか再現しようとする奴もいるけど、
誤った方法を必ず取ってしまうから普通は失敗するんだ。
私は正しい方法で実行した。
まず白影から欠片を貰う
↓
欠片に魂を詰め込む
↓
死霊魔法ではなく零式「回生」を使う
↓
後は本人の意志次第という感じだ。
拠点に移して経過観察する事にした。
吸血鬼の誕生の様に、スライム状から一週間かけて形が安定して、ヒト型に無事再生できた。
でも元より幼く、中性的な姿になって再生したのは驚いた。
どことなく彼女の婚約者であるエルダー君に似ているが、
自我や記憶を完璧に維持していたから大成功だ。